第72話 魔法の特訓② RIDE ON!
そこからまた数日、クロエちゃんは水球の形状変化が、上手く出来るようになった。
「はい!じゃあクロエちゃん、そこにある小石をその水の上、中央に乗せて、小石を落とさないように、水を地面の上で滑らせてみよう」
「……それってかなり難しいんじゃ……」
「あ、気が付いた?そう。これは魔力制御の次の段階、魔法制御って言えばいいかな?地面に触れてる下の部分と、小石を乗せてる上の部分じゃ制御の仕方が違うからね。そうだなぁ……小石は水にくっついちゃってる……みたいなイメージをすると良いかもしれないよ」
これはなかなか大変だろうね。
でも大丈夫!クロエちゃんの水魔法の才能なら、一度コツを掴めばすぐ上達するよ。
お!エミリーちゃんも、影のチカラで小石を動かせるようになってるね!良いよ良いよ!じゃあ動かす小石のサイズを、徐々に大きくしていこうか!
それにしても、本当にエミリーちゃんも凄いね!魔法が好きなのかな?
「私、もうすぐ他国にある学園に行くんです。伯爵家令嬢として、そこで無様な格好を見せる訳にはいきませんので、何か一つでも今の内に身に着けておきたいんです!」
う~ん……まだ10才なのに、貴族令嬢の誇りってやつなのかな?でもひたむきな姿勢は好感が持てて、私は好きだよ。
さらに翌日、クロエはすっかりコツを掴み、小石を落とさず平べったいスライム状の水を、スイスイ動かせるようになった。
エミリーも順調に上達していき、二人はマリアが土魔法で作った50㎏ほどの石を、難なく動かせるようにまで成長。
「うん!ここまでくればもう完成に近いね!じゃあクロエちゃん、その水にクロエちゃん自身が乗って移動してみよう!」
「わっ!私がですか!?やってみますー!」
クロエは恐る恐る水に乗ると、ゆっくりと移動を開始する。
うん、しっかりと足も固定されてて安定してるね。
「出来ました!マリア様わたし出来ましたー!!」
「さすがだよクロエちゃん!そのまま感覚に慣れるよう、しばらく練習しててね。さぁ次はエミリーちゃんだよ。影のチカラで自分を移動させてみて」
「分かりました!」
エミリーは建物の影の中に立ち、影のチカラでゆっくりと移動を開始した。
「で……出来ましたわ!私にも出来ましたわお姉さま!」
よく頑張ったね。それもこれも二人の努力の賜物だよ。
クロエは「キャッホーイ」と楽しそうな声を上げながら、波乗りならぬ水乗りを楽しんでいる。
え?クロエちゃん建物の壁を垂直に登ってるけど、足の固定化が完璧だね……てか上達早すぎないか!?
ん?エミリーちゃん、そんな悲しそうな顔をしてどうしたの?
「お姉さま……私は影が無いところでは、クロエのように移動できないのですよね……」
「あ、鍛錬は建物の影をずっと使ってたもんね。でも大丈夫。ちょっと建物の影から出て、自分の足元を見てみて」
エミリーは言われた通りに移動し、自分の足元を見ると、ハッとした表情になる。
「お姉さま……自分自身の影を使うって事ですね!?」
「そう!クロエちゃんの水魔法と違って、エミリーちゃんの闇魔法の場合は常に影が存在しているから、発動も早いってメリットがあるよ。足の裏の影は常に足の裏にあるから、魔力が続く限り永遠に移動できちゃうね」
「むぅ……エミリーお嬢様の方が、私のより良い事があるってことですかぁー!?」
「んー、それぞれにメリットやデメリットはあるよ。例えばクロエちゃんの方だと、水の厚みがあるから、ちょっとした段差とかも気にしなくて良いよね。でもエミリーちゃんの影の方だと、魔力を込めた影だからほんの少し厚みが出来てるけど、段差とかは軽くジャンプしたりしないと躓いちゃうね」
二人は、ほえぇぇえ~っとした顔でマリアの話を聞いている。
クロエちゃんもエミリーちゃんも、問題なくこの魔法を使えているね。
「二人とも良く頑張ったね。ちなみにこの魔法の名前は、クロエちゃんの方が『アクアライド』、エミリーちゃんの方が『シャドウライド』だよ」
((かっ……かっこいい!!))
さて、じゃあここからが本当の本番だ。
「二人とも魔法を解除して私の前に来て。そして魔法名を唱えて、即座に魔法を発動してみよう!」
二人はマリアの前へ立ち、お互いの顔を見合わせたあと、意を決して魔法名を唱えた。
『アクアライド!』
『シャドウライド!』
エミリーの体がほんの少し空中に浮いたように感じる。どうやら成功したみたいだ。クロエの方もエミリーからやや遅れて、足元にスライム状の平べったい水が集まり、クロエの体をふわりと乗せた。
「やりましたわ!私やりましたわお姉さま!」
「マリア様!私もちゃんと出来ましたー!!」
うんうん。ちゃんと見てたよ。
マリアは二人の頭を撫でながら、衝撃の事実を告げた。
「二人とも気がついてる?詠唱してないってことに」
「「…………!?」」
クロエちゃんもエミリーちゃんも、驚いた顔のまま固まってるね。そもそも私が考えたオリジナル魔法って、どれも詠唱なんて存在してないんだよなぁ。だって自分で呪文を考えるのって……めちゃくちゃ恥ずかしいじゃん?
おや?エミリーちゃん、泣き出しちゃってどうしたの?
「初めての……初めての魔法が……無詠唱なんて……まるで自分が、御伽噺の英雄になったような気分ですわ!!」
マリアは二人を微笑ましく眺めながら、もしかしてやり過ぎちゃったか……と、背中に冷たい汗を感じるのであった。




