第70話 聖女特別領地
「なにぃぃいい!?『呪われた地』を解放し、その地にいた古龍と仲良くなったじゃとぉぉおお!?」
マリアの目の前で、国王が盛大にズッコケている。
あの後こっそりと王都へ転移したマリアは、諸々の報告をしに国王のもとへと来ていた。
ちなみにマリアが国王へ会いに行くのに、先触れなどは必要なく、顔パスで王城内に通してもらえる。
救国の英雄であるマリアに対して、当然の措置と言えた。
「はい。それで陛下にお願いがありまして、国中に御触れを出して頂きたいのです」
「う、うむ。マリア殿の頼みとあれば断るはずがない!して内容は?」
この日から数日後、ロートリンデン王国の空で、優雅に飛び回る古龍が目撃された。
古龍とは、言ってしまえば災害である。
だが飛び回る古龍を目撃した王国の民たちは、すぐに恐怖から解放された。
王国から国中に出された、御触れの効果である。
長年近寄れなかった『呪われた地』が、虹の聖女マリア様により解放され、その地にいた古龍と聖女様は友好関係にある。また今後その地は、聖女マリア様が治める事になるが、悪意を持ってその地に近づき、古龍に喰われてもそれは本人の責任である。
ざっくりとこんな内容の御触れが出たため、あの古龍は王国を襲いに来た訳ではないと、民たちは理解したのだ。
ちなみに、御触れが出る直前にドライゼンが国中の空を飛び回ったのは、マリアからの頼みだったからだ。
本当に古龍が住んでいると知らしめれば、愚かな事を考えてあの地に近づく者は減るだろう。
また、聖女に爵位を与える事は、公然と国に縛り付けると同義になるため、他の国の手前それは出来ない。
しかし『呪われた地』は聖女マリアが治める事になるため、『聖女特別領地』とされ、扱いとしては一つの国に近いものとなった。
王様たち、なんか色々と考えてくれたみたいで感謝だね。
私としては国なんて持つつもりはないし、あくまでロートリンデン王国のメイン拠点にさせてもらうつもりだよ。
それより困ったのは、『聖女特別領地』に街をつくる事になったことだ。
国王様や宰相さんから「マリア殿の治める地であれば、移住希望者が殺到すると思うぞ」と言われたのだが、聖女商会の大規模拠点を作るつもりだったけど、街かぁ……
よし!丸投げしよう!
マリアは街の構想図を描き、国中から大工や石工などの作業員を募った。
現場監督となる人物たちは王様たちが用意してくれ、材料費は前払い、作業員の給金は毎日その日に支給、さらに通常よりも多い額という事もあり、あっと言う間に大量の人員を確保することが出来たのだった。
私が魔法を使って色々と作っても良いけど、貯まる一方のお金を放出しないとね。
さて、聖女特別領地の街作りは任せて、私は聖女商会の次の商品を……いや、クロエちゃんとの約束が先かな!
───◇─◆─◇───
「と言う訳で、魔法の訓練を始めたいと思います!」
「はい!よろしくお願いしますマリア様!」
「よろしくお願いします!お姉さま!」
クロエちゃんと魔法の訓練をする約束をしてたんだけど、その話を聞きつけたエミリーちゃんも参加する事になった。
エミリーちゃんは10才だし……魔法の鍛錬を始める年齢か。
「ところでエミリーちゃんは、どんな魔法が使いたいとかって、希望はあるのかな?」
「希望と言いますか……私はお母様と同じ、闇魔法の適正があるみたいなんですが……」
ああ、そういう事か。闇魔法って初級魔法が存在しないんだよね。どの魔法も中級以上だから、鍛錬が難しいらしいんだよね。
うーん……どうしようかな。
「決めた!二人には、私が考えたオリジナル魔法を習得してもらうね!」
「「えええええええ!?」」
「ん?オリジナル魔法は嫌だった?」
「「嫌じゃありません!!」」
「ん。それならまず二人には、風魔法を一つ習得してもらうよ」
「「風魔法??」」
私が二人に教えたいオリジナル魔法は、風魔法と併用することで、能力が格段にアップするんだよね。簡単な風魔法だから、エミリーちゃんも基礎の鍛錬がしやすいだろうしね。
「まず覚えてもらうのは『エアブラスト』だよ」
「え?マリア様、エアブラストは中級風魔法ですよ?」
「そうだね。突風を起こして相手を攻撃する中級風魔法だけど、今回はそこまでの威力を出せなくても大丈夫。だからプチ・エアブラストって感じかな」
「プチ・エアブラスト……なんか可愛いですわね、お姉さま!」
じゃあ早速始めようかな!エミリーちゃんはまず体内の魔力を感じて、それを手の平から放出する鍛錬からだね。クロエちゃんは私が使うエアブラストを見て、イメージを膨らませようね。
私が考えるに、魔法を上手に使うには色々なコツがあるんだよね。例えばそれはイメージだったり、自分には使えて当たり前だという強い思い込みだったり、その現象がどうして起こるのかの理解だったり……まぁ色々とある。
こっちの世界の人達って、魔法が昔から存在しているから、使えて当たり前だという、強い思い込みが先行している。でもそれが先行しすぎていて、新しい発想に乏しいんだよね。実に勿体ないよ。
この日から毎日数時間、三人での楽しい魔法の訓練が始まった。
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