第68話 クロードの妻と娘
王都は連日連夜、お祭り騒ぎだ。
マリアが献上した、改良版の街灯が徐々に設置されていき、その驚きの効果と機能も国民たちを盛り上げた。
一方、マリア達オーレン組は、ロートリンデン王国全てへ、聖女商会の商品販売を開始するため、帰領の途についていた。
「マリア殿、オーレンに戻ったら、お願いしたい事があるのだが……」
「改まってどうしたんですかクロードさん。私に出来る事でしたら協力しますよ」
「ありがとう。実は王都にいる間に、妻と娘がオーレンに戻ったと連絡があってね。その妻の事で頼みたい事があるんだ……」
おお!クロードさんの奥さんとお子さん、オーレンに戻ったんだね。
でも私にお願いってなんだろう……と詳しく話を聞いてみたら、なるほど!そういったお願いなら、確かに私が解決できそうだね。オーレンに戻ったらすぐに対処しよう。
───◇─◆─◇───
「お父様!お帰りなさいませ!」
オーレンの伯爵邸に帰って来たら、ドドガさんやレオナさんにサンジュさん、その他の使用人など総出で出迎えを受けたんだけど、その中に知らない女の子が一人。
薄いオレンジ色のドレスに身を包んだ、クロエちゃんよりも年下に見える金髪の令嬢。瞳の色がクロードさんと同じ、綺麗なブラウンだね。この子が娘さんかな?
「貴女が虹の聖女様ですね?初めまして。私はエドガー・ラ・クロードが娘、エミリー・ラ・クロードと申します」
さすが上級貴族の娘さん!美しいカーテシーで挨拶をしてくれた。
「ただいまエミリー。リサはどこにいるんだい?ああマリア殿、妻のリサが挨拶に出て来なくてすまないね……」
「お母様は自室に籠っていて……聖女様、申し訳ありません……」
「いえいえ、お気持ちは理解していますから大丈夫ですよ。それより奥さんの所へ急ぎましょう」
私とクロードさんは、不思議そうな顔をしたエミリーちゃんを連れ、奥さんの自室へと向かった。
「……リサ、聖女マリア殿と一緒に帰ったよ。部屋に入るよ?」
「…………」
返答は無いが、私達は奥さんの部屋へと入った。
奥さんのリサさんは窓辺の椅子に座り、外の景色を眺めているようだ。
私達の方へ振り向いたその表情は、全ての感情が抜け落ちてしまったようだった。
とても美しいのに、まるで生きていないような顔をしている。
マリアの目には見えていた。細く、薄い紫色に緑色、そして黒色、三色の紐状のモヤが絡み合い、リサの身体に巻き付いているのが。
「なるほど……確かにこれはクロードさんから聞いていた通り、呪いですね。しかも複数の呪いが絡み合っています」
「な!複数って……マリア殿にはそれが分かるのかい!?」
「はい。何故か私には、呪いが目に見えるんです」
帰りの馬車の中でクロードさんに聞いたけど、リサさんは若い頃に帝国の貴族から無理やり結婚を迫られ、それを諦めさせるために、自分自身に呪いをかけてしまったらしい。だけどその呪いは、上級の解呪魔法でも打ち消せないものだった。
まったく……また帝国か。
でも呪われた事を知っても、リサさんと結婚したクロードさん……本当に愛しているんだね。
こんな悲しいことはさっさと終わらせよう。
「では早速ですが解呪してしまいましょう」
「え……聖女様……私の呪いを解呪できるのですか……?」
「そうですね。この程度であれば、私の魔法だけで問題ないでしょう」
「本当……ですか……」
あれ?リサさん何か迷ってるようだけど、どうしたんだろう?
「リサ?マリア殿ならきっと解呪してくれるさ!不安なのかい?」
「……違うんです。これは……自分でかけてしまった呪い……不本意な結婚を避けるためとは言え……この呪いが解けないのは、自分自身への罰だと思うんです……」
ああ、長年呪われ続けたせいで、心が弱ってしまっているね。
それが良い方向へ傾くことだとしても、変化を恐れてしまっているのかもしれない。
「リサさん、もしも今の状態が罰だとしたら、もう十分に罰を受けたと私は思います。聖女である私が言うのですから、間違いありません」
「……聖女様……」
マリアは詠唱はしなかったが、様式美も大切かもなと思い、魔法名を口にした。
『サンクチュアリ』
美しく優しい光がマリアを、そしてリサを包み込むと、リサに絡みついていた複数の呪いは一瞬で霧散した。
そして光が落ち着くと、リサはぎこちなくも、驚いた表情をしている。
長年ずっと無表情だったんだもんね。表情筋をほぐしていけば、いずれ違和感なく表情を取り戻せるだろう。
「リサ……表情が……」
「お母様!いま……驚いた顔をしていますよお母様!!」
「うそ……私……本当に呪いが……?あなた……エミリー……」
そう言うと、リサはポロポロと涙を零した。
「リサ!」
「お母様!」
抱き合う三人を見ながら、少し羨ましいなと思うマリア。
と思っていたら、部屋のドアが勢いよく開き、邸の使用人達がなだれ込んで来た。
「「「「「奥様ぁぁぁああ!」」」」」
クロエちゃん含め、使用人たち全員が泣きながら喜んでいるね。
これからは今までの分、たくさん笑顔になってねリサさん。




