閑話 グレブダの冒険 目撃
俺の名はグレブダ。
ランクCの冒険者だ。
あの日は、ロートリンデン王国が滅亡しちまうかと思った。
遠目に見える王都に、大量の魔獣が群がっている様子に気がついたが、俺のいる場所からじゃあ、どうしたって間に合う距離じゃなかった。
じわじわと王都に迫る魔獣の群れを、俺はただ眺めているしか出来なかった。
だが国側も精鋭を出していたんだろう。
魔獣を押し返してるところもある。だが北門の方向は絶望的だ。あんな数の魔獣、単なるスタンピードじゃねぇ。
俺は自分の無力さを痛感したよ。
だが、戦局は一変した。
一発だ。たった一発だった。
王都側から、とんでもないデカさの大火球が、魔獣の群れに放たれたんだ。
あれは上級火魔法の『グランドインフェルノ』に似ていたが、規模も威力も段違いだった。もしかしたら俺の知らない、特級魔法なのかもしれない。
国もとんでもない隠し玉を持ってたもんだぜ。
凄腕の魔法使いが、何人も集まって行使するのが特級魔法だ。
だったらあの威力も納得できるわな。
戦況は覆り、ホッと胸をなでおろしたのも束の間……とんでもない化物が現れやがった。
遠くからでもハッキリと分かる、巨大なフォルム。
ナマで見た事はなかったが、ありゃ間違いなく古龍だ。
震えたよ。
王都から遠く離れた場所にいる俺でさえ、足が震えるんだ。
住人達は確実に死を覚悟してたろうな。なにせ古龍は災害・厄災とか、とにかく回避不可能の死だと言われているからな。
そしてその古龍の口から、死が放たれるのが見えた……見えたんだが、地面に向かって放たれたそれが、何故か跳ね返って空を貫きやがった。
何がどうなってるのか、俺のいる場所からじゃよく分からない。
しばらくしていると、古龍の近くからあの大火球が飛んでいくのが見えた。
まさか前線にも、特級魔法を行使できる実力者たちを配置してるとは……ロートリンデンは俺が思っているよりも、人材が豊富らしい。
だが大火球は、古龍には効いてなさそうだった。
そして……あの古龍、王都に向けて死を放ちやがったんだ……
だがまただ!王都に直撃する寸前に、またそれは空を貫いた。
俺が思うに、古龍のあの攻撃を防いだのも特級魔法なんだろう。
すげぇ守りだ。
だが古龍を倒せる攻撃はない……と思った瞬間だった。
古龍がすげぇ綺麗な光に包まれたと思ったら、いつの間にか消滅しちまったんだよ。
そして王都から、地鳴りのような歓声が聞こえてきた。
一体何人の魔法使いが集まれば、古龍を一撃で倒せる特級魔法を使えるんだ?
まったく……すげぇ奴らってのは、たくさんいるもんなんだな……
あの魔法を行使した奴ら、20人なのか30人なのか……今頃ロートリンデンじゃ、英雄様扱いだろう。
別に羨ましかねぇさ。
俺はいつか一人で古龍……はさすがに夢物語すぎるから……ブラックドラゴンを一人で討伐できるような、強い冒険者になってやるさ。
俺の名はグレブダ。
ランクCの、真の冒険者を目指す男だ。




