第66話 褒美を下さい
古龍ゾンビから王都を救ったマリアは、王城の一室にした。
室内には国王と宰相と、マリアの三人だけだ。
王都内はまだ混乱が続いているため、貴族達を集めての報告会は後回しとし、まずはこの三人で情報共有となった。
「なんと……その親玉らしき者は、この国を滅ぼすと言ったのか……」
「陛下、やはり此度の件は、帝国が関わっているでしょうな」
やはりって宰相さんが言うけど、私の誘拐だけが目的じゃないって事かな?
「帝国がロートリンデン王国を狙う理由が、何かあるんですか?」
「……マリア殿はこの国に、『呪われた地』と呼ばれる場所が存在している事を知っているかな?理由は分からないのじゃが、帝国は昔からその地を狙っているのじゃよ。しかしまさか古龍ゾンビ等を隠し持っておるとは……」
「犯人一味は全て死亡してしまいましたし、帝国は知らぬ存ぜぬで、まともに取り合わないでしょうな……」
詳しく聞いてみると、生き残ったルグロ子爵をそそのかした者は、帝国関係者かは分からないとのことだった。
身元のハッキリしない者の口車に乗るなんて……ルグロって貴族はよほど欲深かったんだろうね。
ただもしも帝国が関与していたとして、その帝国はかなりの痛手だっただろう。なにせ切り札であろう古龍ゾンビが倒されてしまったのだ。
通常、古龍が他者に使役される事はまず考えられないらしいし、あの古龍ゾンビだって完全に制御は出来ていなかったのだろう。
王都には大した被害もなかったし、まぁいいか!
とはマリアはならなかった。
可愛がっているクロエを、危険な目に遭わせたのだ。
このままでは面白くない。
「国王陛下、今回の件で頂戴したい褒美があるのですが」
「む?マリア殿は王都を救ってくれた以前に、肥料や魔道具の件もある。出せる褒美はなんでも出すから遠慮はいらぬぞ」
「では……『呪われた地』を、私に頂けませんか?」
「「えええええええ!?」」
帝国が欲しがっている『呪われた地』を私が治め、大陸中に聖女が治める地だと広めれば、そう易々と手出し出来なくなるだろうからね。
今回の件で、『呪われた地』の解放も何とかなる気がしたし、クロードさんの隣の領地ってのも都合が良い。
王様も宰相様も、危険な場所だからって最初は困惑していたけど、私の実力も理解していたから了承を得ることが出来た。
それ以外に王城内の書庫への立ち入りも認められ、マリアは様々な知識を『超速読』で得たのだが、あまり感動はなかった。
幾つか上級魔法の情報があったんだけど、どれもこれも力任せの魔法みたいで、なんか面白味がないんだよねぇ。
王都襲撃から数日後、事後処理が落ち着いたので、各貴族とマリアは王城に集まっていた。
事前に国王にはいらないと言っていたのだが、他の貴族の手前そうもいかないと、マリアは褒美の一つとして、白金貨1万枚を受け取ることになってしまった。
白金貨1万枚って……まぁ救国の英雄みたいなものだし、このくらいの報酬があって当然なのかもしれないね……お金がどんどん増えてしまうなぁ。
諸々の授与等が終わると、少し緩い空気となり国王が語りだす。
「ところでマリア殿はその……もう婚約者はいるのかね?この国に滞在するのであれば、マリア殿に見合う者もいるかもしれないと思ってだな……」
国王の言葉と同時に、その場にいる貴族達が殺気立つのが分かる。
莫大なお金を持ち、完全無詠唱で魔法を操り、未知の魔道具の知識を有し、一騎当千以上の戦闘能力を持ち、世界初であろう虹の聖女様である、若く可愛い少女。
そんなマリアを、自分の妻に、息子の妻に……そう考えない貴族はいないだろう。
だが残念ながら、マリアは結婚するつもりは一切ない。
結婚するためにソウラリアに来た訳ではないのだから。
「婚約者はおりませんが、私にはやるべき事がまだまだあります。結婚は当分するつもりはありません。あ、もしも私に結婚話やお見合い話を持って来た方がいたら、その方の領地には聖女商会の商品は一切販売しませんので、そう国中に御触れを出して頂けると助かります」
マリアの発言を受け、一気に青ざめる貴族達……だけでなく国王も。
国王も私を、王子の相手にとかって考えていたクチかな?だけどそんな事に時間を割いている暇はないし、貴族たちからお見合いの相談とかを、懇意にしているクロードさんにされたら、迷惑が掛かっちゃうからね。
こういった事は早めに、ハッキリと芽を摘んでおいた方が良い。
さて、この後はラナーさんと教皇様に会うために、教会へ行かないと!




