表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たたかう聖女さま  作者: 桜花オルガ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/115

第64話 王都防衛戦⑤ 災厄きたる

 さっきのあの黒い水晶玉は、魔道具だったのかな……隙を見て水晶を奪おうと思ったのに、まさか握りしめるだけで壊れて発動するなんてね……



 マリアの目の前では、大量の黒い煙が竜巻のように渦を巻き、薄暗い空では雷が鳴り響いている。


 ただ事ではない状況に、後方にいた冒険者や王都軍たちが、マリアの元へとやってきた。



「聖女様!一体なにが起きているのですか!?」


「皆さんすみません。親玉と見られる男が、自分の命と引き換えに魔獣を召喚したようです。犯人一味の命も尽きているでしょう。それよりもここは危険です!すぐに街へ戻って下さい!」



 マリアがそう話していると、激しく逆巻く渦の中から、巨大な何かの腕がヌッと出てくる。



「ゴロ……デ……ゴ……ゼェ……」



 呻き声のようなものを上げながら、ソレはその姿を現した。



 それはとても巨大だった。


 身体のあちこちが腐敗しているのか、ところどころ肉が崩れ去っており、その肉の隙間から黒い炎が噴き出している。


 二度と飛ぶことが出来そうもない、ボロボロの大きな羽。


 どんな物でも突き破ってしまいそうな爪。


 なんでも喰い散らかしそうな凶悪な牙。


 一振りで城壁を砕いてしまいそうな長く太い尾。


 真っ赤に輝くギョロリとした二つの眼。


 その立った姿は、50m近くはありそうだ。



「ド……ドラゴン……ドラゴンゾンビだぁぁああ!!」

「ただのドラゴンじゃねぇ!こいつは……()()だ!!」

「古龍ゾンビだと!?そんな奴聞いた事ねぇぞ!!」



 目の前に現れた怪物に、さすがの冒険者や王都軍もパニックになっている。


 マリアもパニックには陥っていないが、その存在感に少々驚いていた。



(『叡智』さん、この魔獣って相当強そうじゃない?)


《古龍はこの世界で、最も強大な力を持つ種の一つと推測。さらにアンデット化しているため、理性も無いものと判断》



 う~ん……これは本当にヤバそうな相手だね。


 ここまで大きな生き物を相手にしたことないし、私ってこれと戦えるのだろうか?


 マリアが思考していると、古龍ゾンビが大口を開け、膨大な魔力を練り上げる。



 あ……これ駄目なやつだ!



「皆さん急いで退避して下さい!こいつの相手は私がします!」


「せっ聖女様を置いて逃げるなど--」



 その瞬間、マリア達へ向け、古龍ゾンビの口から強大な、黒い魔力砲が撃ち込まれた。



 ボッ……と音がしたかと思うと、次はキュンッ……と音がし、気が付くと空に拡がる雲に、大穴が空いていた。



「ふう……どうやら私の『バリア』の勝ちですね。皆さん!近くに誰かいると守り切れるか分かりません!急いで退避を!」



 冒険者や王都軍は、自分達に訪れたはずの確実な死と、それから守ってくれた幼い少女に混乱したが、何とか王都へ向けて駆け出す。


 この場に現役のランクS冒険者がいれば、また違ったのかもしれない。


 だがここは辺境のロートリンデン王国。


 上位冒険者はあまり集まってこないのだ。



 王都は先ほどとは打って変わって、絶望ムードに包まれていた。王都からでもハッキリと見える巨大な魔獣。なぜか魔獣の吐き出した攻撃が空へと向かったが、冒険者や王都軍が逃げ帰って来ているのが見える。


 冒険者や軍の精鋭たちが、戦いを諦めるほどの魔獣。もうダメだ……自分達は、この国は、今日終わってしまうのだ……と。



 マリアは古龍ゾンビへ向け『ピュリフィケーション』を放つが、一瞬だけ怯む様子を見せるだけで、効果はなさそうだった。『ハイヒール』も同様だったため、アンデットとは言え古龍ゾンビは簡単な相手ではないようだ。


 続いてマリアが行使したのは『グランドインフェルノ』だったが、これも意味を成さなかった。



 そうだよねぇ……身体のあちこちから黒い炎が噴き出してるし、炎耐性があるんだろうね。でも私は他の上級魔法は知らないし、中級魔法じゃこの古龍ゾンビには効かなそうだしなぁ……ん?でもあの黒いのって炎なのかな?あれって……



 マリアが考察を重ねていると、突如として後方から大声援が聞こえてきた。


 絶望に包まれていたはずの王都からの声。


 それはまだマリアが一人戦っていることを、冒険者や王都軍が伝えたからではない。


 あの怪物の元で、絶対にマリアが戦っていると理解している者が、王都にいたのだ。



「皆さん!皆さんのためにあの怪物と、マリア様が……虹の聖女マリア様が戦っています!マリア様は常に、皆さんのために行動しているんです!私達は絶望している場合じゃないんです!私達は信じていると……マリア様が勝つと信じていると、声を届けるのです!!」



 兵士が制止するのも振り払い、王都城壁に登った()()()姿()()()()()


 その幼い女の子の声は、なぜか王都全てへと響き渡り、王都に住まう者の心へ届いた。



 その14歳の女の子の声は、聴覚を強化しているせいかどうかは分からないが、マリアにもハッキリと聞こえた。



「そ……そうだ!聖女様が負けるはずない!」

「聖女様がんばれー!そんなトカゲやっちゃえー!」

「王都を守ってくだされ!聖女様!!」

「マ・リ・ア!マ・リ・ア!マ・リ・ア!」

「うおおおお!信じてるぞぉぉおおお!!」



 ……まったく。クロエちゃんにあんなこと言われちゃ、負ける訳にはいかないね!




 古龍ゾンビが再び大口を開け、膨大な魔力を練り上げるが、その口はマリアではなく、()()()と向けられていた……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ