第62話 王都防衛戦③ 投げれますけど?
王城を飛び出したマリアは『聖なる身体操作』で肉体を強化し、『サーチ』を展開する。
スケルトンウォリアー、ダークウルフゾンビ、オークゾンビ……兵士さんが、出現している魔獣はアンデット系のみと言っていたけど、どれもこれも実体がある系の奴らみたいだね。それにしてもウジャウジャいるな。
混乱を狙ったのか、警備が厳重だから諦めたのか、出現場所は貴族街ではなく全て平民街みたいだね。
一番近くの出現ポイントに、ジュラールさんの反応がある!あそこから片付けよう。
マリアはさらに速度を上げ目的地へと向かった。
「怯むなっ!我々が王都を!民たちを守るのだぁぁあ!!」
「「「「「おう!!!!!」」」」」
現地ではジュラール率いる騎士団や、他の貴族家の私兵たちが入り乱れて奮闘していた。
「ジュラールさん!状況は?」
「むっ!?マリア殿!!なぜこのような場に!いや、あの奥の建物から魔獣たちが召喚されておるのですが、ご覧のように大量に溢れ出る魔獣により先に進めないのです」
騎士団の人達の方が明らかに強いけど、魔獣にずっと湧き続けられたら体力が持たないね。アンデット系って、回復魔法とか浄化魔法に弱いってのが、ファンタジー世界ではセオリーだったはず……
マリアがオリジナル魔法の『サンクチュアリ』を行使すると、マリアは半径10mほどの円柱状の光に包まれる。
その光に触れた瞬間、魔獣たちは魔石だけを残し、塵となって消えていった。
よしよし。『サンクチュアリ』には『ピュリフィケーション』の魔法が組み込んであるからね。効果があると思ったよ。
その場にいた騎士団や私兵たちは、何が起こったのか理解できず、ポカーンとした表情だ。
「ジュ、ジュラール殿。貴殿と話していたあの少女は何者なんだ?」
「あの少女は……あの方は、虹の聖女マリア殿だ!」
「「「「「虹の聖女様!?」」」」」
「ジュラールさん!私はこのまま建物内に入って元を断ちます!打ち漏らしの処理はお任せしますね!」
マリアはそう告げると、『サンクチュアリ』を展開したまま、建物の中へと突っ込んで行った。
どんどん消滅する魔獣に、少し哀愁すら感じつつ建物内部に入ると、怪しいフードを被った男達が、床に描かれた魔法陣の周囲に立っている。
「なっ!何者だ貴様ぁぁあ!その光はなんだぁぁあ!?」
「ほうほう、それが召喚魔法の魔法陣ですか……なるほど、だいぶ不完全ですね。道理で雑魚魔獣しか召喚できない訳です」
「ふっ!ふざけるなぁぁあ!我々六人でやっと行使できる召喚魔法が不完全だとぉぉお!」
「……六人も用意しないと行使できない、六人用意してもあの程度の魔獣しか召喚できない……不完全ですよ。ですが今はどうでも良いです。その魔法陣、壊しますね」
マリアは右拳に『バリア』を纏わせ、魔法陣の描かれた床に叩きつけたのだが……
「あ……ちょっと加減をミスりましたね」
床が粉々に砕け散ると同時に、建物自体がガラガラと倒壊し、マリアとフードの男達は瓦礫に埋まってしまった。
「マッ!マリア殿ー!!」
「あ、ジュラールさん大丈夫ですよー!」
建物の倒壊に焦ったジュラールが叫んだ瞬間、目の前の瓦礫が一瞬で消え、『バリア』に包まれたマリアと、気を失っているであろう怪しい男達が姿を表した。
「マリア殿……瓦礫は……それとその男達が犯人一味ですかな?」
「瓦礫は『次元収納』に入れました。この人達は一味ですので、拘束をお願いしますね。怪我人はいますか?いなかったら私は次の場所へ行きます」
「我々は大丈夫です。此奴らの拘束、確かに我らが承りました!」
ジュラールの言葉を聞いたマリアは、近くの建物の屋根へ飛び乗ると、あっと言う間に騎士団たちの視界から消えていった。
次の魔獣出現ポイントも同じように処理し、マリアは王都内の最終ポイントへと向かう。
『サーチ』ですでに分かっているけど、どうやら魔獣の量が一番多いね。
現地に到着すると、兵たちが魔獣の物量にだいぶ押されているのが分かる。
「いいかお前ら!絶対に王都を守り抜くんだ!」
「鍛錬の成果を今日こそ見せろ!!」
「何としても民たちに危害を与えさせるな!」
「ぐわぁああ……くそ、腕をやられた!」
「ポーションはもう尽きた!怪我人は下がれ!」
「拙いぞ……このままでは物量で……」
かなり押されてるようだけど、死者は出てないようだね。間に合って良かった。
「くそ……くそっ!!怪我さえなければ俺はまだ戦えるの……に?え?怪我が……俺の怪我が治っていく!?」
一人の兵が声を上げると、周囲の怪我人たちから同様の声が上がり始める。
「この光と効果は……『ハイヒール』なのか?一体どうして……」
「あ!あそこ!あの建物の屋根の上だ!」
「え……嘘だろ……そんな事ってあるのかよ……」
兵たちが見上げる先には一人の少女がいた。
そしてその少女は、怪我人に向けて『ハイヒール』を投げている。
「「「「「なんじゃそりゃぁぁああ!!」」」」」
「え?火や水や土の魔法だって投げれるじゃないですか。回復魔法だって投げれて当然ですよ?」
「「「「「ええええええええ!?」」」」」
「あとこれ、『ハイヒール』じゃなくて『ヒール』です」
とんでもない事をしながら可愛い笑顔を見せる少女に、周囲は魔獣そっちのけで釘付けとなるのであった。




