第53話 限定商品② たたき台
自分のお役目は一体なんなのかと、ラナーが身を乗り出しながら待っている。
「悲しい事ではありますが、このポーチが遺品として回収される場合もあると思います。そしてその遺品が家族の手に渡ったとしても、中身を確認できないのでは残された家族が可哀想です」
もしもポーチを遺していった冒険者に家族がいたら、家族を支える大黒柱だったら、金庫代わりに使っていたら……中身は当然残された家族の手に渡るべきだ。
だから私はカリナにある事をお願いをした。
「残された家族の誰かが遺品のポーチを持ち、教会の水晶に触れながら自分は家族である、犯罪行為によってこのポーチを入手した訳じゃないと宣言することにより、そのポーチはその家族へと持ち主登録が変更されます。カリナに了承は得ているので、教会側が水晶の使用について許可をくれれば問題ありません」
「なんと……それが先ほどカリナリーベル様に許可を頂いた内容だったのですね!素晴らしい!」
「ん?え?先ほどカリナリーベル様に許可って、どういう事なんだラナー殿」
「アイザック様、虹の聖女マリア様は女神カリナリーベル様と、教会の水晶を通して直接お会いされているのです。女神の名に誓い、私ラナーが事実であると保証します!」
「なんてこった……いや、女神様の許可付きなんて絶対にこの件は通すぞ!安心しろマリア!」
うむうむ。嘘の吐けない教会で宣言することが、犯罪防止にもなるからね。それにあの教会の水晶って、もう少し役目があっても良いと思う。聖女のための物じゃ出番が少なすぎるでしょ。
教会側にはラナーさんから教皇様に、すぐ書簡を送ってもらう流れになった。
教皇様が断ったら、女神カリナリーベル様への反逆と捉え断罪しますなんて言い出すから、ラナーさんは怒らせちゃいけない人なのかもしれない。
ここからはギルドと教会の上層部の判断を早めるために、三人で『魔法ポーチ』の販売価格など、たたき台について話し合った。
まず『魔法ポーチ』の販売価格は金貨50枚。
聖女商会からギルドに卸し、ギルドから冒険者への販売となるが、冒険者だからと言って誰でも購入できる訳ではない。
購入できるのはランクC以上の冒険者から。これは低いランクでも購入できてしまうと、商人が従業員等を使い冒険者登録させ、『魔法ポーチ』を買い漁る可能性があるからだ。
また、冒険者へポーチが一つ売れる度に、ギルドから教会へ金貨5枚が支払われる。事前に対価を渡しておくから、遺族がポーチを持って来た場合はよろしくねって事だ。
さらに遺族が教会でポーチの開封を行った場合、中身の一割相当の金額を教会へ寄付してもらう。もともと聖女専用の水晶を使用させてもらう訳だし、このくらいは教会へ収めてもらわないとね。
本当はもっとランクの低い冒険者から、価格ももっと安くと提案したのだが、ランクの低い内から楽をさせ過ぎると、逆に将来危険な目に遭う可能性がある……価格を安くしすぎると性能との乖離が大きすぎる……という事で却下されてしまった。
それに真面目に頑張れば手の届きそうな価格にしておけば、一つの目標にもなるし良いだろうと……『魔法ポーチ』を買うために無茶をして……なんてならなければ良いけどね。
教会側はほぼ何もせずとも勝手にお金が入ってくるし、何より女神カリナリーベル様のお墨付きって訳だから問題はなさそう。
問題があるとすれば、大陸中の冒険者ギルドにどうやって『魔法ポーチ』を運ぶかだよね。
商人には売らないのに、商人に運んでくれとは言えないもんね。
「運搬の件なら問題ないぞ。冒険者ギルドには専門の運搬部隊があるからな」
「え?そんな部隊があったんですね」
「余り知られてはいない事でな。他人に任せられないギルドの重要な物を運ぶ部隊で、御者から護衛まで全て元冒険者ランクB以上の専任の者達が行う」
なるほど!冒険者を引退した人達のための仕事も用意してるんだ。
魔獣の討伐に比べたら安全だろうし、体力が落ちた者でも御者なら十分働けるもんね。冒険者ギルドって冒険者たちのことをちゃんと考えてるんだなぁ。
それにしてもアイザックさんもラナーさんも、すでにこの案件が通ったかのように盛り上がってるけど、私が考える便利なものはまだまだこんなものじゃないんだよなぁ。
「お二人とも、この件よろしくお願いしますね。この件の次は、冒険者や教会だけじゃなく、世界中の人にとって有益なものを提供する予定ですから……」
そう微笑むマリアを見つめ、アイザックとラナーは静かにコクリと頷くのだった。




