第51話 謁見へ向けて
ん~~~、何か街の様子がちょっと変な気がするな。
マリアはクロエを伴って、貯まる一方のお金を使うための、恒例街ブラお買い物タイムの最中だ。マリアの存在が知れ渡ったこの街では意味はないのだが、最近マリアは『スタンプ』の魔法を応用し、左手の甲にある『聖花の紋章』を隠している。なんか見せびらかしてるみたいで嫌だな……程度の理由である。
そんなマリアは、いつもと違う街の雰囲気を感じ取っていた。
大きな街だから人が大勢いるのはいつも通りだけど、なんか違和感を感じる人が大勢紛れ込んでいる気がするんだよね。
別に悪意を感じる訳ではないから良いんだけど、何か探ってるような感じだね。
マリア達は伯爵邸に戻ると、今日も暇そうにしているクロードへこの件を報告した。
「マリア殿が違和感を感じるような者達が街に……それはおそらく、他領の諜報員の者達だろうね。そろそろ来る頃だろうと思っていたよ」
「諜報員ですか?随分と下手くそな諜報員なんですね」
「……マリア殿だから見抜けたのだと思うが……あの肥料により収穫できた作物は他の領へも流れているだろうし、洗濯機の件も他領へ噂は流れていると思う。聖女様がこの街にいるといったこともね」
そりゃそうか。
各商品の販売は、まだこの伯爵領内のみでやってるけど、噂はどうしても広まるよね。
あれ?クロードさんが少し困ったような顔をしているね。
「クロードさんどうかしましたか?」
「いや……諜報員が多数来ていると言う事は……近いうち貴族達から大量の書簡が届くと思ってね……」
クロードが言うには、各商品を自分の領へも売れとか、聖女を独り占めしているのではないかとか、聖女に会わせろとか、まぁそういった書簡が届き始めるだろうとの事だった。
まぁ国王には事前に説明しているから、問題にはならないだろうけど、そろそろ出向く頃合いなのかもしれないね。
「クロードさん、では国王陛下へ会いに行きましょう」
「おお!遂にかね!よしすぐ陛下へ書簡を出そう!」
国王側から返事が来るまで時間が掛かるだろうし、色々と準備を進めておこうかな。
この日からマリアは鉱山や森で素材採取を行いつつ、聖女商会で取り扱っている商品をどんどん量産していった。特に洗濯機に関してはマリアがいないと魔法を付与できないため、出来る限り在庫を増やした。
マリアが王都に行っている間の聖女商会は、ドドガにレオナ、サンジュやメイド達に任せる手筈となっている。
そうこうしていると国王側から返事があり、謁見は約一ヶ月後となった。この伯爵領から王都までは、馬車で一週間ほど掛かるらしいので、まだ三週間弱の時間がある。
よし!この三週間でやりたい事を進めておこう!
───◇─◆─◇───
この日、マリアは教会へと来ていた。
クロエは伯爵邸でお留守番だ。
そして目の前には、女神カリナリーベルがいる。
「マリアちゃんこっちの世界は楽しんでるかな?今日はどうしたの?」
「思いのほか楽しませてもらってますよ。今日は少し相談がありまして--」
「--ほうほう。水晶玉をね?ふむふむ……うん!良いよ!相談ってそれだけなの?オッケー!また何かあったら遊びに来てね~!ばいばーい!」
教会内へと意識が帰ってきたマリアを見つめ、例の如くラナーがそわそわしている。今日はラナー以外のシスター達もいて、皆そわそわしている。
「マリア様……本日も女神カリナリーベル様と……?」
「はい。カリナに許可をもらいたい事があったのですが、快く了承してもらえました」
「「「「「おおおおおお!!!!!」」」」」
教会内では嘘を吐けないので、マリアの発言は女神カリナリーベル様と直接会話をし、さらに何かの許可を頂いたのは事実である!と即座に理解したシスター達から出た感嘆の声である。
そしてシスター達は涙を流していた。もちろん自分達は敬虔なる信徒である。だが実際に女神カリナリーベル様を目にしたことなどある訳がない。
だけど目の前にいる聖女マリア様が、女神カリナリーベル様の存在を証明してくれたようなものなのだ。
シスター達のマリアへ対する狂信度がさらに上がった。
「ラナーさん、この後ってお時間あったりしますか?」
「マリア様のためであれば、教皇様との約束でも私は投げ出す覚悟です」
うん、それは投げ出しちゃ駄目だと思うけどね。
マリアはシスターへ金貨を1枚手渡し、ラナーを連れ教会を後にした。
「先触れを出してる訳じゃないので、もしも会えなかったらごめんなさい」
「いえいえ、マリア様と時間を共有させて頂けるだけで私は幸せで御座います」
などと会話しつつマリア達が到着したのは、冒険者ギルドである。
カララ~ンと鳴るベルの音を聞きながらギルドのドアを開けると、今日は余り冒険者達がいないようでガラガラである。
マリア達は受付嬢のもとへと行き、ギルドカードを見せながら声を掛けた。
「こんにちは。約束はしていないのですが、アイザックさんにお会い出来ますか?」
「アイザック?……あ!ギルドマスターですね!少々お待ちください!」
良かった。どうやらギルドにいるようだ。
暫くの後マリア達はアイザックの部屋へと通された。
「どうしたんだ?マリアとラナー殿の組み合わせとは……」
何も知らないアイザックは、少し不安そうな顔でマリアとラナーを交互に見た。
マリアは微笑みつつ答える。
「今日は悪巧みの相談に参りました」
聖女の口から出た悪巧みと言う言葉を聞いたアイザックは、慄くような表情になり、ラナーはニヤリと口角を上げた。




