第50話 魔法袋
「ん?勇者なら何人かおるぞ」
「え?勇者って何人もいるものなんですか?」
「ああ、例えば難攻不落の迷宮を踏破した者や、脅威度SSS魔獣を討伐した者を称えて、勇者と呼んでおるんじゃ。たしか今この世界には三人の勇者がいるはずじゃぞ」
なーんだ、勇者って何か偉業を達成した者に与えられる、称号みたいなものなんだね。ちょっと残念。
「ちなみに、魔王とか呼ばれるような存在っていたりしますか?」
「おるぞ。こことは別の、魔大陸と呼ばれる魔族が多く暮らす大陸があってな、その大陸を統べておるのが魔王じゃな」
ん~、こっちも私のイメージする魔王とは違った存在みたいだ。それにグライド大陸とは別の大陸なら、行く機会は当分の間はなさそうだね。
丁度お昼時だし、今日も暇そうにしているであろうクロードさんとランチでも食べようかな。
───◇─◆─◇───
案の定クロードは邸内にいたので、マリアとクロード、ドドガの三人で昼食となった。
「ところでマリアよ、預かっていたワイバーン亜種の素材は鞣しておいたから、いつでも魔法袋の材料として使えるぞい」
「本当にマリア殿は魔法袋を作ろうとしているんだね……」
「それなんですけど、国王への献上品として少量製作しようと思っています。販売用は今はまだ作るつもりはありません」
「あの商会主どもがまた押しかけて来そうじゃしな」
まだ私のやりたい事が叶うか分からないので、この場で二人に詳しく話すつもりはないが、魔法袋の一般販売はしないことに決めた。
既存の魔法袋の価値が余りにも高すぎるし、同等の物を余りにも低価格で販売すると、それはそれで問題が起きそうだと考えたからだ。
その代わりマリアが考えているのは、既存の魔法袋よりも性能が『劣る』物の製作だった。ただしこちらは、教会と冒険者ギルドを巻き込んでの販売を考えているので、この場で口にするのは時期尚早だとマリアは思っていた。
と言う訳で、国王への献上品用の魔法袋製作に入るつもりなのだが、同時進行でレオナに化粧品以外の商品製作をお願いしている。
これは化粧品に比べると複雑な製法ではなかったため、製作方法の書かれた紙をレオナに渡し任せることにした。
化粧品製作で大変なはずなのだが、息抜き代わりに別の物を作りたいと、レオナ自身から相談されたことがきっかけだ。息抜きをしたいのなら素直に休憩すれば良いのにと思うでマリアであったが、自分の知らない製品や製法を知れることが、レオナは嬉しくて堪らないようだ。
そんな訳で現在、ドドガの工房でマリアは魔法袋の製作にあたっている。
(なるほど……空間魔法の付与ってけっこう神経を使うね。それに空間拡張を無理にしようとすると、ワイバーン亜種の素材が駄目になっちゃいそうだね)
《この素材の一部上質な部分を使用しても、レベル2相当の空間拡張が限界だと判断》
(いつもありがとね『叡智』さん。助言とても助かってるよ)
《……////》
なんとなく『叡智』さんが照れているような気がしたが、きっと気のせいだろう。
マリアは『聖なる錬金術』で、ワイバーン亜種の素材を魔法袋の形へと形成し、空間魔法を付与していった。
「よし出来ました。今回はこれで良いでしょう。余った素材は私の『次元収納』に仕舞っておきますね」
「ううむ……見事な手並みじゃな。レベル2の魔法袋が三つにレベル1が八つか。それとその違う形の物はなんじゃ?」
「このポーチ型の物はサンプル品です。量産するかどうかは、決まったらドドガさんに説明しますね」
さて、レベル2の魔法袋は全部献上品にするのは勿体ないから、一つでいいかな。レベル1も五つにしよう。
現在マリアが国王への献上品として用意している物は、以下の通りである。
・聖なる肥料:×1,000
・街灯:×100
・大型洗濯機:×1
・小型洗濯機:×1
・魔法袋レベル2:×1
・魔防袋レベル1:×5
・オリハルコンインゴット:×1
化粧品は……まぁ献上品とするつもりはないけど、念のために何セットか『次元収納』に入れておこう。
実は街灯についても、先々は他の領に聖女商会の商品として販売予定となっている。
街灯は街の治安向上にも一役買う物だし、性能からしても確実に売れるだろう。
献上品の確認をしていると、マリアのもとにレオナがやって来た。
「マリアちゃん出来たよ!チェックしてもらえるかな!」
「ん……さすがレオナさんですね。五種類全て、とても上手く出来ていますよ」
「やった!これも販売するんだよね?でも化粧品のこともあるから、大量生産は難しいかもしれないよ?」
「これはそんなに複雑な物ではないので、簡単に量産出来ますよ」
「もしかして……あの複製のやつで!?」
ニコリと微笑むマリアを見て、レオナは引きつった表情をするのであった。
マリアは丁度いいサイズの瓶容器を選ぶと『複製』し、五つの容器を作る。その容器に『スタンプ』の魔法を応用し、聖女商会のマークや商品についての特徴等を書いていった。
そしてレオナが作った新商品を各瓶へ入れ、今度は完成した物を『複製』でどんどん量産していった。
聖女商会の新商品『芳香剤』の完成である。
本当は便器を作りたかったのだが、この世界のトイレについての興味がどれ程あるのか判断に迷ったため、簡単に量産できる関連製品を作ってみたのだった。
この『芳香剤』は五種類とも花や薬草の良い香りがするし、消臭効果も抜群。100%天然由来成分のため安心安全な物だ。
この『芳香剤』の効果は、ひと瓶一ヶ月間ほど。
そんなにたくさん売れなくても、リピーターがある程度できれば安定した利益を生んでくれそうだね!くらいにマリアは思っていたのだが……
結局マリア達はまた、大人の土下座を目の当たりにするのであった。
★祝!毎日更新 50話 達成★
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