第43話 永遠のテーマ
冒険者たちの質問が多くて、ギルドに二時間以上も滞在してしまった。
そろそろレオナさんは目を覚ましただろうか?
すでに街の人達が昼食を終える頃の時間である。
マリアは『次元収納』から、買い溜めしていた魔獣の串焼きを取り出し、もぐもぐ食べながら『薬屋みどり』へと向かっている。
こっちの世界は、歩きながら物を食べるのは行儀が悪い行動ではないようなので、マリアは遠慮なく食べ歩きが出来た。
この串焼きってなんの魔獣のお肉なのだろう?けっこう美味しいのだ。
食べ終わった串を『次元収納』へと入れ、『薬屋みどり』の前に立つマリア。
静かに店のドアを開けると、マリアの再訪に気付いたレオナの母親がパアっと笑顔になり近づいてくる。
「聖女様!レオナが目を覚ましました!どうぞ部屋の方へ!」
母親は店のドアの表に『準備中』の看板を掲げると、マリアを連れレオナの部屋へと向かう。
中へ入るとレオナはベッドの上で身体を起こし、傍に置いてある椅子には父親が座っていた。
「お久しぶりですレオナさん。身体はどこも問題ありませんか?」
「マリアちゃん!両親から貴女が聖女様だって聞いて驚いたわ。マリアちゃんが私を助けてくれたんでしょ?でも私たしか腕が……」
レオナの両親がマリアに対する娘の言葉遣いに叱責を始めるが、マリアはこれを制止する。出会った時と同じ態度でいてくれる方がこっちも楽だからね。
「レオナさんの怪我は私が魔法で治したから大丈夫。でもレオナさん自分でポーションを何本も使ってましたよね?そのおかげで私の対応が間に合ったんですよ」
「……本当に助けてくれてありがとう……まさかあんな魔獣がいるなんて思わなくて……マリアちゃんは襲われたりしなかったの?」
「ああ、あのワイバーン亜種なら私が討伐して、さっき冒険者ギルドに置いてきましたよ」
「「「…………」」」
『薬屋みどり』一家は、まさにポカーンである。
あ、ご両親にもワイバーン亜種を討伐したとまでは説明してなかったな。
「マリアちゃんって……聖女様ってすごく強いんだね!聖女様をこの目で見るのは、マリアちゃんが初めてだから知らなかったよ」
「ん~、他の聖女のことは知りませんけど、私は強いからこれくらい余裕ですよ」
屈託のない笑顔で、そんなことを言うまだ幼さの残る聖女に、なんだか力の抜けてしまった『薬屋みどり』一家は笑いが込み上げてくる。
うんうん。笑う元気があるならレオナさんの精神面も心配はないかな。
身体の怪我は治せても、心の傷は簡単には癒せないからね。
「騒がしくしてしまいすみません聖女様。ところで依頼の報酬ですが……妻とも話し合ったのですが、私達が持つ全てのお金……足りなければこの店の権利もお渡しします。大切な娘を救ってくれたのですから、全部差し出します!」
おいおい……そんな事をしたら今後の生活どうするのよ?ギルドを通した依頼だったとしても、そんな大金は必要ないでしょうに。
「今回は私個人が受けた依頼ですし、お金もお店の権利も必要ありませんよ」
「……では私共は何を報酬として差し上げれば……?」
「私は薬作りに対する知識が余りありません。薬について学びたいので、もしそれに関する書物などがあれば、全て読ませて頂けませんか?」
「そ!そんな事でいいのですか!?」
そんな事も何も、マリアが最初に『薬屋みどり』を訪れた目的は、その件をお願いしに来たからだ。
レオナの両親が、家中からこの世界の薬学に関する書物を持ってきてくれたので、マリアは例のごとく『超速読』を披露し、全ての本を読破していった。
よしよし……これでこの世界の基本的な薬は自分で作る事が出来るね。
「マリアちゃんは自分でポーションを作ったりするつもりなの?」
レオナの質問にマリアはしばし思案する。
まぁ一般的なポーションとかも経験のために作るつもりだけど、それだけじゃちょっと面白くないよね。どうせならまだこの世界に無いものを作らないと!
「それも作ってみるつもりですけど、ハンドクリームや洗顔クリーム、乳液、ジェルマスクとか、女性が喜ぶ美容製品を作れたら良いかもなぁと考えています」
マリアは何となく自分の考えを話しただけであったが、『美容』という単語に、レオナとレオナの母親が特別指定魔獣のような勢いで食いついてきた。
「「美容製品について詳しく!!」」
うん、やっぱり女性の美に対する熱意は、どの世界でも同じなんだね。美容は女性の永遠のテーマです!なんてレオナさんのお母さんも力強く語ってる。
地球に帰った時に美容製品を大量に買って、こっちの世界で売るって方法も取れるんだけど、それだとこっちの世界の発展とは呼べないからね。
ソウラリアやグライド大陸に存在する素材で、地球の製品と類似した物が作れるならそっちの方が絶対に良い。
この日は、辺りが暗くなるまでレオナさん達と美容の話で盛り上がり、聖女商会で作った美容製品の販売を、『薬屋みどり』が請け負ってくれるという話で纏まった。




