第42話 特別指定魔獣
レオナを背負い、街の門まで帰ってきたマリア。
門兵さんが、今朝早く街を出たレオナのことを覚えていたらしく、マリアが事情を説明するとすんなり街の中へ通してくれた。
そのまま真っすぐ『薬屋みどり』へ行き、レオナの両親に顛末を説明すると泣いて感謝されるマリアであったが、とりあえずまだ意識のないレオナをベッドで休ませようと部屋まで運んだ。
しばらく家族のみで過ごした方が良いかもしれないと考えたマリアは、冒険者ギルドへ行く用事があるのでまた後で来ますとレオナの両親へ伝え、『薬屋みどり』を後にするのであった。
カララ~ン
冒険者ギルドの買取り・解体場の方に用が出来たマリアであったが、なんとなくこのベルの音が聞きたくて通常の入口から入る。
ギルド内にいた冒険者たちがマリアを視認すると、挨拶の言葉を投げかけながら歓迎ムードで迎えてくれた。
冒険者たちのこの反応は、聖女様相手だからなのではない。
強くて可愛い聖女様であるマリアだからこその歓迎である。
マリアは笑顔で対応しつつ買取り・解体場の方へ向かうと、興味津々の冒険者たちが様々な声をあげた。
「マリアちゃん今日はどんな魔獣を討伐して来たんだ!」
「いや!レアな採取物かもしれないぜ!」
「ゴブリンキングとかだったりしてな」
「俺もマリアちゃんに討伐されたい!!」
「ちょっと男子!マリアちゃんに下品なこと言わないでよ!」
騒がしくなったギルド内の様子に気付いたのか、カウンターの奥からガンツが姿を表した。
「おお!嬢ちゃんじゃないか。今日は魔獣か?それとも採取物か?」
「あ、少し大きいのでガンツさん離れていて下さい」
マリアに近づいてきたガンツを遠ざけると、『次元収納』からワイバーン亜種を取り出し、買取り場のホールへと出した。
うつ伏せで羽を大きく拡げた状態のワイバーン亜種は大きく、かなりの迫力である。
「「「「「ワイバーン!!!!?」」」」」
予想以上の大物の登場に、ギルド内は大騒ぎだ。
「此奴は……ただのワイバーンじゃねぇ!ワイバーン亜種!しかもこのデカさと色……特別指定魔獣の青いワイバーン亜種じゃねぇか!!」
「特別指定魔獣?」
「……ああ。此奴はやけに好戦的で、人種を見つけると執拗に惨たらしく攻撃をしてくる奴でな、そういった危険で狂暴な魔獣は特別指定魔獣とされ、見つけたら逃げるか戦力をかき集めて対応するんだ。こいつの脅威度は確かAAだぜ……こいつをどこで?」
「東の森の奥で偶然遭遇しまして、癇に障ったので討伐しました」
「癇に障ったって嬢ちゃん……しかも見たところまた武器も使わずにか……」
目の前の光景にガンツは驚きと諦めの溜息を吐き、冒険者たちは祭りでも始まったかのように騒いでいる。
が、多くの冒険者たちは同じことを考えていた。
(((((絶対にマリアちゃんを怒らせちゃ駄目だ)))))
「嬢ちゃん……此奴は魔石以外、全部うちで買い取りで良いのか?特別指定のワイバーン亜種で状態も良いから、金貨60枚で買い取るぞ?」
ワイバーン亜種の体は鱗で覆われている訳ではなく、ワニの皮膚のようだった。
魔法袋の製作に必要な素材だけ貰って、他は売っちゃってもいいかな?
(『叡智』さん、魔法袋の素材に必要な部分ってどこかな?)
《背面と尻尾の皮が魔法袋の素材として使用可能。このワイバーン亜種の素材を使えばレベル1だけでなく、レベル2相当の魔法袋の製作も可能と推測》
おやおやそれは朗報だね!
「ガンツさん、背面と尻尾の皮は私が欲しいです。それ以外は買取りして頂ければと思いますが大丈夫でしょうか?」
「よっしゃ!じゃあそれらの素材と魔石、それに金も明日でいいか?此奴の解体にはちっと時間が掛かりそうだからな」
何も問題ないのでマリアはコクリと頷いた。
魔法袋の件も偶然とは言え、素材が手に入ってしまったね。
しかもレベル1だけじゃなくレベル2の魔法袋も作れるなんて、国王へ献上するのはレベル2の方にしようかな。
そういえば魔法袋を販売するとしたら、価格設定はどうしたらいいものか。
既存の魔法袋はレベル3の物で白金貨100枚以上、レベル2で白金貨70枚以上、レベル1でも白金貨50枚以上するって言ってたもんね。
余り安すぎると大きな商会とかが買い占めて、特定の商会だけが物流能力を高めるとかってことも考えられるか……
誰でも魔法袋を持てる状況でなら良いけど、今そうなるのは望ましくないね。
販売方法や販売個数は慎重に考える事にしよう。
この後しばらくの時間、ワイバーン亜種との戦闘について冒険者たちから質問攻めに遭うマリアであった。




