第38話 商人達の懇願① 初公開
洗濯機完成の興奮で全く眠気のないマリアとドドガは、国王への献上品用の洗濯機を、追加で大小一つずつ製作していた。
色は同じパールホワイトだが、マリアが錬成した金のインゴットを素材に使用し、雅に装飾していく。
クロードさんも貴族だし、プレゼントした洗濯機に装飾しようかと提案したのだが、このままで十分と辞退された。
献上品用の物は、人の目に触れない底の部分以外は全体的に装飾を施したのだが、今後貴族用に作る物はもう少し抑えよう。
じゃないと王家に贈った物の特別感が薄れちゃうもんね。
献上品用も完成したので、とりあえず私の『次元収納』に仕舞っておくことにする。
仕事をやり遂げた私とドドガさんが昼食をとっていると、クロードさんが口を開いた。
「二人共とても疲れているところ申し訳ないのだが、午後は時間を取ることは可能だろうか?」
私とドドガさんはお互いに顔を見合わせ、クロードさんの方を向いて同時にコクリと頷く。
どうやら先ほど商業ギルドのフローラさんから先触れが来たらしく、『聖なる肥料』を卸した商会の方々が、私達にすぐ会いたいとの事だった。
肥料の売行きも気になっていたし、丁度いいタイミングでありがたいね。
もしかしたら、価格が高過ぎるとかの問題が起きてる可能性だってある訳だし、そういった部分の率直な意見も聞けたらいいなぁ。
食事をとったらさすがに眠気が来たので、商人さん達が来たら起こしてくれるようクロエちゃんにお願いし、私は少し仮眠をとることにした。
ドドガさんも客室で少し寝るらしい。
───◇─◆─◇───
……可愛い声が聞こえる。
クロエちゃんの声だ。
商人さん達が来たようだね。クロエちゃん起こしてくれてありがとう。
廊下に出ると、ドドガさんと別のメイドさんが一緒に歩いていたので合流し、一緒に応接の間へと向かうと……
え?なにこれどうした?
応接室のドアが開けられ中へ入ると、私達の目に飛び込んできたのは、見事な土下座を披露する四人の男性だった。
こっちの世界でも土下座ってあるんだね。
この人達って……商会主の四人じゃん!本当にどうした?
私とドドガさんの入室に気が付くと、商人さん達は一斉に声をあげた。
「「「「聖女様!肥料を!肥料を売って下さい!」」」」
「え?もしかしてちゃんと売れてる感じですか?」
「売れてるどころか我が商会では完売です!」
「もっと高くて良いから売ってくれと客が殺到しています!」
「奇跡の肥料だという噂がすごい勢いで拡がっております」
「仕入れる事が出来ないと身の危険を感じる程でありまして……」
商人さん達に肥料を卸してからまだ一週間も経ってないのに、そんなに早く噂になるものなのかな?
「新たに設置された聖女商会の印のついた街灯、あれの衝撃で肥料を使用した農民だけでなく、街中の者が聖女様の噂をしている状況なのです」
「あの街灯も本当にすごい!明るさもそうですが、勝手に点灯し勝手に消灯するなんて……神の御業ですぞ!」
「商品だけじゃなく聖女様に一目会いたいと街中大騒ぎですよ」
「いやこの街だけじゃなく、すでに噂は領内に拡がりつつあります」
そういう状況なんだね。
値段が高いと言った意見がなくて一安心かな。
「分かりました。追加の肥料を本日お売りしますね。在庫はどの程度あったかな……」
「マリア様、現在『聖なる肥料』の在庫は、1,300袋ほど御座います」
おお!まだ14歳なのに仕事が出来るねクロエちゃん!
すまし顔で答えるところもまた可愛いよ!
「では各商会へ300袋ずつ卸しましょう」
「「「「ありがとう御座います!」」」」
ふう。
これで商人さん達も少しは落ち着くだろう。
あ……大切なことを忘れていたね。
「そういえば未発表の魔道具が完成したんですけど、見てみますか?」
「「「「未発表の魔道具!?」」」」
商人さん達の周りの空気がザワリとしたような気がする。
私達は商人さん達四人を連れ、洗濯機が置いてある工房へと来た。
大小それぞれの機能や使い方を説明していると、クロエちゃんが着用しているエプロンを脱ぎ地面に擦り付け始めた。
デモンストレーションをしてくれる気なのねクロエちゃん。
あ~あ~シワまでびっしり!
クロエちゃんはエプロンを大型洗濯機へ投入し、デモンストレーションを開始!
汚れは綺麗さっぱり消え、シワも一切ないエプロンを見て、商人さん達は驚きの声をあげる。
おや……今度はクロエちゃんが詠唱を始めたぞ?
これは水魔法の詠唱だね。クロエちゃん魔法使えたんだ!それで……ああエプロンがびしょ濡れだ。
それを今度は小型洗濯機へ入れ……『ドライ』で乾かすと!
一連の流れを見た商人さん達は、顎が外れそうなほど口を開けていた。
「とまぁこんな魔道具なんですが、売れますかね?」
「「「「私が買います!!!!」」」」
全員が売れると思ってくれるなら安心かな。
「聖女様……これは追加生産される予定はあるのでしょうか?」
「売行き次第ですが、そんなに早く売れそうですか?」
「いえ……私自身が買って自宅で使いたいと思いまして……」
一人の商人さんがそう話すと、他の三人も一斉にコクコクと頷く。
あ、皆さんが個人的に買いたいのね。
それは別に良いんだけど、肝心なことをまだ決めてないんだよなぁ。
しばし思案の後、マリアは微笑みながら問いかけた。
「この洗濯機、幾らで買ってくれますか?」
商人さん達のゴクリという喉を鳴らす音が、工房内に響くのであった。




