第37話 マリアの洗濯機
「なに?そんなに魔鉄を薄く加工しては、強度に問題が出てしまうぞ?」
「強度は問題ありません。それよりも使用する魔鉄の量を減らして、少しでも原価を抑えたいんです」
(私が錬成した魔鉄だから原価ゼロだけどね)
「とにかく安く売りたいんじゃな?分かった!言う通りに製作しよう。まず大きいサイズの器を製作しようかの」
洗濯機一つに対して、魔法発動パーツは二つ。
マリアも付きっきりでドドガと一緒に作業を進めた。
その日は深夜まで作業が続いたのだが、伯爵邸の皆に迷惑を掛けないよう、肥料の作業場とドドガの工房の内側には、マリアが魔法で『吸音・防音』を付与しているので問題ない。
ちなみにクロエちゃんは、工房内にある椅子に座りながら寝てしまっている。
ドンドンガンガンしてるのによく寝れるね。
疲れが溜まってるのかな。
深夜二時頃だろうか。
食事も忘れていた私とドドガさんは、遂に洗濯機の器を完成させた。
「理想通りの形です!さすがドドガさん!」
「マリアの助言があって助かったわい。魔法陣は内側に設置しとるし、回路と付与は任せるぞい」
マリアは回路と付与魔法をサラサラと描いていく。
さらに『スタンプ』の魔法を応用し、洗濯機全体にマリアは色を塗った。
清潔感が感じられるよう、輝くようなパールホワイトだ。
洗濯機の正面上部には小さく聖女商会の印も描いてある。
「なんと神々しい色じゃ!マリアよ、これにはどんな付与を施したのじゃ?」
「使用魔力最適化・素材強化・表面保護・軽量化です」
「素材強化!成程、それで薄くした魔鉄の強度を補っているんじゃな!」
「はい。表面保護も付与しているので傷がついたりする心配もなく、いつまでも新品のような見た目のままです」
完成させた洗濯機の形は、地球で言う『ドラム式洗濯乾燥機』のような形である。
縦型にすると身長の低い子供が使いにくいのでこの形にした。
サイズで言えば洗濯容量12kgタイプの物と同等だが、マリア達が作った大型タイプは、一気に20㎏まで対応する事が出来る。
内部に機械類を設置する必要がないため、その分の容量を増やせたからだ。
肝心の洗濯機能については、スイッチとなる魔石が正面左上に二種類あり、それぞれ効力の違う『ピュリフィケーション』が洗濯機内部で発動する。
①洗濯物の量が少なかったり汚れが少ない場合(1分程で完了)
②洗濯物の量が多かったり汚れが酷い場合(3分程度で完了)
そしてもう一つ、正面右上に一つの魔石が嵌め込まれているのだが、これがマリアの新しいオリジナル魔法のスイッチである。
命名は…
『リムーブリンクル』
うん……そのままシワ取りって意味だよ。
この機能を使用すれば、中に入った物のシワが一瞬で綺麗に取れる。
一般家庭用はどうかと思うけど、貴族とかには嬉しい機能だと思ったからね。
このままの勢いでと一般家庭向けの小型の物も製作したが、こちらには『リムーブリンクル』ではなく『ドライ』の機能を付けた。
屋根付き馬車で移動する貴族に比べ、一般人の方が雨とかで服が濡れる場面が多そうだしね。
一般家庭向けの洗濯機でも、一度に約10㎏の対応が可能だ。
そして『複製』の魔道具を使用して、大小それぞれ合計5台ずつ洗濯機を作った。
今回は使用する魔法が複雑ではなかったため、魔法発動パーツも複製する事が出来たが、付与魔法は複製されてなかったのでマリアが対応した。
ちなみに洗濯機の使用方法や魔石の意味は、それぞれの魔石の下に小さく書いてあるので、誰でも迷わず使えるだろう。
マリアとドドガが満足気にしている頃、外はすっかり明るくなっているのだった。
───◇─◆─◇───
伯爵家の当主であるクロードさん、そしてサンジュさんにメイドさん達全員……さらに騎士団団長のジュラールさんまでもが、完成した洗濯機の前に集合している。
クロードさんの奥さんとお子さんはいつ帰ってくるんだろうね?
まぁただの帰省だと言っていたし、私が考えることじゃないね。
メイドさん達が洗濯物を大型タイプの洗濯機の中へと入れていく。
量が多いから②のスイッチの方だね。
皆が固唾を呑んで見守るなか、メイドさんの一人が洗濯機を起動する。
ちなみに起動中はスイッチの魔石が光っており、光が消えれば完了の合図となる。
魔石の光が消え、洗濯物を一枚取り出すメイドさん。
「……完璧です!完璧に綺麗になっておりますマリア様!蓋が大きく正面にあるので、出し入れもしやすい……すごいです!」
このメイドの声によりその場の皆が歓声をあげたり、パチパチパチと拍手をしたりして成功を祝ったのだった。
その後はシワ取り機能に感激したりとメイドさん達は大興奮。
「では、この大型洗濯機を一台、クロードさんに進呈させて頂きますね」
「マリア殿!進呈などと……立場で言えば君の方が上なんだからね!でも本当に良いのかい?」
「ええ、この洗濯機を思いついたのは、ここにいるメイドさん達のおかげですからね」
メイド達は全員が片膝をついてマリアに祈りを捧げてしまっている。
ちょっと大袈裟ではなかろうか?
などと思っていると、意外な人が声をあげた。
「マリア殿……小型の洗濯機という魔道具だが、騎士団で一つ買い取らせてもらえないだろうか?」
騎士団団長のジュラールさんだ。
「騎士団の方達はご自分で洗濯されていたのですか?」
「うむ。それもそうだし……我々はその……汗をかく事が多くてな。小型の方にある『ドライ』という機能がとても魅力的なんだ」
確かに!訓練とかもあるんだろうし皆汗だくになっちゃうよね。
『ドライ』の機能があればすぐに乾くし、『ピュリフィケーション』の機能で汚れどころか臭いも除去できるしね!
「分かりました!小型の方を一台、騎士団の皆さんへ私からの贈り物として受け取って下さい」
「なっ!マリア殿から無償でなどと、それはいけない!」
「私こそ皆さんにお世話になってるんですから、贈り物くらいさせて下さい。ちなみに防具などの装備品も綺麗に出来るし、汗の臭いも無くなるので役立つと思いますよ」
ウンウンと頷くドドガさんと私へ向け、その場にいる全ての人が綺麗にお辞儀をするのであった。




