第33話 魔道具 第一弾&第二弾
『聖なる肥料』販売用の麻袋が完成したことで、クロエちゃんと他数名のメイドさん達が、私が最初に作った肥料の残りを袋詰めしてくれている。
私はと言うと、ドドガさんが作成してきた『聖なる肥料』を作るための魔法『ジェナレイトフェアティライザー』を行使できる魔道具の設計図を見ていた。
「儂なりに設計図を描いてみたんじゃが、正直これで本当に良いのか自信がないんじゃ。あの魔法の事を詳しく理解しているのはマリアじゃし、遠慮なく意見をくれんか?」
ふむふむ……重要なのは魔法陣が描いてある魔法発動パーツと、スイッチにあたる魔力を流す魔石が嵌め込まれたパーツの二つか。
『ザザ草』を入れる鉄製の巨大な箱型の器の中央に、ミスリル製の発動パーツを設置と……ちょっと無駄が多いかもしれないね。
「ドドガさん、箱型の器は省きましょう!作るのは魔法発動パーツと魔石が嵌め込まれたパーツだけで大丈夫です」
「なに?それは作業時間がかなり短縮できて助かるが、鉄製の箱は必要ないのか?」
「はい。巨大な鉄製の箱は必要ありません。そんな重たくて硬い物では、何かの拍子に誰かが怪我をしてしまうかもしれませんからね。魔法発動パーツは床に設置して使用します」
「床じゃと!?……魔法発動パーツとスイッチのパーツは、どうやって回路で繋げるんじゃ?」
「え?床ですよ。床そのものに回路を描き込むんです。そして指定の位置に魔法発動パーツとスイッチのパーツを置くことにより、使用できるようにするんです」
「……なんという事じゃ……儂の魔道具への考え方は狭過ぎたようじゃな……それなら何かあった時に、この魔道具自体を持ち運んだりも出来るぞ!」
勝手に床に回路を描く提案をしてしまったが、良かっただろうかとクロードさんの方を向いたら、クロードさんは笑顔でサムズアップしていたが、恐らく私とドドガさんの会話の内容をそこまで理解していないのだろう。
「これなら麻袋を複製したっていう、マリアの『リプリケイション』だったか?それを魔道具として製作するのも明日中に出来るはずじゃ!」
「ではそちらの魔道具も床への設置式にしましょう」
うむ。順調順調。
───◇─◆─◇───
翌日、キャッキャしているメイドさん達の前で、大量の洗濯物を『ピュリフィケーション』で綺麗にした後、工房へ行ってみると見事にいつでも作業が始められる状態になっていた。
ドドガさんもすでにいて、さっそく仕事を始めるとの事だったのでその様子を見せてもらうマリア。
クロエちゃんも「熱いです~」と言いながらも、私に付き合ってくれている。
炉で熱せられたミスリルをハンマーで叩きながら形成しているけど、あんなに早く形になっていくものなのかな?
ああそうか……ドドガさんは魔力をミスリルに注ぎ込みながら、さらに錬金術を組み合わせて作業しているようだね。
それからたったの二時間ほどで『ジェナレイトフェアティライザー』用の二つのパーツと、『リプリケイション』用の二つのパーツがほぼ完成してしまった。
私が渡したそれぞれの魔法陣が描かれた紙を見ながら、ドドガさんはパーツに魔法陣を描いていく。
「……ふう。マリアのお陰で早い仕事が出来たわい!回路の方はマリアに任せちまうがよろしく頼む」
ドドガさんが製作した魔道具はそれぞれ円盤状、フリスビーくらいの大きさだった。
私達は完成したパーツを持って隣の作業場へと移動。
回路を描く用のバケツに入った特殊な液体と筆をドドガさんに貰い、私は床にサラサラと回路を描いていく。
どうやら回路もある意味文字のような認識らしく、こっちの世界の全ての言語の読み書きが完璧にできる私は、迷いなく描いていける。
よし回路はこれで良いね。次は古代魔法語で、回路に付与魔法で命令を施してっと……
「完成しました!それぞれの魔道具の設置場所と、魔法の効果範囲を分かりやすく円で囲んでみました」
効果範囲はけっこう広く、肥料も複製も一気に大量に作れるようにした。
「おお……この古代魔法語はどんな意味があるんじゃ?」
「これは無駄な魔力を吸われないように使用魔力量の最適化と、魔法の効果範囲の指定、それと指定位置に魔道具を置けば、魔道具と回路が繋がるよう指示してあります」
「本来の魔道具とはそんな事まで出来るんじゃな……」
「どちらも少ない魔力量で起動できるようにしましたので、誰でも使用することが出来るはずですよ」
マリアとドドガはそれぞれの指定位置に魔道具を置いていく。
『ジェナレイトフェアティライザー』のスイッチには、赤色と白色と薄い緑の魔石が嵌め込まれ、『リプリケイション』のスイッチには白い魔石が嵌め込まれている。
使用する魔法に適した魔石を使ってるってことだね。
起動実験をしようとしたら「せっかくなら私が!」とクロエちゃんが立候補したのでお願いすると、どちらの魔道具も問題なく起動することが出来た。
「クロエちゃんどうかな?残りの魔力とか大丈夫?」
「マリア様これすごいですよ!まだまだ何度でもやれちゃいます!」
どうやら何も問題ないようだね。
私とクロエちゃんがハイタッチしていると、ドドガさんが床の回路と古代魔法語を、床と同色の塗料で塗りつぶしている。
「ドドガさんそれは回路の保護が目的ですか?」
「うむ。それもあるんじゃが、回路と古代魔法語を誰かに盗まれないようにじゃな。魔法発動パーツの魔法陣も同じようにしよう」
ああ、この作業場はこの街では限りなく安全な場所にあるけれど、念には念を入れての対策は確かに必要だね。
さぁこの伯爵領の農地が潤っていくよ!!
こうして最初の魔道具製作は午前中の内に終わったのだった。




