第32話 聖女商会の印
伯爵邸への帰り道、ふとマリアは考える。
伯爵家の皆さんもそうだし、騎士団の人達にもお世話になってる。
何かお土産でも持っていきたいんだけど、こっちの世界の食べ物とか飲み物って、私の中でのお土産の基準に達してないんだよなぁ。
新薬の件で再来月くらいに地球に転移で戻る予定だけど、その前に一度地球へ行ってお土産になりそうな物を買い込んでおくかな。
そんな事を考えつつ帰宅すると、何やら大勢の職人っぽい人達が忙しそうに駆け回っている。
なんだなんだと思っていたら、庭にいたクロエちゃんが私に気付いてブンブンと大きく手を振ってきた。
「マリア様ぁ~~~!お帰りなさいませ~!用事はお済ですかぁ?」
「ただいまクロエちゃん。無事に冒険者ランクCになったよ。ところでこの騒ぎはどうしたの?」
すでに私の手はクロエちゃんの頭の上だ。
クロエちゃんは目を細くしながらニッコニコである。
「今マリア様が作業場として使っている倉庫があるじゃないですか?それの隣の倉庫をドドガさんの工房にするために、大きな炉とか作ってるんです!夕方には完成するって言ってましたよ!」
おおう!
クロードさんそんな事まで大急ぎでしちゃってくれるのね。
でも納得した。
この作業があるから魔道具製作は明日からってことなんだね!
「マリア様が帰宅されたら作業場へご案内するように言われてるので、これからすぐにお連れしても良いですか?」
クロエちゃんの問いかけに頷き、クロードさんが待っているらしい肥料の作業場へ行くと、その一角に大量の麻袋が積み上げられていた。
「おおマリア殿!肥料はこの麻袋に入れて販売してはどうかと思ったのだが、どうかな?」
「何から何まで準備して頂きありがとう御座います。麻袋で問題ありませんよ」
「それは重畳!だがどれもこれも微妙に大きさがバラバラでな……如何したものか」
ああ~袋の大きさは統一された物が良いけど、確かにこの世界じゃそんな丁寧な作りにはなってないだろうね。
さてさてどうしたものか……
《マスター、複製するのが良いかと提案します》
(ん?『叡智』さんそれは、複製っていう新しい魔法を創れば良いって意味かな?)
《肯定。複製したい物と、複製に必要な材料さえあれば、一気に大量生産が可能です》
さすが異世界!魔法って本当に便利なものだね。
自分で魔法を創れちゃうなんて、加護をくれた創造神様に感謝しなくちゃ。
そうだ!せっかくだし一つ細工もしておこうかな……
(あれ?複製の魔法が付与された魔道具を製作すれば、肥料を簡単に作れるのでは?)
《肥料作成のためにマスターが使用する魔法『ジェナレイトフェアティライザー』の影響下にある物は、構成が複雑すぎるため複製不可と判断します》
なるほどなるほど……まぁ特に問題ないから良いか!
「クロードさん、麻袋の件は問題なさそうです」
そう言うとマリアは丁度いいサイズの麻袋を一枚選ぶ。
ではでは一つ小細工を……
マリアは頭の中で新たな魔法をイメージ・創造し行使する。
『スタンプ』
マリアが新たな魔法『スタンプ』を行使すると、麻袋の中央に大きく一つのマークが浮かび上がった。
聖花の紋章が二重の円に囲まれているマーク。
二重の円の内側上部にはローマ字で『S E I J O』と書かれており、下部には『M A R I A』と書かれている。
「これを聖女商会の商品である印にしようと思うんですが、どうでしょうか?」
「今のは魔法かい?いや実に良い!その文字のようなものは読めないが、そこがまた神秘的で興味を惹くな!」
よしよし、これで麻袋の規格とデザインは決まりだね。
次はこれを複製っと……
マリアは完成品の麻袋を、大量に積まれた麻袋の前に置き、完成品の物が複製されるイメージで新たな魔法を創造する。
『リプリケイション』
新たな魔法『リプリケイション』を行使すると、大量に積まれた麻袋が淡く発光し、見る見るうちに完成品の麻袋へと姿を変えた。
完成した麻袋はざっと3,000枚はありそうだね。
「はっはっはっは!もう私は何が起きても驚かないぞ!」
青い顔をしながら虚勢を張るクロードさんはちょっぴり可愛い。
工房になる予定の隣の倉庫からやって来たドドガさんに、クロードさんは今の出来事を大興奮で話している。
麻袋もそうだけど、魔道具の器もそんなに複雑な造りじゃないだろうから、『リプリケイション』が付与された魔道具を先に作っちゃえば、その先の別の魔道具作りが楽になりそうだよね。
ドドガさんにその事を提案したら「職人としてそれはどうか……」などと言いつつも「どんどん未発表の魔道具に着手できますよ」と私が言ったらあっさり了承してくれたのだった。
うんうん、目的のために楽できるなら絶対にその方が良いんだよ。
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