第3話 はじめての異世界モンスター
と言う訳でやって来ました!異世界ソウラリアのグライド大陸!周囲を見渡す限り、とても自然豊かな環境のようだけど、まぁそれもそうか。
地球に比べて発展していない世界だとあの女神も言っていたし、ソウラリアの世界はどこもこんな雰囲気なんだろう。
ん~~~、すごく遠くに大きな石壁のような物に囲まれた、街っぽいのが見える。
ん?確かに私の視力は2.0以上あるけど、こんなに遠くまで見えたっけかな?これって私の視力が強化されたってこと?良いね!
グライド大陸に着いたら、近くの街の教会に行けってカリナが言っていたし、とりあえずあの遠くに見える街に行ってみますか。
と思っていたのだけど……風に乗って数人の騒がしい声が聞こえる。
それにこの匂いって……血の匂いっぽいな。
聴力や嗅覚も強化されてるってことね。
さっそくの異世界イベント発生の予感に、久しく感じていなかったワクワクがマリアのテンションを上げる。
走って様子見にと思ったのだが、走る速度がとんでもなく早いことに気が付く。
本当に色々なことが強化されているんだな。まだ声の主達までの距離はあるけど、すでに私にはハッキリと見えている。
男性二人に女性二人、普通の人間のようだけど、エルフや獣人に会ってみたかったからちょっと残念。
それとなんだアレ?濃い緑色の肌に、トライバルタトゥーのような模様が全身に入ってる。腰布のような物一枚、筋肉隆々で身長は2メートル以上ありそうだ。
そしてソレが男女四人を襲っているように見える。
そうか!アレはファンタジーの定番ゴブリンだ!でも豚みたいな顔をしている。
現実のゴブリンって豚みたいな顔なのか!地球での創作物に出てくるゴブリンは、小さな緑人間みたいな生き物だったけど、やっぱり実際に見てみると違うものなんだなぁ。
そうこうしている内に、ハッキリと四人の声が聞こえる距離まで近づく。
「くそ!どうしてこんな所に此奴がいるんだよ!おいコルト!プレセアの足の怪我を回復させてくれ!俺とマキナがそれまで時間を稼ぐ!」
「ちょっとジン!私達二人だけじゃ……て言うか四人でも此奴には……」
「んなこと分かってんだよ!!プレセアの足が治ったらお前ら三人は街まで走れ!とにかく何も考えずに走って門番に報告しろ!俺のことはいい!これはリーダー命令だ!!」
ほうほう、やっぱりあのゴブリンに四人は襲われていたんだね。
ゴブリンと対峙している男性が持っているのは、所謂ロングソード的な剣かな。女性の方は少し短いからショートソードか。
つまり彼らは冒険者ってやつ?ゴブリン相手にあの焦りようって事は、駆け出しなのだろうか?それともゴブリンって、実は相当ヤバい生物なのかも!これは自分で体験した方が早いな。
騒ぎのもとへと駆けつけたマリアは声を掛ける。
「こんにちは~。すみませんが後学のためにこのゴブリンの相手、私がしても良いですか?」
声の主の方を見たジンはギョっと目を剥いた。
周囲に誰もいなかったはずなのに、そこには若い女の子が微笑みながら立っている。それに見たこともない異国の服。
マリアは地球で着用していた服のままなので、薄いブルーのストレッチデニムにショート丈の白いヘソ出しTシャツ、スマホと財布等の小物が入る程度のスマホポーチのみの軽装だ。
それにこの女の子は、目の前にいる魔獣を『ゴブリン』と言った。つまりこの女の子はなんの知識もない一般人……
「ばっ馬鹿!早く逃げろ!!そいつは--」
ジンが大声を上げると同時に、「グギャオガラアァァア」と声を上げながら、緑色の巨体がマリアへと駆け出す。
どうやら見た目で、弱そうな獲物を判断するだけの知能はあるようだ。でもなんて喋ってるか分からないってことは、言葉を使用している生物ではないってことか。
力任せに拳を振り回し、時には鋭い爪で切り裂こうとしてくる。
でも蹴りは使わないなぁ。足の方がリーチも威力も出せると思うんだけど、勿体ないことだね。なんか本能のままに暴れてるだけって感じか。
ジン達四人は唖然とした表情で、目の前の出来事をただただ眺めていた。
突如降り注いだ自分達の命の危機に現れた、とても可愛い恐らくは異国の少女。少女はきっと魔獣の知識が無い。
目の前にいる脅威は、ゴブリンなんかじゃないのだ。
自分達ではまだ絶対に倒すことなんて出来ない、オークの上位種『ハイオーク』だ。
そんなハイオークの激しい攻撃を、少女はブツブツ独り言を呟きながら、ヒラヒラと躱しているのだ。
ハイオークがぜえぜえと肩で息をし始めた頃、少女は満足そうな笑顔で四人へと話しかけた。
「とても勉強になりました。これ、このまま私が始末しちゃっても良いですか?」
女神のような笑顔で、悪魔のような言葉を紡ぎ出す少女を前に、四人はコクコクと無言で頷いた。
四人の反応を受け、マリアは即座に動いた。
一瞬で身体全ての稼働速度を上げると、ハイオークには目の前にいた逃げ上手の獲物が、消えたように見えただろう。
マリアは攻撃体勢をとって懐に潜り込んでいた。
左肘を下から上に、抉るように相手の胸の中心に……打ち込む!
『メキョゴギッ』という鳥肌が立つような音、何か声をあげようとしても何も声をあげる事が出来ず、苦悶の表情を見せるハイオーク。
そのままハイオークの命は刈り取られ、ズシンと音を立てながら仰向けに倒れた。
「良かった。どうやら心臓の位置は正しかったようですね。やっぱりゴブリンって雑魚キャラなんだなぁ」
「「「「え……」」」」
「え?」
「「「「えええええええええええ!?」」」」
驚愕の声を上げる四人を見ながら、こんな反応ばかりだなと溜息をつくマリアであった。