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第16話 クロード伯爵邸① 良い貴族?

 翌日朝食を食べ終え、そのまま宿の食堂で仕事が落ち着いたキャロルさんと談笑していると、昨日の団長さんが迎えて来てくれた。


 

 キャロルさんに挨拶をし宿の外へと出たのだが、目の前には立派な二頭立ての馬車がある。


 馬車の横には恐らく伯爵家の紋章であろうものが描かれていた。


 御者台に二人、馬車の周りには団長さん含め四人。格好から見て全員が騎士団の方なんだろう。



 街の中を移動するだけなのに多くないか?



 え?馬車に乗り込むのは私一人?団長さん達は歩き?


 ゆっくり馬車を走らせるから気にしないでと?



 そういう事ならばと乗り込んで出発したのだが、本当にゆ~~っくりと進んでいる。


 たしかに馬車の中の椅子は、座り心地の良いものとは言えない。これはきっと私のお尻を労わってくれての対応なのだろう。



 右手の窓から街の景色を暫く眺めていると、馬車が停止した。


 左手の窓から外を見ると、重厚な門の左右に騎士団の格好をした人が二名。


 門の奥にはかなり大きな邸が見える。この街の冒険者ギルドよりもさらに大きい。


 伯爵って聞いていたからお城のような家に住んでると思っていたけど、さすがにそこまでの感じではなかったようだね。


 門がゆっくりと開き馬車が敷地内を進んでいくと、邸の前で止まった。



 団長さんが馬車のドアを開け手を差し出してくれたので、その手を取り馬車からおりると……


 邸の玄関の前に男性が二人立ってこちらを見ている。


 一人は白髪で素敵な年齢の重ね方をしていると一目で分かる、これぞ執事!という格好をしている男性。


 もう一人は……見た目は30代。アッシュグレーの短髪。瞳は綺麗なブラウンだ。



 それにしても、これぞお貴族様と呼べるようなゴージャスな出で立ち!だけどそのワインレッドの目立つコート、暑くはないのだろうか?


 二人とも薄っすら顔に汗をかいているようだ。


 マリアはTシャツ一枚で心地いいと思う気温なのだが、オシャレは暑い時にこそ厚着をし、寒い時こそ薄着をするものだ!と熱く語る人もいるので、気にしないことにした。



 マリアが余計な事を考えていると、ゴージャスな方が口を開く。



「ようこそいらっしゃいました聖女様!私は領主をしております、エドガー・ラ・クロードと申します。ささ!どうぞ中へお入りください」



 マリアからの挨拶を待たないまま、ゴージャス改めクロードと執事はどんどん屋敷の中へと進んで行く。


 私の後ろから騎士団団長のジュラールさんも付いて来るようだ。


 広い廊下の両端には、まさに!といった服装に身を包んだメイドさん達が、五名ずつ並んでいる。



 クロードと執事に連れられ一室に通されると、クロードの身なりにしてはとても落ち着いた、嫌味のない調度品で囲まれた空間がそこにはあった。


 ジュラールさんは廊下で待機のようだね。


 マリアは椅子に座るよう促されたのだが、まずは先ほど出来なかった挨拶だ。



「お初にお目にかかります伯爵様。私は虹の聖女マリアと申します」



 ラナーから聖女は頭を下げずとも良いと聞いていたので、簡単な挨拶の後に左手にある聖花の紋章をスッと見せる。


 クロードと執事が「おお!おおおお!ラナー殿の言っていた通りの」と感嘆の声を上げている横で、緊張した面持ちのメイドさんが、紅茶とお茶菓子のようなものを持って入室してきた。



 改めて腰掛けるように促されたので、テーブルを挟んでマリアとクロード伯爵は対面に座る。


 執事は伯爵の後ろへ立ち、メイドは緊張からかカチャカチャと若干大き目の音を鳴らしつつ、紅茶とお茶菓子を出してくれた。



 無駄な時間を過ごすのが大嫌いなマリアであるが、やはりどうしても気になったことを聞かずにはいられなかった。



「あの伯爵?失礼なことを言ってしまうかもしれませんが、その格好では暑くありませんか?汗もかかれているようですし……」



 マリアがそう言うと、クロードと執事は顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。



「実は……私達は聖女様にお会いするのが初めての事でして、どのような格好でお迎えすれば良いのか分からなかったのです。汗をかいているのはその……この後ろの家令、サンジュとどちらが聖女様を玄関でお迎えするのか、殴り合いの喧嘩になりまして……」


「旦那様が私の仕事を奪おうとするのがいけないのです」



 二人は小声であーだこーだを始めてしまったので、マリアは紅茶を頂きながらその様子を観察している。


 両者の顔にそれらしい傷もないようなことから、顔はやめな、ボディーにしなって感じだったんだろう。



 それにしてもなかなかお茶目な人達である。


 この二人の関係を見ていると、クロード伯爵は権力を笠に着る、下衆い貴族ではなさそうだ。


 派手なギンギラギンではなく、どれも落ち着いた色味の古くから大切に使われているのであろう調度品を見ても、とても好感が持てる。



 マリアは微笑みつつ立ち上がり、二人の近くまで寄ると「怪我をしていなくても内臓にダメージがあると大変ですからね」と話しながら、左手でクロード伯爵に、右手でサンジュの身体に、覚えたての回復魔法『ヒール』をかけた。


 キラキラした光を帯びた緑色に輝く現象が、クロード伯爵とサンジュを包み込む。


 これで良いでしょうと言わんばかりに満足気なマリアが再び椅子に座ると、クロード伯爵とサンジュは口をあんぐりと開けている。



 サンジュより一足早く我に返ったクロード伯爵は、まだ少し呆けたままの表情で口を開いた。



「か……完全……無詠唱魔法……」



 あ、そういえば詠唱もしてなければ、魔法名を言うことすら省いてしまったなぁとマリアは思いつつ答える。



「実は魔法の存在を知ったのが昨日でして、今の『ヒール』?も昨日覚えたばかりなんですよね。あ、魔法についての文献とかあったりしますか?可能であれば読ませて頂けると嬉しいのですが」



「「えええええええええええ!?」」




 屋敷内に大の男二人の声が響き渡り、何事かと腰の剣に手をやりながら、騎士団団長のジュラールが飛び込んでくるのであった。

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