第15話 星空亭② 騎士団長
仮眠中のマリアであったが、ふと階下から騒がしい声が聞こえてきて目が覚める。
特に揉めている訳でもなさそうだと思っていたところ、足音が近づいてきてマリアの部屋の前で止まった。
コン、コンとドアをノックされ、キャロルの声が聞こえる。
夕飯の時間か。
「マリアちゃんちょっといい?マリアちゃんに、ご領主様の使いの者だという人が訪ねて来てるんだけど?」
あぁ、そういえばラナーさんが領主に伝えるって言っていたっけ。
ラナーさんも領主も行動が早くて感心だね。
キャロルさんに部屋に通しても良いと伝えると、兜はないものの、少しくすんだ銀色の鎧を纏った男性が一人やってきた。
赤茶色の短髪で、顔に小さな傷跡がいくつもある、40代くらいの男性。
腰には剣を佩いている。
「失礼します!私はこの街の騎士団団長の、ジュラールと申します!聖女マリア様を領主邸へお招きするよう、主より仰せつかい馳せ参じました!聖女様のご都合は如何でしょうか?」
おお!騎士団。
しかも団長をお使いに出すなんて、聖女って地位はやっぱり凄いんだね。
「団長様がお越し下さるなんて、ありがとう御座います。本日はこの宿でこのまま休ませてもらいますので、明日の朝からお昼前くらいのお時間でどうですか?」
手の甲にある虹の聖花を見せながら提案するマリアに対し、ジュラールはゴクリと喉を鳴らした。
「承知致しました!ではこちらの宿で朝食を終える頃の時間に、改めてお迎えに参ります!突然の訪問に対応頂き、ありがとう御座いました!それでは!」
すごく気持ちの良い態度の人であった。
廊下でこっそり話を聞いていたであろうキャロルが「マリアちゃ…マリア様は聖女様だったのですか……」なんて言ってきたので、普通の態度で良い……むしろ普通の態度にしてとマリアはお願いした。
堅苦しい言動は、それだけ無駄に時間を必要とするとマリアは思っている。
団長さんにも、次に会った時に言っておかないとね。
その後は夕飯となったのだが、肉料理がメインで三品、水は魔法で出すからタダという事で、飲み物は水にした。
魔法で生み出された水は普通に飲める。
むしろ美味しかった。
出された料理も意外と全て美味しい。
食べながら私が満足そうに頷いていると「うちは老舗だから、安く香辛料を仕入れる伝手があるんで…だよ」と、ぎこちなくキャロルさんが教えてくれた。
なるほど、やはりこっちの世界での香辛料は高価な物か。
飲み物は別料金だから、オールインクルーシブとは言えないものの、部屋も綺麗で夕食に翌日の朝食までついて、一泊小金貨1枚……これは良い宿を紹介してもらったなとラナーに感謝した。
途中、隣のテーブルで食事をしていた女性に話しかけられた。
「あなた異国の人?ここの料理本当に美味しいでしょ?私はレオナ。ここの隣の薬屋の娘だよ。私よくご飯だけ食べにここに来るんだ~」
ショートカットの薄い緑色が綺麗な髪色の女性。痩せてるのに出る所はしっかりと出ている、20歳前後の女性だ。
マリアも自己紹介しつつ、宿の裏メニューについてとかの話を楽しく聞きながら、食事を堪能するのであった。
お風呂はやっぱり濡らした布で身体を拭くだけらしいのだが、布のような物と桶に入った温い湯を、キャロルさんが部屋まで持ってきてくれた。
これも宿代に含まれているらしい。
辺りはもう暗くなっている。
宿の部屋の窓から外を眺めているのだが、街の中にはポツリポツリと、ぼんやり光る街灯がある。
街灯もきっと魔道具なのだろう。
領主に会ったなら、この街や国の情報なども詳しく聞かなくては。まずは様々な状況確認が必要だからね。
自分の出来る事を把握し、それをどうやって役立てる事が出来るのか、知る事が肝要である。
マリアは決意を固め、深い眠りについた。