第13話 狂信者ラナー
私はラナー。
この世界の唯一神であられる、女神カリナリーベル様を信仰しているアイリス教の司教です。
カリナリーベル様など存在しないと宣う不敬な団体が、数年前から信者を集めているなんて噂もありますが、大方テキトーな神をでっち上げて信者からお金を毟り取るような、下衆な輩達なのでしょう。
私はカリナリーベル様へ、日々祈りを捧げております。
私如きの祈りでも、いつか女神様のもとへと届き、天に召された際にきっと微笑みを賜れると信じてきました。
ところがです!
女神カリナリーベル様から賜れるお慈悲は、突然やってきました。
教会に訪れた、異国の服を身に纏った一人の少女。
女神様の祝福により嘘を吐くことが出来ない教会内で、彼女は自分は聖女だと話したのです。
私は大急ぎで、聖女様のために存在すると言われる水晶玉をお持ちしました。
彼女が水晶玉に触れると、彼女はなんとも神々しい光に包まれたのです。
時間にしてみればほんの数秒だったと思います。
彼女を包み込む光が消えると、彼女は左手の甲に七色に輝く聖花の紋章を示しながら、ご自分は虹の聖女だと仰ったんです。
私が読んだことのある聖女にまつわる文献では、聖花の紋章は必ず、一人の聖女に対して一色。
七色に輝く聖花の紋章を持つ聖女様が、過去におられたとすれば、確実に世界中で話題になっているはずなのです。
つまり、目の前にいる彼女は、世界初の虹の聖女様という事です!
こんな奇跡の瞬間に立ち会えるなんて……女神カリナリーベル様は、なんというご慈悲を私に……
この奇跡を、早くアイリス教の教皇様へお伝えしなくては!ご領主様へも急ぎお知らせすべきですね!
彼女は宿がまだ決まっていないと仰るので、オススメの宿をご紹介させて頂きましたが、ふと彼女はとんでもない事をお話されたのです。
なんと……女神カリナリーベル様と、直接お会いしてお話をされていると……
何度も言いますが、教会内では嘘を吐く事は不可能なのです。
彼女の話している内容は、すべて真実なのです!
青天の霹靂と言えばよろしいのでしょうか……教会にあるカリナリーベル様のご神体の石像ですが、彼女のお話を詳しく聞き、より正確なお姿の像へと作り変える必要があります。
このような世界初の栄誉を賜れるなんて……
彼女、いいえ。虹の聖女マリア様は、教会への寄付だと金貨1枚を私へ握らせ、静かに紹介した宿の方へと向かわれました。
金貨1枚なんて大金を頂けたことに、少し驚いてしまいましたが、それよりも別のことが私の頭の中にあります。
マリア様は、女神カリナリーベル様のことを親し気に、『カリナ』とお呼びになっていたのです。
如何に聖女様であろうが、例えば国王様であろうが、カリナリーベル様をそのような愛称でお呼びする事は許されません。
恐らく世界初の虹色の聖花の紋章を持ち、女神様と直接会い、その女神様を親し気に愛称で呼ぶ……
マリア様は、普通の聖女ではないのかもしれません。
もしかしたらもっと……もっと尊いお方なのでは……
私は小さくなるマリア様のお背中を見つめながら、心に決めたのです。
私に数多くの奇跡を下さったマリア様。
もしも私の目の前に、マリア様へ害なす者が現れた場合……全力で必ず『処す』と。
こうしてはいられません。
お役目を果たすために、私はもっと教会内でのチカラを付けなくてはなりませんね。
女神カリナリーベルと同等の信仰対象を得たラナーは、ニヤリとした笑みを浮かべるのであった。