第12話 ただいま教会
「色々と疑問は残るけど、何でもカリナに聞いてちゃつまらないから、最後にもう一つだけ質問します。この後の私が最優先で取るべき行動はありますか?」
「ん~~~自由に行動して良いよ!てかマリアちゃん一人で、なんでも出来ちゃうんじゃないかなぁこれは!」
「カリナがそう言うのなら、そうなのかもしれませんが、私にそのつもりはありませんよ。ソウラリアの発展に寄与するとは言いましたが、私だけが行動してばかりだと、私がいなくなった後の発展が望めませんから」
そう、人には寿命があるし、如何に『超規格外』のマリアであっても、何があるかは分からない。
マリアにしか出来ない事があるかもしれないけど、それを誰かに落とし込んでマリア以外……ソウラリアで暮らす人々それぞれが、発展に寄与できるようになった方が良い。
マリアの体は一つ。マリアだけが何かを行っていても効率が悪い。
「たしかにマリアちゃんの言う通りだね!私ったらなんだか楽しくなっちゃって……あはは。じゃあもし緊急の時は私から声をかけるけど、マリアちゃんが私に会いたくなったら、また教会で水晶玉に触れてくれれば良いからね~~」
カリナはハイテンションのままブンブンと手を振り、私の意識はゆっくり教会へと帰ってきた。
静かに目を開き横を向くと、ここの教会の司教であるラナーさんが、どこか不安そうに私を見つめていたのだが、おずおずと口を開く。
「あの……何かご神託とか……そういったものが……?」
まさか自由に行動して良いよって言われたなんて言ったら、女神としてのカリナの沽券に関わるかもしれない。
女神カリナリーベルが、ちょっと『痛い』女神様だと知ったら、ラナーは落ち込んでしまうかもしれいと考えるマリア。
マリアは、そっと左手の甲をラナーに見せながら答える。
「このグライド大陸、そしてソウラリアのために力を尽くせと」
ラナーは口をぱくぱくさせながら目を潤ませている。
「すごい……聖花の紋章……この目で見るのは初めてです!でもその色……紋章の色は赤や緑とか、一色だと聞いていたのですが、マリア様の紋章は様々なお色ですね……」
「普通は一色らしいですね。私は『虹の聖女』らしいです」
「にっ虹の聖女様!?」
(カカカカカカッコイイ!!)
ラナーの表情を見て、なんか俗っぽいこと考えてそうだなと感じているマリアだが、とくにツッコんだりはしない。
恐らくアイリス教の信徒にとって、女神カリナリーベルと聖女は特別な存在なんだろう。
何やら感動しているところを邪魔するのは、無粋というものだ。
などと思っていると、ラナーがハッとした表情で口を開く!
「こうしてはいられません!教皇様に虹の聖女様が現れたことを手紙でお伝えしなくては……あ!ご領主様にもお伝えしないと!!」
うぇ……教皇ってアイリス教のトップの人かな?また時間取られたりするのはちょっと嫌だなぁ。
領主は……まぁ会っておいた方がいいか。
私が今いる領や国の情報がまだ何も分からないけど、領主や国王的な人の性格に問題がなければ、この国を拠点にするのも良いかもしれない。
「ラナーさん。領主様は近くにお住まいなんですか?私は遠い異国から来たので不勉強なのですが、領主様にお会いする場合、どの程度の礼儀作法が必要でしょうか?」
「ええ。ご領主のクロード伯爵様は、この街にお住まいですよ。聖女様は過剰な礼儀作法なんて必要ありません。例え相手が国王様であっても、頭を下げる必要はありません!それが聖女様なんです!!」
ふんすと鼻息荒くラナーが説明してくれたが、礼儀作法が必要ないなんて大変ありがたい。
時間は有限。無用なやり取りが少しでも減らせるなら、マリアにとってこの上ない喜びである。
にしても、ここって伯爵領だったのね。
予想はしていたけど、貴族階級がある世界か。
伯爵ってことは所謂『上位貴族』ってやつかな。
「マリア様はどちらの宿に滞在しておられるのですか?教会の者が誰か戻りましたら、私が責任をもってマリア様のことをご領主様に伝えに行きます!ご領主様からの使いの者を、その宿に向かわせるよう進言します」
「お手数お掛けします。今日この街に来たばかりで、まだ宿は決まっていません。高くもなく安くもない、一般的な宿を見てみたいのですが、オススメの宿はありますか?」
「でしたら教会を出て、右に真っすぐ向かって下さい。暫く歩くと左手に『星空亭』という宿があるんですが、そこは値段の割りに部屋も綺麗で、料理も美味しいと評判ですよ。部屋数はそんなに多くありませんが、今の時期とこの時間なら空きがあると思います」
初めての異世界でのホテルと料理!ちょっと楽しみだ。
さっそく向かおうと思ったのだが、マリアは余計なことをラナーに口走ってしまった。
「ありがとう御座います。星空亭に行ってみますね。そういえばそこにある女神像ですけど、全然カリナに似てないですね」
「!?……似て……え?似てないとは??」
「え?その女神像って、歳で言えば40代くらいの、優しいお母さんって雰囲気じゃないですか。カリナは20代半ばくらいの、可愛いお姉さんって感じですよ?」
「え!?そそそそれはちょく……直接カリナリーベル様を見た事があると!?ご神託はお声が聞こえるだけじゃなく、直接お会いしてなんですか!?」
「ええ、さっき水晶玉に触れた時と合わせて、二度会ってますけど……」
驚愕の表情で、一人ブツブツと何かを呟いているラナー。
聴力を人並に調整したので、ラナーが何を言っているのかはマリアにはハッキリとは聞こえない。
ラナーは独り言が終わったのか、獲物を捉えるようなギンっとした目でマリアを見やる。
「教会内では嘘は吐けない……マリア様がカリナリーベル様にお会いした話は……真実!!マリア様詳しく!!!!」
ガッ!とラナーに肩を掴まれ、ブンブンガクガクと体を揺すられるマリアは、暫くのあいだ女神カリナリーベルの、声や特徴などを説明させられるのであった。