第101話 裂破
腰の双剣を抜いたニーナが、サイクロプスに向かって突っ込んだ。
その動きと同時に、マリアは『バリア』を展開しクロエとセレスを包み込む。問題ないとは思うが、念のための措置だ。
「ニーナさんの双剣、どちらも燃えるような赤色だね。ガードの中央にある石が輝きだしたけど、もしかしてあの双剣って……」
「さっすがマリアちゃぁん!気づいちゃったぁ?ニーナの双剣はねぇ、すっごい珍しい魔双剣なんだよぉ。双剣の魔剣ってかなりレアらしいよぉ」
あれが魔剣!ソウラリアに来て初めて見たね。魔剣のチカラ、じっくりと見させてもらおう。
マリアとクロエは、キラキラとした目でニーナを見守っている。
ニーナはあっと言う間に距離を詰めると、サイクロプスの左脚の脹脛を左右の双剣で素早く斬りつけた!
速いね。ニーナさんはランクAの冒険者って言ってたけど、地球にいた頃の私より確実に強い。ランクAってこんなに凄かったんだ……
マリアがそんな事を考えていると、突然 パァンッ と破裂音が響いた。
音の発生源は、サイクロプスの左脚……ニーナに斬りつけられた部分が、小型爆弾で攻撃されたかのように爆発したのだ。
「ふわぁあ~!もしかしてあれが『裂破』なんですか~?」
「あれはねぇ、まだ『裂破』じゃないよぉ。あれはニーナの魔双剣のチカラだねぇ。片方の剣で斬った場所をぉ、もう片方で斬るとぉ、ああやって爆発するのぉ」
え!こわっ!すっごい危ない武器だね。かなり切れ味も良さそうだし、ニーナさんの動きもとても洗練されている。そこへきて攻撃箇所を爆発させる魔剣のチカラ……サイクロプスがちょっと可哀想に思えるよ……
左脚のダメージが相当大きいのか、サイクロプスは膝をつき、呻き声を上げながらその場で巨大な棍棒を振り回している。
だがニーナにはかすりもせず、サイクロプスの周囲を高速で動き回りながら、何度も双剣で斬りつけていた。
あれ?でも今度はどこも爆発しないね……ああ、双剣に付いてる石が光って無いってことは、魔力を流しながら攻撃しない場合、爆発はしないってことなのかな。
そんな事を考えていると、後ろへ大きく飛んだニーナが、マリア達の傍へ降り立った。
「ちょっと遊び過ぎたかな。そろそろトドメを刺すよ」
ニーナはそう言うと、双剣を握った左右の腕を、胸の前でバツの字に構えた。双剣の石がまた輝き出している。
「的がデカいとありがたいね。これでサヨナラだ……喰らいな!『裂破ぁぁあ』」
ニーナがクロスさせた両腕を振り下ろすと……斬撃がサイクロプスへ向かって飛んだ!
飛ぶ斬撃!?カッコいい!!しかも普通に斬りつけるよりも、明らかに攻撃力が高そうに見える!速度もすごいね!
ニーナの放った『裂破』は、巨大なサイクロプスの胸に大きな斬撃痕をつけたかと思うと、その疵口が パァンッ と爆発し、サイクロプスの生命活動は完全に停止した。
「ニーナさんの『裂破』って、飛ぶ斬撃+疵口爆破なんですね……これはなかなか怖い攻撃ですね」
「ああ、爆破の方はこの魔剣、『双焔真紅』のチカラさ。飛ぶ斬撃は私の持ってるスキルだ。ただ爆破させるにはかなりの魔力を持っていかれるから、長期戦の時は使いどころを見極めないと自滅しちゃうけどね」
「ふふふぅ。ニーナのぉ、飛ぶ斬撃のスキルってぇ、とっても珍しいんだよぉ。『飛翔斬』って言ってぇ、私はまだ他の使い手を見たことないのぉ」
「ニーナ様とっても凄かったです~!マリア様の次に凄かったです~!」
へ~、そんなとんでもスキルに魔剣まで……さすが聖女の専属護衛って感じだね。
「それにしても、冒険者ランクAの方が戦うところを初めて見たんですが、ランクAって相当強いんですね」
「んん~、ニーナはランク詐欺に近いからねぇ」
「ランク詐欺?」
「そぉそぉ。ニーナはずっと前から私の護衛だからさぁ、冒険者ギルドのお仕事をしてないのねぇ。本当ならもうランクS……そうじゃなくてもランクAの頂点にいるんじゃないかなぁ」
「私はまだランクSには到達してないと思っているがな。それ以前に、私はセレスの護衛が天命だと思っているから、自分のランクなんてどうでも良いのさ」
ニーナさんは本当にセレスさんの事を大切に想っているんだね。それにしても、初めて魔剣を実際に見たけど、誰が作ったんだろう?伝説の刀匠みたいな人なのかな?あれ……?でもこれって……
『双焔真紅』に注がれる、マリアからの熱い視線に気がついたニーナが声をかける。
「マリア殿?そんなにこの魔剣が気になるかい?」
「……この魔剣、お手入れとかってどうしてるんですか?」
「ああ、いやそれがなかなかに大変でね。この魔剣の手入れが出来る鍛冶師なんて、大陸中でもほんの僅か……セレスとの遠征の合間に、運が良ければって感じなんだよ」
まぁそうなるよね。このレベルの武器となると、扱える者は少ないだろう。だったら……
「あの、私がお手入れいらずに魔法を付与しましょうか?」
「「え!?」」
ニーナとセレスの声が重なる。そしてクロエは満足そうな笑顔を見せている。
「これ、私が作った剣なんですけど、どう思いますか?」
マリアは『次元収納』から『ナナイロ』を取り出し、ニーナへ渡した。
「ちょっ!!ちょっと待ってくれマリア殿!!これは……間違いない……全てオリハルコンで出来ている……しかも、複数の魔法がエンチャントされてるんじゃ……」
「それはマリア様の剣、『ナナちゃん』です!」
クロエが無い胸を反らしながら紹介する。
「あらぁ、とっても綺麗な剣だしぃ、ナナちゃんってお名前もぉ、すっごく可愛いねぇ」
「さすがは緑の聖女セレス様です~!ナナちゃんの名付け親は私なんですよ~えへへ」
「クロエちゃんがぁ?ネーミングセンスあるあるぅ!可愛いよぉ」
お?なんだなんだ?実はこの二人って相性いいのか?
「……マリア殿がこの『ナナちゃん』を作ったって事は……エンチャントも自分で?」
「あ、はい。見たところ魔剣のチカラは、魔法の付与ではない特別な技法のようですが、その上から新たに魔法を付与しても問題なさそうです」
(『叡智』さん、私の見立てで間違いないかな?)
《はい。マスターの認識で問題ありません》
よし。『叡智』さんからお墨付きも貰ったし、ニーナさんが了承してくれるなら魔法を付与しようかな。
「ニーナさんの魔剣に、この場で幾つか魔法を付与しましょうか?」
「こっこの場で!?エンチャントは相当な時間と技量が必要な……いや、マリア殿だしな……しかし……私は命を狙われたりしないだろうか?」
「命を?どうしてですか?」
「……この『ナナちゃん』は、大陸中の国に納められている国宝を、幾つかき集めても替えがきかない逸品だぞ……これと同じようなエンチャントを持つ魔剣なんて……いや、蹴散らそう……私の魔剣を奪いに来る者がいれば、徹底的に蹴散らしてやれば良いんだ!そうだ!そうしよう!あっはっはっは」
どうやら魔法を付与して欲しいみたいだ。
「では早速。ニーナさんの魔剣をお借りしますね」
マリアは魔剣『双焔真紅』を手に持つと、聖花の紋章が虹色に輝き、その光がニーナの双剣を包み込んだ。
(せっかくだから色々と付与しちゃうか……あれとあれと……あれもあった方がいいかなぁ……)
「はい!終わりました」
「ええ!?まだ10秒ほどしか経ってないのだが……何をエンチャントしてくれたんだい?」
「切れ味向上・自動修復・素材強化・魔力最適化の四つです」
「「…………」」
ニーナとセレスはぽかーんとした顔をし、もちろんクロエは満面の笑顔だ。
「ほんの少し魔力を込めれば自動修復されるので、お手入れは不要になりますよ。それと魔力最適化を付与したので、私の見立てではニーナさんの『裂破』、あれに必要な魔力も十分の一程度で済むかと」
「!!!?!?!?!?!?」
マリアの驚きの言動に混乱気味のニーナであったが、頭の片隅でほんの少し考えている事があった。
(私……ランクS目指しちゃおっかな……)