第100話 【 豊穣 】
「フワァーハッハッハッハ!すまんすまん。つい楽しくなってしまってな。確かにこの山頂から、土へ還った同胞のチカラを感じる。我はここで待っているゆえ、マリア達は目的の物を探してくるとよいぞ」
「いえいえ、ドライゼンさんのお陰で、安全に早く到着することが出来ました。それでは行ってきますね」
マリアはそう話すが、他の三人は
(((今のが安全!?)))
と疲れ切った表情で思っていた。
「あれ?この山って凶悪な魔獣が、多数生息しているんですよね?『サーチ』にまったく反応がありませんけど……」
「マリア殿の『サーチ』は、通常より広範囲を探れるんだったな?まぁ反応が無いのは当然だと思うぞ」
「え?ニーナさんには理由が分かるんですか?」
「いや……古龍が降り立ったんだぞ!?古龍だぞ古龍!!魔獣共だって一斉に逃げ出すさ。まぁ時間が経てばまた戻ってくるだろうけどな」
そうか!ドライゼンさんとは食事をしたり、お話をしたり、楽しい時間ばかり過ごしているから、イマイチ古龍に対する認識が、世間とズレがあるんだよなぁ。
でも邪魔な魔獣が勝手にいなくなってくれたのなら、今の私達には好都合だね。
マリア達が暫く歩いていると、それはあった。
巨大な古龍の全身骨格だ。
マリア達は静かに目を瞑り、手を合わせた。
「セレスさん、輪廻の花はどれですか?」
「う~ん、それがぁ、なんにも感じないのぉ」
確かに、ちらほら見える草花は、雑草と言っていいものばかりだね。
「マリア様ぁ、もしかしてもともとの土壌が、良くなかったんじゃないですか~?」
「そっか!輪廻の花って、秘薬の材料になるくらいすごいものだもんね。豊かな土壌があってこそなのかもしれない。グッジョブだよクロエちゃん!」
「えへへへ~」
あ~、やっぱりクロエちゃんの頭を撫でるのは落ち着くなぁ。
「いやいやマリア殿、それが分かった所で無いものは無いぞ?大人しく帰ってこの事を報告するしか……」
「いえ、いるじゃないですかニーナさん!奇跡を起こせる人がすぐそこに」
ハッとした表情になるニーナとクロエ、そしてマリアの視線が、一斉にセレスへと向かう。
「え?えぇ?あぁ!そっかぁ!私の【豊穣】のチカラかぁ!てへぺろぉ~」
こっちの世界にもてへぺろ文化あるんかい!?てか自分で『ぺろ』を言うんかい!!
セレスはたわわな胸の前で手を組み、詠唱を開始した。
「我 緑の聖女が願う 女神よ 世界に光を 女神よ 世界に希望を 女神よ 世界に安寧を 命の還りし大地に 再び命を生み出すチカラを与えたまえ」
……カリナめ、どんだけ自分に願わせる詠唱文にしてるんだ……恥ずかしくないのだろうか?セレスさんが実際のカリナを見たらどう思うか……
セレスの詠唱が終わると、周囲の大地が光り輝き出した。どうやら【豊穣】が発動したらしい。
それにしても……ものすごいチカラを感じる。これが聖魔力を使った【豊穣】……とんでもないチカラだね。あれ?こんなとんでもないチカラが、私の体の色々な部分に振り分けられてるって事だよね……なるほどね。そりゃ地球で『超規格外』なんて言われる訳だ……
大地の光が収まると、見る見るうちにたくさんの草花が、どんどん生えてくる。
古龍のチカラも宿っている土だから、植物の生長も段違いなんだろう。
「ふわぁあ~!すごいですね~!あっ!あの綺麗な花ってもしかして!?」
「クロエちゃんお目が高いねぇ。間違いないよぉ。あれが輪廻の花だよぉ」
輪廻の花……花びらが常に光り輝いている……本当に綺麗だね。
「む……おいおい一輪だけじゃないぞ!全部で五カ所に咲いているぞ!全部持って帰って余りは売るか?でも別に金には困ってないし……うーむ」
「でしたら私の『次元収納』に入れておきましょう。もし今後必要になった時、新鮮な状態で使えますよ」
「そうか!『次元収納』の中って、時間が止まってるんだよな?マリア殿は反則すぎるぞ!いや、良い意味でな!」
「売らずに取っておきますね。それとこの古龍の骨格も、誰かに悪用される可能性もありますし、私が仕舞っておきます」
超巨大な骨格を、あっさりと『次元収納』の中に収めるマリアを見て、セレスもニーナも苦笑いをしていた。
目的を無事に達成した一同は、さて帰ろうかと思ったのだが、マリアの『サーチ』にこちらに向かってくる、一体の魔獣の反応がある。
ドライゼンさんのいる場所とは、逆の方向から来てるね。
私達の存在に気がついて、狩りに来たってことか。
「皆さん!私がまだ知らない魔獣が一体、向かって来てます!戦闘準備を!」
ズシンズシンという地響きと共に、バキバキバキと木々が倒される音が近づいてくる。どうやらかなり大きな魔獣のようだ。
そしてマリア達の前に、その魔獣は姿を現した。
体長10メートルはあろうか……パンパンの筋肉で濃い青色の肌に、ギョロリとした大きな単眼。手には巨大な棍棒のような武器を持っている。
「ふわぁあ~、大きな一つ目さんですねぇ~」
「すごい目だね。あの目、クロエちゃんの顔よりも大きいよ」
「あんなに目が大きいとぉ、ゴミが入って大変じゃないのかなぁ?」
「……三人とも、どうしてそんなに呑気にしてるんだ?ありゃ脅威度Aの『サイクロプス』だぞ?」
「「「…………」」」
「だってぇ、古龍さんを見た後じゃねぇ?それにぃ、脅威度Aならぁ、ニーナがいれば安心でしょぉ?」
「……まぁ、やる事が無さ過ぎて、どうしたもんかと思ってた所だ。此奴の相手は私がする」
おおおお!ランクA冒険者、ニーナさんの実力がこんな所で見れるんだね!
ニーナは腰の双剣をスラリと抜いた。
「悪いねサイクロプス!デカい相手は得意なんだ。見せてやるよ。私の『裂破』を!」
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