第98話 襲来?
とりあえず大興奮の学園長エレノアを落ち着かせ、マリアは話を続けた。
「この書物には龍の秘薬の精製方法と、必要な素材が書かれています。精製方法はとくに難しくはありませんね。必要な素材も少ないですよ。『輪廻の花』と『古龍の魔石』、『古龍の骨』、それと『古龍の鱗』が必要みたいですね」
マリアの説明を聞いた一同は、また暗い顔になってしまった。輪廻の花って初めて聞いたけど、入手困難な素材なのかな?
「輪廻の花かぁ……いきなり難しい素材だねぇ」
「そんなに入手が難しい素材なんですか?」
「セレスに代わり私が答えよう。輪廻の花とは、寿命を迎えた古龍が土に還った場所に咲く花なんだ。そもそも数も少なく長寿である古龍が、寿命を迎えた場所なんてそう多くないし、さらに簡単に立ち入れるような場所ではない。ハイランクの冒険者でも、実物を見た者はそうはいないだろう。たった一輪で白金貨100枚以上になると言われているしな」
「さすがぁ!長生きしてるだけあってぇ、ニーナは詳しいねぇ」
「……長生きって言うなセレス。それにこの場では、私よりエレノア殿の方が長生きだぞ」
「ニーナさんそれは言わないで下さいよ!」
セレスさんと二人のエルフがわちゃわちゃとしているけど、輪廻の花ってすごく価値のあるものなんだね。まぁ秘薬と呼ばれるようなものの素材になる訳だし、それもそうか。
「輪廻の花か……幸いと言っていいのか、我が国に古龍が寿命を迎えたと言い伝えられている地はあります。ですがあくまで言い伝えであり、とても危険な場所です」
「レオナルドさん、そんなに危険な場所なんですか?」
「……そうですね。我が国の北方にある最も高い山、そこの頂上だと伝えられています。標高も高いですし、かなり凶悪な魔獣も多いと聞きます。頂上まで行くのに一体何日かかるのか……仮に辿り着いたとしても、そこに輪廻の花があるかどうかも分かりませんし、帰りも魔獣との戦闘は避けられないでしょう」
「あそこの山の頂上か……私の兄のクラン総出でも往復で二ヵ月……クランの三割が死亡……このくらいの見積もりになるだろうな」
あらら……また重たい空気になってしまったね。
うーん、でもまぁそういう事なら何とかなりそうだ。
「皆さん顔を上げて下さい。とりあえずその場所へ安全に、時間をかけずに行く事は出来ると思います」
「え……?マリア殿、先ほども言ったように兄のクランでも……いや、もしかして何か役立つオリジナル魔法があるのか!?」
「いえいえ、魔法ではないですが簡単に行ける方法があるんです。とりあえず輪廻の花がその場所にあるのか、見に行ってみましょう」
まるで近場に、薬草採取にでも行くようなテンションで話すマリアを見て、クロエ以外の皆はポカーンと口を開けている。
「……ですがマリア殿……仮に輪廻の花があったとしても、他の素材も余りにも難しい物ばかりです……」
あぁ、レオナルドさんの言ってる事は尤もだね。
でも大丈夫なんだよなぁ。
「その事ですが、『古龍の魔石』と『古龍の骨』は私が持ってますし、『古龍の鱗』もたぶん貰えると思うので大丈夫ですよ」
「「「「「え?」」」」」
「え?」
「「「「「ええええええ!?」」」」」
「ここで魔石と骨を出しましょうか?あ、でも魔石も骨も大きくて重いから、部屋の中じゃ危ないかな?」
「「「「「出さんでいいぃぃい!!」」」」」
みんな息ピッタリだね。まぁ兎にも角にも、輪廻の花が咲いているのか確かめに行かないとね。
「そっかぁ。マリアちゃん、古龍ゾンビを倒したって言ってたもんねぇ。輪廻の花探しのメンバーはどうするのぉ?」
「……私の母の事で申し訳ないのですが、マリア殿と……輪廻の花を見極めるために、セレス殿にも行ってもらわないといけませんね」
「セレスが行くなら護衛の私も当然同行するよ!マリア殿はどうするんだい?さすがにクロエは置いて行くか?」
あ、クロエちゃん槍をブンブン振り回して、全力でアピールしてるね……本当は危険な場所に連れて行きたくはないけど、私が守れば良いだけか。
「クロエちゃんも連れて行きますよ。輪廻の花を探しに行くメンバーは、セレスさん、ニーナさん、クロエちゃん、そして私の四人で決まりですね」
「……マッ、マリア先生!自分も同行しては駄目でしょうか!?」
「ケンリー君、お母様に関わる事ですから、ケンリー君の気持ちも分かりますが、連れては行けませんよ。ケンリー君もレオナルドさんも王族なんですから、命を張るのは国や民を守る時のみです」
「うぅ……分かりました……輪廻の花探し、どうかよろしくお願いします」
こうしてメンバーは決まり、その場に学園長エレノアもいたこともあり、マリアとクロエは輪廻の花探しから戻るまでの間、学園を休むことになった。
「出発は早い方が良いですよね。そうだ!ちょっと確認してくるので、席を外しますね」
マリアはそう告げ離席すると、暫くの後もどって来た。
「皆さんお待たせしました。明日の昼食後くらいの時間に、またここへ集合で良いですか?」
「「「「「?????」」」」」
マリアが何の確認をしてきたのか分からない一同は、マリアに促されるまま了承し、この日は解散となった。
───◇─◆─◇───
翌日、昨日と同じ面子で王城に集合していると……
ズ ズ ズ ズン!!
「な!なんだ!?地震かっ!?」
「レオナルドさん落ち着いて下さい。来てくれたみたいです」
「来て……くれた?」
そんな会話をしていると、マリア達のいる部屋に兵士が飛び込んで来た。
「しっ失礼します!緊急事態です陛下!!庭にっ!城の庭に古龍がっ!!」
「「「「「こっ古龍!!?」」」」」
古龍襲来……それはつまり、国の崩壊を意味する。
青ざめる一同の中、すでにマリアから詳細を聞いていたクロエは、マリアが皆から尊敬されるイベントが来た!そう思いニコニコとしているのであった。