第96話 お手伝いしま……した!
ゲスタスって人も大番頭さんも、黙り込んじゃってるね。
多くのギャラリーや多数の兵士、聖女二人のみならず国王にまで囲まれた状態じゃ、諦める他ないかな。
「す……全て大番頭がやったことで……」
「いや、もうよい。此度の件の前に、お前には先王への金の流れや、他の商会への妨害行為など、多数の疑惑が上がっている。ゲスタス商会で働く者は全て、これから教会で取り調べを行う予定だ。これは国王としての命令であり、潔白であればそれを教会で証明すれば良いだけの事だ」
あ……私が慈悲を与えようが、関係ないようだね。
レオナルドさんの事だから、すでに色々と証拠が揃っているのだろう。
あれ?なんかクロエちゃんが、不満そうな顔をしている。
ああ……主犯が暴れて、私が華麗にやっつける事を期待していたんだね?
いやぁ、さすがにこの状況じゃ、そんな事できる商人いないんじゃないかなぁ。
クロエちゃんが期待するような私の活躍は、またの機会にね?
───◇─◆─◇───
とまぁ、昨日のメンバー四人で宿に戻って来た訳だけど……なぜかレオナルドさんもいるのはどうして?
「セレス殿から、あの肥料の効果を聞きまして……マリア殿、ヘリオルスでも販売して頂けないでしょうか?」
ちなみにマリアからの願いで、レオナルドはマリア様ではなく、マリア殿と呼ぶようになっていた。
「肥料の件でしたか。実はロートリンデン以外で、販売していない理由がありまして--」
「--なるほど……そういった理由があったのですね。確かに我が国や帝国は、聖女の【豊穣】のチカラを使い、金儲けをしてきたのは事実ですね……ロートリンデンで暮らすマリア殿が、かの国を潤すために決めた事でしたら、私はこれ以上なにも言えません」
レオナルドさん、すごくガッカリしているね。
でも状況が整えば、他国での販売も視野に入れてるんだよ。
カリナからこの世界の発展に、寄与して欲しいって言われてる訳だし、ロートリンデン王国のためだけに動くつもりはないからね。
「状況が整えばですが、ヘリオルスにも聖女商会の支部を作って、様々な商品を販売する予定ですよ。あの肥料がグライド大陸に広まれば、セレスさんもたくさん、自分のための時間が作れるでしょうしね」
「え……マリアちゃん……さすが聖女仲間だよぉ!ニーナぁ!時間できたら観光旅行とか行こうねぇ!」
「ゆっくり出来る時間が出来ても、結局は旅に行くのかよ!まぁ確かに観光旅行はしたいが……」
うんうん。聖女商会の皆と相談して、なるべく早く支部を作るからね。
「それにしてもマリア殿。肥料の袋の大きさは、統一されていると仰っていましたが、ロートリンデンではそのような技術があるのですか?」
「あ、そうだ!そのことでレオナルドさんに提案がありまして。袋の件は私のオリジナル魔法が関係しているんですが、王城の建て替えに役立てるかなと」
「「「オリジナル魔法!?」」」
「はい。『リプリケイション』という魔法で、材料さえあれば同じ物を、際限なく複製する事ができます。お城を造るのって、石を同じ大きさに切り出したり、整えたりするのにかなり時間を使いますよね?私の魔法を使えば、大幅に時間を短縮できると思います」
理由はどうあれ、王城を壊しちゃったのは私だし、悪いのは前の王様であって、レオナルドさんじゃないからね。
セレスさん達の話を聞く限りでも、レオナルドさんは良い人のようだし、学園の授業が終わった後や休みの日に、お手伝いさせてもらおう。
「やっぱりマリアちゃんすごいよぉ!ニーナもそう思うよねぇ?」
「あぁ……オリジナル魔法なんて、簡単に創れるものじゃないからな」
セレスとニーナの言葉に、深く同意するようにレオナルドも頷いている。
そういうものなんだなぁ……といった顔をしているマリアに、ニーナが敏感に気がついた。
「そういえば……あの肥料の袋にあった、虹色に光るマークも……マリア殿……幾つのオリジナル魔法を持っているんだ?」
「そうですね……今は七つほどでしょうか」
「「「はぁぁぁあああ!?」」」
やっぱりそういう反応になるのね。
長寿であるエルフのニーナさんの驚きようからして、オリジナル魔法を創れる人は本当に少ないんだろう。
まぁ仕方ないじゃん。創りたい魔法があって、それを創れる加護を、創造神様がくれちゃったんだから。
───◇─◆─◇───
翌日から、マリアが築城のお手伝いをするようになったのだが、石材や木材の複製だけでは物足りなくなったマリアは、『聖なる身体強化』を使用し石材の積み上げや、荷運びも爆速でおこない、せっかくだからと素材強化や表面保護など、様々な付与もおこなった。
こうして、工期10年を見積もっていた築城計画は、マリアの参加から10日で完成という、全く意味不明な事態で幕を閉じることになる。
マリアがそんな事をしていたと知らない周辺諸国では、ヘリオルス王国には未知の築城技術があると、大いに噂が広まるのであった。