宝くじに代わる新しいくじを販売します!
「最近なんだか宝くじの売り上げが悪いわねー」
「そうですな。どうやら人間どもの間で、宝くじは買えば買うほど損する空くじだ……と揶揄されることが多くなってきたようで。人間どもも賢くなってきたということなのかもしれませんな」
「賢く、ねえ……。あんた、人間の姿になったイタチに神様がネズミを投げ与えるお話、知ってる?」
「いえ、寡聞にして存じませんが」
「イタチが人間の若者に恋をしてね。神様にお願いして可愛い乙女の姿に変えてもらったわけ。やがて二人は結ばれたんだけど……。そこで神様が、イタチは外見だけでなく中身も人間になれたのだろうかと、試しに餌のネズミを投げ与えてやったのね。そしたらその娘はイタチの本性を現し、ネズミを追いかけてしまうのよ。それで怒った神様は娘を元の姿に戻してしまった……っていうお話」
「ははあ……読めましたぞ。女神様、そのお話のようにネズミを人間どもに投げ与えるおつもりですな?」
「ええ、そうよ。仮初の理性を失うような、とびきりのネズミをね」
「いったい、どのような?」
「そのうち分かるわよ。まあ見てなさい」
「女神様! すごいですぞ! くじが連日売り切れ状態です!」
「ちょっと趣向を変えただけなのにバカ売れね。ちょろいわ」
「どこそこの売り場で大当たりが出たと知るや、すぐにその売り場に行列ができるとか! いやはや、人間の本性はまったく変わっておりませんな……女神様が先日されたイタチの話にも頷けるというもの!」
「でしょう?」
「それで、今回はいったいどんなくじを販売されたのです?」
「チートくじよ」
「チ、チートくじですか!? それは確かに人間の欲求を煽るにはぴったりのものですな!」
「ええ、お金も力も、人間が常に求めるものだからね」
「……しかし、良いのですか?」
「あら、何が?」
「チート能力の種類によっては、女神様に盾突こうと考える者も出るやもしれませんが……」
「ああ、そんなこと。一等で貰えるチート能力ですら、私たちにとって脅威となるようなものではないわ。気にする必要はないわよ」
「それなら一安心です。いやはや、女神様の慧眼には驚かされますな! これで女神様、ひいては我らの財政が再び潤うこと間違いなし!」
「あんたも、スカウトが来てた余所の神の下に行かずに済んだわね?」
「……!! めめめめめめ滅相もございません! わた、わた、わたくしめは女神様にお仕えすることを無上の喜びとしており……!」
「はいはい、そういうことにしといてあげる」
「お、お分かりいただけて光栄です!」
「まああんたが言った通り、これでしばらくは安泰ね。またテキトーに遊んで暮らすとしましょうか」
「そうですな……雲の下をごらんください……! 当選者があんなに嬉しそうに小躍りしてますぞ!」
「ふふ……可愛いわあ……」
「まったく、無邪気なものですな!」
「世界を変えられるようなチート能力なんて、与えるわけないのにね……宝くじと同じで」