パーティーが始まる
「うーん。やはり来ないか……。分かってはいても少しモヤモヤはするね」
アルペンハイム公爵は溺愛する娘の美しいドレス姿に見惚れながら呟いた。
卒業パーティーの当日。
打ち合わせ通り、婚約者であるアルベルト殿下は公爵家に迎えには来ない。
「僕は良いですけどね。だって胸を張ってツツェをエスコート出来るんですから」
そう言ってツツェーリアを愛しげに見てくるのは義弟アロイス。
「まあまだ『胸張って』とは違う気もしますけれどね」
公爵夫人は娘の晴れ姿を微笑ましげに見つめながらも、アロイスの言葉に苦笑する。
「……私は兎に角緊張いたしておりますわ。今日、全てが決まるのですから」
───このままアルベルトと結婚し王妃となるのか、婚約解消を成し遂げ愛するアロイスと共にこのアルペンハイム公爵家の後継として生きていくのか。
ツツェーリアにとって……いや今回この事に関わる人達にとって大きな運命の分かれ道。
公爵夫妻もアロイスも、真剣な顔で頷く。
そしてツツェーリアの前に手が差し出された。
「───さあ行こう。ツツェーリア。僕たちの運命を掴みに」
ツツェーリアは頷き、アロイスの手を取った。
◇
「……え? ウソ、まさか……」
「アルペンハイム公爵令嬢が弟君とご入場、という事は……」
アロイスと共に卒業パーティーの広間に入ったツツェーリアは、人々の騒めきの中にいた。
周りの生徒達は、おおよその予測を立てながらも公爵家の人間であるアロイスとツツェーリアにはそれを尋ねられないでいる。
──その時。
パーティー会場への入り口に現れたのは、王太子アルベルトにエスコートされた子爵令嬢セイラ。そしてその両サイドで守るように侯爵令息ブルーノと伯爵令息マルクス。
……ザワリ……
会場内は一瞬どよめいた後、静まり返った。
そして彼ら4人は広間の中に歩き出す。会場中の人々は彼らの動きに注目した。
セイラは嬉しくてたまらないという顔。……しかし王太子達3人は非常に真剣な表情だった。
「……ねぇ。まさか殿下は本当にあの子を?」
「信じられないが、婚約者である公爵令嬢を差し置いてこの公式の場でエスコートをするという事はそういう事なのだろう」
「あの『非常識令嬢』を、妃か愛妾に、……てこと!?」
皆の囁きがだんだんと広がる。それでも、彼ら4人は気にせず歩き続けた。……ある人物の所へと。
……いよいよ、だわ。
運命を決める大舞台を前に、ツツェーリアは知らず震えた。
……その時、不意に手を優しく握られる。横を見ると、アロイスがツツェーリアを見ていた。
……大丈夫。僕が側にいる。
そう、言われた気がしてツツェーリアは少し肩の力が抜けた気がした。
……ええ。私はやり遂げてみせるわ。
そう思い、彼の手を軽く握り返してから離す。そしてゆっくりと前を見た。それを見届けたアロイスは少しだけ後ろに下がる。
アルベルト達が近くまで来ているのが見えた。
「ツツェーリア。……婚約を、解消して欲しい」
アルベルト王太子のその発言に、卒業パーティーに集まったほぼ全員が驚き彼らを見た。
ツツェーリアは彼らの真正面に立っていた。真剣な表情のアルベルト。……彼も、やはりこの最終局面を前にかなり緊張しているようだ。
ここではまだツツェーリアは動かない。淑女然として彼らの言い分を聞くのだ。
……ツツェーリアはさっきアロイスに勇気を与えてもらった手を、もう片方の手でそっと包み込んだ。
そして、この会場内の空気が凍り付いているのを感じる。その殆どが、王太子であるアルベルトのこの非常識な行動に怒りを覚えているようだった。
その時、アルベルトは視線を周囲に向け語りかけた。
「……良い機会なので皆にも聞いてもらいたい。私は……私達は皆も知っている通りこの約一年学園で王族や高位の貴族として相応しくない行動をしていた。婚約者を蔑ろにし、遊び歩いた。
このような自分達が美しく気高い我らが婚約者殿達に相応しいはずがない」
アルベルトはそう言って自分達を断じた。
周囲はどういう事かとアルベルト王太子を見た。
おそらくここにいる誰もがこれは今王都の恋愛小説で流行りの『婚約破棄、そして婚約者への断罪』かと思った。しかしどうやら違うらしい、と。
「我らの婚約者は3人とも実に素晴らしい女性です。ひざまづいて愛を乞うべき方々。
……その方々に、相応しくないのは私達なのです」
侯爵家ブルーノもそう苦しげに言って彼の婚約者を見た。
「……私達はこの素晴らしい女性達のお心に添えない。ですから、ここで婚約の解消を望みます。この場にいる皆様方には彼女達には一切の非は無い事をここに宣言いたします」
マルクスもそう宣言してマリアンネを見た。……彼女は少し青ざめ震えているように見えた。
周囲も彼らも、黙ってその婚約者達の反応を待った。
静まり返ったパーティー会場。
……少し、間を置いてから私が前に出るのよね。
いよいよ出番だわとツツェーリアが動こうとした、まさにその時。
……その場に不釣り合いな声が響いた。
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