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恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜  作者: 本見りん


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『解消』の代償


 『傷物令嬢』



 この貴族の世界では婚約を破棄などという不穏な状況となった場合、大抵は女性側に不利となる。あたかも女性側に問題があったかのような評判となってしまうのだ。

 そうなると次の婚約などはなかなか決まらず、かなり歳の離れた貴族の後妻か何か問題のある者の結婚相手となる可能性が高い。



 実際もしもアルベルトとツツェーリアの婚約が解消となった場合も、大きく騒がれツツェーリアの評判は大きく落ちることとなる。


 ……が、ツツェーリアの場合はこの国で王家の次に権威のある『筆頭公爵家』の一人娘である事。そしてアロイスという新たな婚約者となり得る存在がいる事からそう大きな問題とはならないだろう。

 父公爵が睨みを効かせるだろうし、もしもアロイスが居なかったとしても立場的にツツェーリアの婿希望の令息達は後を絶たないはずだ。



 そして……、おそらく侯爵令息ブルーノもお互いに恋人がいるのなら一時の騒ぎさえ過ぎればそう影響はないはずだ。侯爵家と子爵家という2人の家の格差からむしろ周りからもそれを望まれているだろう。……祖父である侯爵だけを除いて。



 なんというか、ある程度婚約解消の影響があるのはハルツハイム伯爵家とシッテンヘルム侯爵家だ。


 マリアンネ シッテンヘルム侯爵令嬢は、自らが招いた事とはいえ、大きな代償を払う事となるだろう。



 しかしツツェーリアとアルベルトはマリアンネを好意的には見てはいないが、彼女の不幸を望んでいる訳ではない。


 アルペンハイム公爵家や王家の力を使えばマルクスとマリアンネの婚約を無かった事に出来なくはないだろうが、マリアンネの負うだろう傷を考えるとそれは良くないだろう。



「私は『婚約解消』という不実な事を目指す以上、出来る限り誰も傷つけないようにしたい。だからマルクス達の婚約も出来れば穏便に解消させてやりたい」


「それは勿論そうですわ」



 ツツェーリアも大きく頷く。



「そしてブルーノと我らの婚約も……。そうなる事が本人達には一番望ましいのだが、今のままでは八方塞がりだ。父上や侯爵をどうやって納得させるか……。

ツツェーリア。私たちの事、ブルーノとマルクスにだけ話しても良いだろうか? 2人ならばきっと我らの事を分かってくれるだろうし決して口外もしない。……そして何か我らに考えつかないような『策』も出てくるかもしれない」



 ……きっと、アルベルト殿下は誰かに相談がしたいのだわ。この事は今はツツェーリアとしか話せていない。肝心の恋するエディット王女は帰国してしまい、もどかしい思いをされているはずですもの。



「ええ。皆が同じ思いならこの気持ちも共有出来るはずですもの。

良い『策』が、出ると良ろしいですわね」



 ツツェーリアの言葉にアルベルトは少しホッとしたように頷いた。



 ◇



 アルベルト王太子とツツェーリアは婚約者。……であるから、王宮でのパーティーではパートナーとして出席する。




「ツツェーリア、とても美しいよ。今日も宜しくね」



 アルベルトが優しく微笑む。

 ツツェーリアもそれに微笑み返す。



「……ありがとうございます。殿下もとてもご立派でいらっしゃいますわ」



 アルベルトは手馴れた様子でツツェーリアの手を取りエスコートしながらパーティーの人々の中を進む。

 人々は仲の良い将来の王と王妃を頼もしく思って見ている。



「……王太子殿下。ご機嫌麗しく」



 たくさんの貴族達も挨拶を交わしていると、父であるアルペンハイム公爵が義息子アロイスを伴ってやって来た。



「アルペンハイム公爵。……アロイスもよく来てくれた」


「はい。公爵家後継としての教育を受けながら父とこうして皆様にご挨拶をしております」



 アロイスは来年から王立学園に通う。最近は後継として公爵とあちこちのパーティーに顔見せがてら出席している。



「……そうであったね。ツツェーリアとは一歳差であったか。来年はいよいよ王立学園に入学となるのだな」


「……はい。学園で精一杯学び殿下の御為お役に立てればと思います」




 ──目の前で、愛する人と婚約者が話をしている。立場的には婚約者であるアルベルト側であらねばならないのだが、ツツェーリアはアロイスが気になって仕方がなかった。


 勿論優秀な公爵家後継のアロイスは王太子との会話で粗相をすることなどないのだろうが、どうしても心配でならないのだ。



 そんなツツェーリアの落ち着かない様子に幼い頃から共に過ごすアルベルトは気付いていた。

 幼馴染でもあり婚約者であるツツェーリア。完璧な淑女として王妃教育を施された彼女がこんな風になるのは、このアロイスの前でだけ。

 自分と2人きりの時には肩の力を抜いているようではあるが、それ以上にツツェーリアにとってはこのアロイスが『特別』だという事をアルベルトは痛い程感じた。



「……殿下。あちらの方々もご挨拶をお待ちですわ」



「…………そうだな。では公爵、アロイス。この後もパーティーを楽しんで行ってくれ」



「「ありがとうございます」」



 アルペンハイム公爵とアロイスは頭を下げた。

 

 頭を上げたアロイスは、じっと王太子とツツェーリアを見つめた。……どこから見ても、お似合いの2人。そして誰よりも将来の王妃として相応しいツツェーリア。

 ……ズクリと、アロイスの胸が痛む。



 そしてツツェーリアはアルベルトを促し歩き出したものの、チラリ、と彼らを振り返る。

 アロイスと、ツツェーリアの目が合った。


 ほんの一瞬、目が合っただけなのに。2人の胸は切なく高鳴った。



「……ツツェーリア」



 それに気付いたアルベルトはツツェーリアに呼びかけ自分に振り向かす。アルベルトはツツェーリアが切ない思いをしているのが分かりながらも、そんな2人に何かモヤモヤした気持ちを抱いていた。



誤字報告、ありがとうございます!

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