表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/28

君と、あの春をこれからも

春が過ぎ、初夏の気配が街を包み始めた頃――。


駅のホームに吹く風は、冬の頃のような刺すような冷たさを失い、どこか懐かしさを孕んだ穏やかな空気を運んでくる。夕方前、部活帰りの高校生たちが楽しげな声をあげながらすれ違っていく中で、夏樹はベンチに腰かけて、美音を待っていた。


ほんの数ヶ月前、同じようにこの駅の前でイルミネーションを見上げていたことを、ふと思い出す。あのとき、伝えきれなかった言葉。気づかなかった想い。そして、すれ違いの中で見つけた、かけがえのない距離。


今、それらはもう、遠い記憶ではない。二人で紡いできた「時間」の中で、すべてが今の自分たちを形作っている。


「お待たせ」


その声に顔を上げると、薄手のカーディガンを羽織った美音が小走りで近づいてきた。髪がやわらかく揺れ、目元に浮かぶ笑みは、春の日差しのようにやさしかった。


「今日は早く終わった?」


「うん、ゼミがちょっとだけ。駅前のカフェ、まだ空いてるかな」


「行ってみようか。前に座った、あの席が空いてるといいな」


何気ない言葉のやりとり。だけどそのすべてが、今はかけがえのないものに思える。かつて“伝えられなかった”ことばかりを胸に抱えていた日々を経て、ようやく手に入れた日常だった。


ふたり並んで歩き出す。駅前の並木道は、少しだけ風に揺れていた。夕暮れが静かに迫り、街の音が柔らかく包まれていく。


「ねえ、夏樹」


「ん?」


「このまま、同じ景色をたくさん見ていけたらいいなって、思ってる」


「……うん。俺もそう思ってる」


言葉にしない約束が、そっと重なっていく。


未来はまだ、何も決まっていない。だけど、選び取っていくことはできる。少しずつでも、迷いながらでも――隣に誰かがいてくれるなら。


今、ふたりが歩くこの道の先に、どんな季節が待っているのかは分からない。けれど。


君に届いた、この想いを携えて。

僕たちは、また今日という日を、生きていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ