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それぞれの空模様

冬の空は澄んでいて、けれどどこか乾いている。

窓越しに射し込む陽の光も、どこか冷たく感じられる昼下がり。椎名美音はカフェの窓辺の席に座り、ラテの泡をスプーンでゆっくりとすくっていた。店内はいつもより静かで、客足も少ない。時間はゆっくりと、まるで時計の針が少し重たくなったかのように進んでいる。


スマートフォンに指を滑らせながら、何度目かのSNSの画面を開く。無意識に更新を押して、ふと指が止まった。


「……終わったんだ」


画面に映っていたのは、夏樹が投稿した一枚の写真だった。

《冬季講習終了!お疲れさまでした!》という一言と共に、塾の仲間たちと笑顔を浮かべる姿。

そしてその中で、夏樹の隣には花咲かながいた。

明るい笑顔でピースをする彼女。夏樹も、その場の空気に合わせるように微笑んでいた。


美音はスクリーンを指先で軽く押し、もう一度画像を拡大した。かなの肩に、さりげなく夏樹の肩が触れていた。偶然かもしれない。自然な距離かもしれない。でも、美音の胸の奥に、小さなひっかかりが生まれたのを感じた。


それは言葉にもならない違和感で、疑いとまではいかないけれど、確かに心を曇らせる。


(……あんなふうに笑えるんだ)


夏樹が誰かと楽しそうにしていることに、嫉妬しているわけじゃない。

だけど、自分が知らない夏樹の一面を、誰かが知っているかもしれないと思うと、胸の奥が少しだけざわついた。


*


一方その頃、夏樹は塾の控室で講習最終日の片付けを終えていた。

配布用の資料やノート、白板のマーカーや講師のチェックリストを整えながら、ふとスマホを手に取った。


《春になったら、また地元に帰る。あの時の続きができるかな》


自然とそんな言葉が浮かんだ。年末から年始にかけて、あれほど近づいた距離も、大学生活が再開してからは、また日常に押し戻されたようだった。でも、会えなかった時間があるからこそ、再び会える日のことを大切に思える。


(初詣のとき、あんな顔を見せてくれて……)


記憶の中の美音は、赤いマフラーに身を包んで、神社の境内で少しはにかみながら「特別だよ」と言っていた。

あのときの美音の声、仕草、温度。そのどれもが、今も夏樹の中で強く残っている。


(次、会ったときは……もう少し、ちゃんと伝えられるかな)


春になればまた会える。そう思うと、張り詰めていた日々の疲れがすっとほどける気がした。


*


「美音? さっきからボーッとしてない?」


バイト先の親友、黒木菜緒の声がかかった。カウンター越しに、美音の顔をじっと覗き込んでいる。


「あ、ごめん……なんでもないよ」


「ふーん、そう? でもなんか、また溜め込んでる顔してるよ」


菜緒は相変わらず鋭い。ごまかそうとしても、何かが伝わってしまう。


「……SNSで、ちょっと、ね。見ちゃって」


「夏樹くん?」


美音は小さくうなずいた。


「写真に映ってた女の子、隣にいて、すごく自然で楽しそうで……。分かってるんだ、夏樹くんが頑張ってるのも、忙しいのも。でも、ちょっとだけ、心が落ち着かなくて」


「そっか。でもそれって、ちゃんと好きになってる証拠じゃない?」


菜緒は淡々とした口調のまま、でも温かい目でそう言った。


「たぶん……そうかも」


美音は俯きながら、コーヒーのミルクをかき混ぜた。スプーンの音が、静かな店内に小さく響く。


(春になれば、また会える。会えたとき、わたしの気持ちは……伝えられるのかな)


想いは、確かにある。けれどそれがどんな形で、どこに向かうのかはまだ分からない。


*


その夜、夏樹のスマホに通知が届いた。

メッセージアプリのアイコンに、美音からの文字が浮かんでいる。


《お疲れさま。講習、無事終わってよかったね。》


(……見てたんだ、あの写真)


なぜかそのことが少しだけ恥ずかしくて、でも嬉しくて、夏樹はメッセージを打ちかけて手を止めた。


(言葉って、難しいな)


会いたい、話したい、伝えたい。

でも、それが届くかどうかは、春にならないと分からない。


明日が来れば、今日より少しは近づけるだろうか。

そんな淡い期待だけを胸に、2人はそれぞれの夜を過ごした。


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