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確かめたかったもの


 冬休みも、ゆっくりと終わりが見えてきた。

 年が明けてからの日々は、驚くほど静かだった。にぎやかな初詣や年始の集まりが過ぎ、街にも、生活にも、落ち着いた時間が戻ってくる。


 それはきっと、2人の関係にも言えることだった。


 あの電話の夜から数日。

 特別だという言葉を交わしたあとでも、何かが劇的に変わったわけではない。ただ、やり取りを交わす言葉の温度が少しだけやわらかくなった気がしていた。


 《明日、図書館行く予定なんだけど、夏樹もレポート進んでる?》


 そんな美音からのメッセージに、夏樹は少し悩んでから、短く返事を打った。


 《進んでるとは言えないかも。行くよ》


 日をまたいで、寒さの残る午後。

 2人は地元の図書館の、窓際の席に並んで座っていた。


 カフェと違って、私語がはばかられる空間。

 それでもたまに目が合えば、どちらからともなく微笑みがこぼれた。言葉がなくても、ここに一緒にいること自体が、少しずつ距離を縮めているような気がした。


「……こっちの本、まとめやすそうだよ」


 小さな声で、美音が差し出す分厚い文献。夏樹はそれを受け取り、ページを開きながら頷いた。


「ありがとう。助かる」


 それだけの会話が、なぜか心の奥をくすぐった。


 ただのレポート作業のはずだった。

 でも、並んで座って、時々目を合わせて、ふと笑うだけで、今日という日が少し特別になる。


 ページをめくる音と、ペンの走る音が静かに響く。


 ――冬休みが終われば、また、会えない日が続く。

 その現実がどこか頭の片隅にあって、今この時間を無意識に確かめようとしていたのかもしれない。


「……この前の電話」


 ふいに、美音が言った。


 「緊張してた、わたし。うまく言えてたかわかんないけど」


 夏樹は顔を上げて、美音の横顔を見つめた。


「うん。……でも、ちゃんと伝わってた」


 少し照れたように笑う彼女の視線が、そっと自分の方へ向けられる。


「夏樹くんは?」


「俺も……あの夜は、ちょっと怖かった。けど、言えてよかったって思ってる」


 言葉の温度が、冬の空気を少しだけあたためた。

 それはどこか頼りないけれど、確かに繋がり始めているものだった。


 静かなまま、時計の針は夕方を指していた。図書館を出るころには、辺りは薄暗くなっていたが、2人は自然な流れで並んで歩いていた。


 冷たい風が吹き抜ける駅前の通り。

 すれ違うカップルが寄り添って歩く様子に、2人の足取りがほんの少しぎこちなくなる。


「……そろそろ大学始まるね」


「うん。……始まったら、また忙しくなるかも」


 そう言いながらも、どこか物足りなさをにじませる声。

 また会えない日々が始まる。それを思えば、今のこの時間が惜しくなる。


「ねえ」


 沈黙を破ったのは、美音だった。


「お正月のとき……初詣、ちゃんと行けてよかったなって。ああいうのって、あとからじんわり思い出すね」


「うん。俺も。……ああいうの、また行けたらいいな」


 それはきっと、願いというよりも、ひとつの確信だった。

 また行きたい、と思う誰かがいる。それだけで、冬の夕暮れがどこかやわらかく感じる。


 「じゃあさ――」


 駅が近づいてくるそのタイミングで、美音が立ち止まった。


「冬休み終わる前に、もう一回どこか行こうよ。……たとえば、またあのカフェとか」


 少しだけ迷いながらも、言葉をつないだ彼女に、夏樹は静かに頷いた。


「うん。行こう。また会えるの、楽しみにしてる」


 ふたりはそこで、軽く手を振って別れた。


 言葉は少なかったけれど、心の中ではたしかに、何かが変わり始めていた。

 少しずつ、けれど着実に。


 冬の夕焼けが、彼らの背中をやわらかく照らしていた。


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