エピソード11 ミリタリーナイツ Age40
「はぁ……こんな事はしたくなかった」
連射によって吹き上げたミニガンの発射口はヒートアップさせ煙をあげながら再び速度を緩める、俺は強く握ったトリガーを離し倒れる小さな亡骸の前に立つ。
「あ?」
背中まで貫通したはずの弾創が1つも見当たらない。
死亡確認する為腕に足を引っ掛けた瞬間アミラは振り向くと同時に弓で殴りかかって来た、俺は腕で受け止めへし折り拳銃を打ち込むが転がる事で回避し床に小さな穴が開く。
立ち上がったアミラはドロップキックをかまし本棚に叩きつけられ本が雪崩込む、追撃をしようと距離を詰めてきたが本をぶん投げカドが額に命中しよろけた、アミラの首を掴み壁に叩きつけ絞め上げる。
「眠んな!」
彼女の目は充血し顔が青くなる、そろそろ気絶するか、泡まみれの口をぱくぱくさせる。
「何か…が…ここに………来てる!」
何かを話している、その瞬間太ももに針で刺されたような鋭い痛みが走った、あいつ腰に着けていたナイフに気が付きやがった。
外に逃げられたか、黄金の血液が出る人間の適切な処置なんて知らんが幸い傷は浅いようだ。
「どこに行きやがった!」
銃を構え村へ出て壁と木を注意しながら進む。
森の奥から、なにやら木が折れ曲がっているような音が響く、それはどんどん近づいている。
「は?」
今度は木の葉が揺れているのを知った時、鳥が飛び出すと同時に戦車が木を吹き飛ばしながら現れた。
「よおおおおおおお久しぶりじゃねえかジェイクうううう!」
スピーカーから聞いた覚えのある声が響く、ハンク、こいつも蘇りやがったのか。
「うおおっ!」
大砲が収縮すると同時に村の建物の1つが粉砕し破片をぶちまける、足元の橋が真っ二つに折れ曲がり飛び込む事で足場に退避する、今度は戦車を加速させたまま前進させ続けている、突っ込むつもりだろう。
「死ねぇぇええええ!」
俺は足場を走り抜けるが戦車はこちらへ方向を変えて追いかけて行く、待て、後ろからも森の木なんかよりもずっとでけえトゲが戦車を追い越すように地面から飛び出して来た、村を守るように塞ぐも大砲をぶち当て粉砕した。
「会いたかったぜええええジェイク!」
折れた木をキャタピラで潰し乗り上げて村に突撃しようとするも荊が飛び出し戦車に絡まっていて、宙でぶら下げられた。
――
「私の村を破壊するな!」
アミラの声と共に荊の絞める力が強くなって行き戦車の装甲が思い音を上げながら潰れていき、パーツをとめていたネジが外れていき落ちていく。
「クソ!おいお前!外に出てあのクソエルフを撃て!」
「無理ですわそんなの!」
そうこうしているうちに絞める力が強くなり装甲の耐久ではままならなくなる度にがくんと段階的に縮んでいく。
「じゃあ俺達はこのまま潰れるな!それに戦車が壊れ瞬間俺達は串刺しにされるだろうし!」
「そんな事いわれましても」
ハンクに銃を投げ渡されハッチに出る、確かに木の上に少女が立っている、銃を向けるも照準が定まらない、引き金を引くもアミラは木で盾を作り受け流す。
「防ぐなんて卑怯ですわ!」
もっと当てれば盾が壊れるかもしれない、そう考えたのか引き金を強く引いて銃が後ろへどこかに行ってハッチに腰を思い切りぶつける、そしてハッチの周りに金槌で思いっきり叩いた様な音と共に火花が走り抜ける。
「わわっ!」
村の方から男に撃たれている、ルヒネは全身を仔犬のようにぶるつかせながら中に飛び込んだ、ちょっとちびったのは、内緒。
「やったか!?」
「無理ですわ!なんかで防がれましたわ!」
「はあ!?出るぞ!出ないと死ぬ!」
2人は武器をありったけ手に取るとハッチから飛び出す、戦車は完全に潰され足元が大きく揺らいだ。
「村の方に飛べ!」
ハンクはジェイクに向かって撃ちまくりあわあわしているルヒネの腹に腕を回した。
「へ?」
躊躇いも無く足場に飛び込んだ、少し前に物凄い距離を降りたので飛び込む瞬間から彼女は覚悟出来ていた。
「周囲の警戒を怠るな」
ハンクはルヒネは銃を手にゆっくりと村を進む。
――
この村は円を書くようにして橋と足場を編んで、その上に家が立っている、ハンクは1つの方向に戦車で穴をぶち開けた、そこに追いやれば優勢に持ち込めるだろう。
「俺は建物の裏を回るからお前はそこを牽制しろ」
「え!無理ですわ」
「お前はそればっかだな、じゃよろしく「ちょ!」
「お願いだから降参してくださいまし!」
ルヒネが銃弾を無駄にぶちまけながら進む、俺は銃を撃って叩き落とし距離を詰め拾おうとした銃を足場の下へ蹴り落とす。
「ひぃぃ!」
銃を向けるとルヒネは目を開き口歯ぎしりしながら両手を上げる、あの時と表情がそっくりだ。
「やあ、お嬢さん」
あとはハンクを追い込めば、そんな事を考えた時彼女は俺の向こうを見た、背中に強い衝撃が走り壁に叩きつけられていた。
すぐに立ち上がり撃つもアミラはターザンのように駆け回る。
「クソ」
素早すぎて全て避けられてしまい全て木に命中する、振り向きざまに弓で反撃の矢を放ち俺は後ろ家の中に退避、壁に矢が突き刺さり痺れるような振動が背と足に伝わる、裏口から出ようとするも今度は銃撃が降り掛かってきやがる。
「挟み撃ちだなジェイ、うおっ!」
ハンクの近くの足場に矢が突き刺さる、別にお前を味方にしていない、屋根に物が落ちる音が響く、アミラが降りたのだろう。
「邪魔」
彼女はそれだけ呟くとハンクに向かって荊が飛び出し腕を貫き、腹を突き刺した。
「ぐぁ」
ゴミでも捨てるかのように荊は円を描き奴は足場の下へ投げ出される、そこから間髪入れず俺にも荊が無数に飛び込んでくる。
俺は村を走り抜け荊は建物や足場を通り抜けることなく縫うようにして襲いかかる、戦車であった鉄クズに飛び込み折れた幹を走り地面に立つ。
「いいリングだ」
「決着をつけよう」
アミラも木の足場を下ろし地面に立った。
銃を構え、銃口を向けられるまで彼女は微動だにしなかった、そして足に銃弾を打ち込んだ瞬間彼女を覆い隠すには十分な大きさの棘が防ぎ半身を出して矢を放ち俺は大きく仰け反る事で避け棘の裏へ回ると蹴りが飛び出し腕を受け止め、腹に思い切りジャブを入れ吹き飛ばした。
「どうだ、観念したか」
倒れるアミラに銃を向ける、すると足元から針が飛び出し後ずさるも銃を通り抜けぶら下がった。
「まだやるか」
逃げようとするも足首を掴み振り回す、木に叩きつけられても両腕を後ろに回し耐える。
「精霊よ我を守
棘に叩きつけられようとも腕を交差して耐え抜く。
「せい……
地面に思い振り下ろす時には腕はだらんとしてもろに顔面に受けていたが、死んではいないだろう。
「どうすれば俺に戻るんだ」
「いいや…お前が私に戻るんだ!」
彼女は声を上げると同時に振り返り、ナイフを手に飛びかかる、振り下ろされた刃は腕に突き刺さる。
「おら!」
片手で腕を掴み地面へナイフを叩き落とし、馬乗りになり、こめかみを殴る、殴る、殴るとアミラは白目を向き倒れる、最後まで俺を睨みつけていた。
「はぁ…はぁ…はぁ」
立ち上がり彼女を見下ろす、角がゆっくりと体に収まっていく、金色に輝く光の粒子が下から舞い上がるのが見え、掌を見やるとうっすらと透けていた、勝ったのか。
「ゔ!」
その時肩と腹が何かに押されてすぐに後ろから銃声が響いてきた。
「へへへへへへへ!あん時のお返しだジェイク」
ハンクは引き金を強く引く、俺は咄嗟にアミラを覆い、持ち上げ逃げる、視界がぼやける、もう限界だろう、俺は木の後ろに隠れた。
「あれれ?」
ハンクが木の裏に出る、そこに居るのは座っているアミラ、彼女の裾から木の幹が伸びてきてハンクの手に巻きついた。
「ほう、コイツはすげえ」
彼は掌を翳し槍を出し木を貫き、振るうと通り道は切り株が開き、木の葉と丸太が地面に一斉に転がった。
「それじゃ、バイバ「ちょっと待って下さいまし!」
銃口を向けるハンクにルヒネがタックルする。
「あ?何でだよ」
「こんな幼い子を殺すのはかわいそうです、わ!」
ルヒネが説得する時、影が覆い顔を見上げる、空には隊列を成す竜騎兵軍。
「逃げるぞ!」「わっ!」
ルヒネを掴み、蔓を飛ばしハンクはどこかへ消える、竜が地面に降り、ゲインズが降り立ち見つけ安堵の顔を見せる。
「アミラ・レッドバード大佐の姿を確認!生存しています!」
アミラは敗北し、竜に運ばれ空を駆けて行く。
―カサエス上空―
金喰いの宝玉を守る木造の空飛ぶ要塞は崩落し、土地を制圧した幹はゆっくりと緩んで堕ちていく、人影が竜の背に飛び込むと一定の方向へと羽ばたいて行く。
「下に配置された兵は退避!退避せよ!」
崩れ落ちていく木塊、金の光が漏れだし宝玉が建物にぶつかり転がっていく。
「確保しますか?」
「まず瓦礫を撤去してからだ!」
竜の1頭が動きどこかへ飛んで行った。
「何だ?何かが来るぞ」
遠くで飛行する金色に輝く竜、一直線に崩落している要塞の下へ向かっている。
「宝玉を盗られるぞ!撃て!」
戦車は一斉に大砲を放つが避けられ、竜の背から閃光が輝きだし辺りを照らした。
「クソ!何も見えない!」
目が見えるようになった頃にはもう、竜は足で宝玉を掴み、射程距離外に背を向けて地平線を駆け抜けていた。
――
山の麓に小さく空いた穴から1人額に手を当て出てくる。
「はぁ、ようやく出られました」
イラは少し上の熱気へ顔を上げる。
「約束は守って頂こう」
「はい」
彼女はテオに小さくそれだけ言うと正座し、両手を組み力を入れる。
「そこまでだ魔王め!今すぐ投降しろ!」
竜騎兵が現れ、2人へ両肩に搭載された機関銃を向ける。
「ちっ」
彼は舌打ちすると炎を吹き上げ機関銃の方向転換を振り切る速度でどこかへ行った。
「魔王を1人確保した」
『こちらも2人確保、地下牢獄へ収監する、リズとかいう女が列車を開発しなければ、もっと早くこいつらをぶち込めたろうに』
「おい早く乗れ!馬鹿な真似したら突き落としてやるからな」
兵士はイラに手枷を着け背中に銃を突きつけ竜へ誘導する。
「あそうそうさっき言っていた地下牢獄、能力を使えば爆破して埋められるからな、永遠に閉じ込めてやる」
高笑いする兵士の頭上に何者かが腕を組んで浮かびじっと見つめていた。
――
機械の電子音が一定に響く、俺は薬品くさい部屋のベッドで寝かされているようだ、目を開くとやはり病院で、周りには兵士がずらりと並び一斉に銃を向けていた。
「おいおい、手厚い歓迎だな」
「お前ら銃を下ろせ!アミラ様、ようやくお目覚めになられました」
ゲインズが部屋に入り前に出る。
「何日寝てた?」
「半日です」「そっか」
「魔王になってしまわれたのですね」
寂しそうな声でそう言うと俺の前に姿鏡を引いてくる、角が生えていた場所の髪をかきあげる、太陽の様な刺青、一体何を意味しているのかはさっぱり分からない。
「彼女と話したい、ああ大丈夫だ」
点滴を外しベッドから降り、再び銃を向ける兵士を制して深呼吸する、手を出し魔法をイメージして念じてみた。
「違うな」
ルッテスから出るまでの自分を思い出す、水面に映る幼くも力強い美しい顔、そしてこれまでの自分を振り返る、あの時泣き腫らした復讐を誓ったシンクの鏡に映る俺の顔、戦争で空き家割れた鏡に映る疲れきった顔。
「来い」
すると俺の前に金色の一筋に輝く光が現れる、頭痛と共に視界が暗転していく。
――
俺は倒れそうになるアミラを抱き寄せるように支える。
「無事か?」
不思議な感じだ、さっきまで自分だった存在がそこに居る、区別できるのは頭に生えているこの角のみ。
「お前は負けた、だから俺はお前の中で生き続ける事になった」
「ちょっと何を言っているのか分からない」
俺はゆっくりと怪訝な瞳で睨むアミラを立たせる。
「俺と組め、お前が見てきたものは知らんがここまで文明は見たことが無いだろ?それは俺が作った武器のおかげなんだ」
「自然を壊した、人を殺した」
アミラは一つ一つの罪を知っているかのように言い放つ。
「俺達が壊さなくても魔草が侵す、そいつらは平和となんて真逆で魔物が人を殺し回る、それでいいのか?」
アミラは俯く、少し考えているようだ。
「組むって具体的には?」
「これまで散っていった人達とこれから散っていく人達と共に戦って欲しい、そしてこの世から魔草を消し去り文明を発展させる、勿論自然を守った上で」
「…………分かった」
「お前を運命から全て守ってやる、その為に俺はこの世界へ来たんだ」
2人は握手を交わし、停戦条約が締結した、一先ずは。
―5年後―
白いレンガの積まれた家と壁の外には1面砂漠の大海原を熱風が波打つ、そこにこの大地にそぐわぬ深い緑色の角張った物体が1列をつくり近づいていく、それを頭に布を被せた現地の住民が壁の上から発見し顔色を変える。
〈守護神殿!見た事ない悪魔が帝国に向かっています!〉
大慌てで座る1人の顔に戦化粧を描かれた女性の兵士に報告する。
戦車からデブ男の姿である丸竜が飛び出す。
「はぁ……もう無理だ戦車の中暑すぎ!ピザ食べたいコーラ飲みたい!つか飛ばせてくれ!せめて風を感じさせてくれ!」
「言ったはずだぞ空はハゲワシ型の魔獣が襲って来るって、それにここにそんなもの9割の確率で無いと思うが」
泣き叫ぶ丸竜の後ろの戦車からくたびれた顔をしたアミラとゲインズも降りてくる。
「あつ〜い」
雲ひとつ無い青空に太陽が煌々と容赦なく熱線を突き刺してくる。
「おんぶしましょうか」「よろしく〜」
「なあアミラ、精霊禁忌呪法とやらでここに大雨を降らしてオアシスを創ってくれないか?」
ゲインズの背にへたれるアミラに俺は布をかけながら提案する。
「自然は壊さないっつっただろーが」
「そうだった、じゃあ氷の能力者を出すくらいはしてくれよな、リズも生き返らせられねえし」
「それ何回言う気?」
「あー、Sorry……」
アミラ自身もこの能力について知らない事が多過ぎるから、出来ないことがあろうとも俺らが責め立てる権利は何一つ無いのだ、それでも来るべき敵に備えて能力の限界を知りたいから、調べる度に申し訳なくなる。
「それでゲインズ顔赤くないか?」「いいえ?大丈夫ですが!?」
変な嘘をついてる汗だくのゲインズに倒れても困るので飲め飲めと言って水筒の蓋を開け口に突っ込んだ、戦車のハッチから兵士が顔を出す。
「定位置に着きました!彼らとコンタクトを取りますか?」
遠くにオレンジ色の翼を生やし今にも槍を投擲しそうな赤毛の女がいる。
「ああ、やった方がいいぜ」
「マレカ帝国のみなさーん!我々は敵ではありませーん!」
スピーカーの声が鳴り響き始めると俺はスリングを掴み首に回し自動小銃を前に投げ、腰の拳銃も胸と両足首のナイフも地面に落とし両手を上げながら前に出る。
「ちょっと!」
アミラが止めようとするがゲインズは振り返り小さく首を振る。
女がこちらにまで飛んでくると、男2人が透明のシャボン玉に収まったまま後から到着した。
「ナゼ、マレカキタ!?シンリャクカ!」
女が怒り混じった声で話す、かなりの片言で言葉がよく分からないようだ、1人の男が女の前に手を前に出すとシャボン玉が弾けた。
「俺と似た能力」「しっ黙れ」
丸竜の独り言に天竜が戦車から黙らせる、白髪のオールバックに緑がかり他の住人と比べ長年の赤外線に晒され黒ずんだ肌、2本の巨大な牙を生やした恐らくオークであるこの男は重装備を身に纏い、息で髪がたなびく距離まで近付くと持っていた大剣を地面へ勢い良く突き刺した。
「ワレ、ココノオウ、ヤトゥへ、ヨウケンイエ」
「ヤトゥへさん、ここに来たのは貴方達に魔草の脅威から逃がしより良い暮らしを与える為にはるばるゴロドン砂漠を渡りました」
「ホウ、ミカエリハ?」
「平和条約を結ぶ、共に仲良く戦い支え合う、それだけです」
「ヒトツオシエロ、オマエタチナニモノダ、ソノテツノウマ、ゴロドンワタリキル、アクマデモムリ、ナノレ、ナニモノダ!?」
ヤトゥへは睨みつけ声を上げる、これはすぐ答えなきゃいけなさそうだ。
「ああ、それは…」
俺はしばらく俯き、上を向くと優しく微笑み手を差し伸べた。
「我々は、ミリタリーナイツ」




