エピソード9 悪役と悪女 Age35
「なんだ?何をしたと言うんだ」
「本当はペストではなくニアの隣にいる彼の能力と僕がそれを水に流す事で流行らせたのです」
俺はその疫病野郎を撃ち殺し乗ってる馬からジェラルドの肩に飛び蹴りをかました。
「ひえぇ!」
他の能力者達が手網を大きく曲げ逃亡を図る。
「臆病者はいらないよ」
ニアはそう吐き捨てるように呟くと馬が能力者を振り落とし蹴り飛ばすのを終えると戻ってくる。
「全部仕組んだって訳か、このクソテロリストが!通りで致死性が高かった訳だ、異世界の菌なんぞ知らんからな!」
転がり輝く血を流す彼の所まで歩くと顔面を何発もぶん殴り怒鳴り胸ぐらを掴んだ。
「取り返しがつかない事をしたのは分かっています、だからレイを魔法使いにした」
この言葉が俺の力を更に強くさせた。
「良い事をした気になってるのかい!?細菌で大量虐殺して今度は偶然治癒能力があったとか言い訳して少女を血も内蔵も無いただの人形に変えている!」
「それは言いがかりだ!魔王は少なくとも成人までは成長しそこから長寿を保証されそして強力な能力も与えられる、あんたの世界に無いものだからって否定しないで頂きたい!」
「手を上げろ!」
兵士が現れ俺達に銃を構える。
「待て!僕達は降伏しに来た」
「そうだ更なる驚異が現れた、魔王竜デストラストを蘇らせる者だ、僕たちで三体も殺した」
「魔王竜だと」「デストラストが蘇った?」
「イラは死んだ、今はこの男がボスに代わり魔王となったアミラ・レッドバードと戦っています」
「何?大佐が裏切ったのか?」
ニアの野郎、事を荒立てやがって。
「おい待て!俺はアミラだったんだ!こいつが胞子を吸わせてから2人になったんだ!この男を拘束しろ!錯乱している!」
兵士がぞろぞろと現れ弁解する余地も与えず取り押さえる、そりゃ意味がわからんだろうなこんな状況。
――
「それで、このムキムキイケメンがアミラを名乗っていやがるのか?」
「確かに装備が似ていますが」
拘束された俺にアウリスが顔を近づけ鼻を鳴らし、メイが顎に手を当て見つめる。
「すぐにイラ以上の脅威が来る!全部隊にありったけミサイルを配備させろ!メイ、怪我は大丈夫か?」
「なるほど、確かにアミラだな、いきなりぶっとんだ指示をする所と話し方がそっくりだ」
「もっと証拠が必要か?アウリスは今人権団体のアタシら獣族を差別する奴らはぜってえぶち殺す協会の会長をやっている」
イギルが兵士に顎をしゃくると俺の横にいて立たせる。
「分かってくれたか」
イギルは睨んだままネクタイを整える。
「まだ信用はしていない、武器は持たせないし拘束も解かない」
「その判断、合っていると思うか?」
「思うとも、こっちは忙しいんだ、これ以上変なやつに変なことされたらたまったものじゃないからな、アウリス!さっきの言葉覚えてるぞ」
イギルはそう言うと部屋を出る、アウリスも「へいへい」と気だるげに答えながら後に続いた。
――
イラが勝手にザンドラと名乗る地の巨大な木、その下に石で舗装された空洞がある、ラウルは扉の前に立つと丸い構造物に光を流し込むと土を落としながらゆっくり開いた。
「うわあ、本当にこれが動くのか?」
顔を上げ石像の様に巨大な人型悪魔を見る、ドリルのような顔面を尖らせ体育座りをしてそこに寝息を立てることなく佇む、四肢に分厚い鎖が垂れた枷を着けられておりより一層触れてはならない雰囲気を漂わせている。
ラウルが光の円盤を飛ばしがんじがらめに繋がれた鎖を切り払う、大抵悪魔はそこらをうろつく徘徊型が殆どだが、近付いたり攻撃した時のみ反撃する要撃型がたまに居る。
「うわ起きた」
悪魔が立ち上がり1歩進むだけで地響きを鳴らした。
――
「なんの音だ!?」「お前か!」
「これは俺じゃないぞ?」
銃を突きつける俺に拘束された両手を上げる、ジェラルドが唇を震わせる。
「計画のひとつです、木に埋めていた悪魔をラウルが起こしました」
「この野郎!」
銃を突きつけられるジェラルドの前に俺が立つ。
「まだ殺すな、その悪魔の能力は?」
「掘削ですそれもかなり大規模な、地盤を破壊してスプリガンで一掃する予定でした」
「やっぱり殺そうぜ!」
再び銃を向ける兵士達にジェイクは両手を伸ばす。
「おい待てって!」
「やっぱりこいつ魔王共の仲間だろ!」
ジェラルドを助ける義理は無かった、だがあの日の事を覚えている、ビームから水流で吹き飛ばしてくれたおかげで今も生きている。
「銃を近付けすぎだ、ちゃんと訓練を受けているのか?」
「は?何だとおま
銃口に力が入った途端俺は立ち上がり銃を掴み兵士の首を押さえ付けた。
そこに1人だけヘルメットを着けていない兵士が現れる、金髪の女が。
「なっ」
拳銃を向け打ち込んだ、熱線がゆっくりと脳天の方へ近づく。
そこにジェラルドが飛び出し素早く動かされた手には水流が追っていた、すると彼は銃弾を握り兵士達の顔の周りに水の玉が現れもがき苦しむ。
「クソ」
女は窓に飛び込み退散する、兵士達の腕がだらんと下がると水玉が弾けばたばたと倒れる。
「殺してはない、早くここから出よう」
「お前らはあの女を追いかけろ、俺はやる事がある」
「分かった」
ジェラルドは水を地面に出し飛んでいき、ニアは馬型悪魔にまたがった。
「さてと」
地面に転がってる兵士共から時々起き上がるので手刀で眠らしつつ銃一丁と弾倉を集め武器庫へと向かった。
――
「おい女は見つけてないのか?」
俺は屋根と屋根を飛び乗って水流ジェットで空を飛ぶジェラルドに追いつき問いかける。
「すみません、なんですかその大きなバックにヘルメットは」
ジェラルドは俺が担いでる所々細長いものがパンパンに浮き出てるバックと今被ってるごつい
「ああ、ちょっとな、そういえばあの目ん玉はどうした」
「そういえばシャーンから応答が無いから探すのが大変で」
「あのぶどう使えねえな」
「彼女に失礼な事言わないでください!それに彼女は最も優秀な魔術師です!」
「だけど応答がないのっておかしくないか?」
並走しているニアも不思議がっている。
「そうかよ、居なきゃ関係ねえだろ」
またさっきよりも大きな地響きが襲った、そしてすぐに
「うわ!」
地面が盛り上がりコンクリが剥がれ上がる、隣の建物が崩れると同時にドリルが2本飛び込みそれに生えた腕が伸び地面に突き刺さると、3本目のドリルが顔を出しこちらを向いた。
「来るぞ」
腕をこちらに向ける、するとドリルの先にある建物が円の形でくり抜かれた、何軒も貫通している。
「避けてなければどうなってたことやら」
俺達は水の台座に運ばれながら巨人を傍観する。
「ここから消えたでしょうね、跡形も無く」
再びドリルの顔面を向ける、巨大すぎるあまり動作一つ一つがスローモーションに思える。
ドリルが回転し始める再びあの衝撃波を放とうとした、ジェラルドが水の足場を出し俺達を回避させようとした瞬間、ドリルの左半分が爆発し欠片をぶち撒けながらよろめいた。
見えるのはデブ竜に乗るゲインズだ、あいつはミスリルより固くないようだ。
「なんだあれ!」
空にいきなり木で編まれたような球が現れると、そこから無数の竜が飛び出す、あの黒くて巨大な奴も。
「逃げろ、アミラが来た!」
「はぁ!?あんたは誰だ!軍で見てないぞ!」
ゲインズは高度を下げながら罵声を浴びせてくる。
「この人はアミラの魂で、僕が魔法を与えたら分裂してエルフの方が暴れてる」
「何を言ってるんだ!」
彼はジェラルドの言葉で更に興奮させごつい散弾銃を向ける。
「待て待て!竜が来てるぞ!」
ゲインズはすぐに振り向きこちらに滑空する竜達に銃を掲げる、だが全ての竜が木球でお前円を書くようにして一定の距離に留まり不気味なオブジェクトとして佇んだ、他のよりずっと真っ黒な竜と、遠くへ飛んでいく黄金の竜を除いて。
「魔王竜を出す奴が現れたと聞いたら、そいつは 大佐だったと?」
「うん、そう伝えたが聞かなかったか?」
「聞くも何も、こっちは混乱状態だ!正確な情報なんて届くか!待てよ、あんた」
ゲインズの顔色が変わる、この男と何かが重なったのだ。
「ああ、そうだ」
「ちっしょう!国は能力者共に破壊されるし、愛した人がロリじゃなくてむさい男だったなんて!」
「そんなくだらない事気にしてないで竜から逃げろ!」
俺達はゲインズの後ろに乗り、そこから離れる、魔王竜はドリルの方へ滑空する、奴は空に浮かぶどでない腹を三本の鋭い熱戦を向けると掘削を放った。
かするだけでも致死傷に達するであろう三本の空気で形成された槍、だがそれら全て身体を縦に方向転換することで回避した、そのままきりもみ回転し急速に接近した。
「すっげ、トップガンかよ」
ドリルの生えた首元を剣のような牙が捕まえた、すると急上昇し中に放り込んだ、そして尻尾をしならせた、すると見えない何かがドリルの巨人を粉砕し光をぶち撒けながら落下していく、黒く長い鞭が魔王竜から垂れ下がる事で凄まじい凶器の正体があの日と同じく尻尾だと再認識させられる。
「こいつは、やべえな」
――
「こりゃすげえ!まるでゲームオブスローンズじゃねえか!お前がナイトキング!なあ!?こんなやべえもん持ってるなら俺と取引しないか?「しない、ルヒネどこを破壊されたら困る?」
はしゃぐハンクの横でアミラはルヒネに指示しながら両手を翳し指先で木の塊に垂れ下がる幹を制御する。
「あそこが物流倉庫ですわ!多分」
ルヒネは開けたコンクリートの土地に立つ大きな四角い建物に指を差す。
「自信がなさそうだけど?」
街を隔てる壁の地面へと無数の太い幹を伸ばしたアミラは、今度は倉庫らしき土地の外側にも伸ばした。
「死んでから10年近く経っていますのよ!位置なんてとっくに変わってるかもしれないじゃない!あっ交渉してくれるならもっと詳しく教え「指示や情報を全て共有させたり洗脳だって出来る、可能なら全て聞き出すことも可能、時間があれば」
「はっそれじゃ暇になったらお前が俺達の武器である情報をちゅるちゅる吸い取ろうってんだな 」「許せませんわ!」
ハンクはアミラの後頭部に拳銃を突きつけるも幹を地面に食い込ませるのを気にせず続ける。
「言っとくけど私を殺せばあなた達消えるよ、シャーン準備整った」
アミラがそういうと何者かが木から現れる。
「うわっ目玉のお化けですわ!」
「ジェイク・マクドイル、出てこい!どこに居るかは知っている!出てこなければこの国を地盤ごとひっくり返してやる!」
丸竜から誰かが1人から降りて上空の声の主に向かって走る。
『俺はここだ!会いたかったか?エルフの小娘が!』
アミラはポケットから流れる音声にびくっとして手を入れ音の主である無線機を取り出し睨みつける、ハンクは下にいる者の正体に気付くとニヤリと笑った。
「なあ、降ろしてくれよ」
アミラは彼の言葉を無視し空の上に伸びる幹に足を乗せた、すると下へするすると降りて行き地面に降り立った。
お互いが進み、ジェイクはアミラを見下ろした。
「どうやって決着をつけるんだ?早撃ちか?コマ遊びか?」
「はじまりの地で戦おう」
アミラはそう淡々と言うとラルガが現れる、先にジェイクが消えた。
「消えちゃいましたわ!」
「おい!俺達はどうすればいい!」
ハンクがシャーンに銃を突きつける脅しているところにかつての勇者達、ルーゲンとディアンが前に出る。
「アミラの指示があるまで動くな」「分かったか!!!!!!!!!!!!!」
「断ると言ったら?」
「力ずくで止める」
ルーゲンは両手と目を光らせるハンクに近付くが額に風穴が開き目と体から光を失って倒れた、ルヒネは怯えたまましゃがみこむ。
「なんだと!!!!」
ディアンは前に盾を作るがハンクは鼻で笑って下の幹と幹の間に出来た穴へと飛び込んだ。
「どこにいった?!!」
ディアンは穴を除くが上下から真ん中まで伸びた2本の太い柱に括り付けられた宝玉によって照らされた木の洞窟しか見えない。
「ここだよ、馬鹿め」
背後からディアンの上に乗り、首を太腿で絞める。
「あ゙っ!!!」
湿った割り箸を真っ二つにしたような音が響き2人の姿が黄金の粒子として消えて行くと同時に編み目を裏をエルフの奴らが登って来て、フリンジェとクーアが上空から現われる。
「まだ居たか」
クーアが石を投げフリンジェが風で加速しハンクへ小石の弾幕がショットガンの如く飛び込んだ瞬間、なんと彼は空飛ぶ木の乗り物から身を投げ出したのだ。
「ちょっと何してるの!?」
宙へ投げ出された彼は待機していた竜の1匹へ背中の鱗を掴んで着地する。
「勇気があるのです…」
「嘘、私もいきますわ!」
信じられない光景を見たルヒネはクーアとフリンジェと顔を合わせるが、続いて飛び込んだ。
「あの馬鹿何してんだ!」
ハンクの隣に着地し鱗を掴むが滑り落ちて再び宙を舞う。
「はっ」
視界が一気に竜から離れようとする、だが目の前に大きな手が現れ咄嗟に掴んだ。
「世話の焼けるクソガキが、どうせ甘やかされて育ったんだろ」
ハンクは嫌味を垂れながら背中を見渡す。
「うるさいですわね!私だってやるときはやりますわ!」
ルヒネは丁度2本長く伸びた鱗へ持ち上げられながら言い返すも無視して竜に登って行く。
「おい!降りろ!」
ハンクは拳銃で竜の頭を叩くが振り向くどころか反応すらなくその場を飛んでいる、何か近づいている、無数の鳥?ハンクは直感でとにかくここから離れなければ行けない事を悟った。
「おいあんた、やる時はやるつったな?ならこれからしでかす事も安心してぶちかませるな」
「ちょっと!どういう事ですの!?」
竜の頭に銃を突き立てる。
「おい!ちゃんと掴まってろよ!」
ハンクは叫び寝そべり片腕で首に掴まる、そして引き金を引いた。
「ひやああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
銃声が鳴り響くと同時に2人は急降下して行った。




