エピソード8 アミラ・レッドバード Age35
「は?どこだここ」
そこは下は一面水に浅く浸されたかなり広い空洞、光源は地面と天井まで隙間なく咲き誇る紫色に輝いた花のみで洞窟のようだ、誰かが背に触れた瞬間この空間にいる、すぐに後ろに銃を向けたが姿は既にない。
「あなたが最後の邪魔者です、悪魔となって守るべき国を自ら滅ぼしなさい」
大勢の人が周りに高い岩に立ち俺を見下ろしているようだ。
「イラ!」
彼女の脳天にレッドサイトが輝くも涼しい顔で俺を見つめ続ける。
「そんなマスク、美しい顔が台無しだよ」
男の声、何だか聞き覚えのある声、そのせいで人差し指に力が入ってしまう、その瞬間ガスマスクの中が水で満たされて行く、俺は慌てて外した瞬間男も仮面を外した。
「なんで、死んだはずじゃ」
仮面は投げ捨てられ水に浮かび回る、それはあの日直線上に開く穴に消えたはずのジェラルド・イスフロントだった。
「貴方を愛しています」
彼は花束を顔に近付けた、俺は顔を抑えるが突然身体中に痛みが襲いかかった。
「がっああああああああ!!!!」
俺は身体中に襲う激痛に叫び声を上げる、目を開くと薄汚いコンクリートに覆われた部屋にいる、両手を吊るされ足には水が浸されているようだ。
「フランベルジュの解除キーをどこに隠しやがった?あと1つでこの国に報いを受けさせてやれるってのに!」
銃を突きつけるこの男、前によそ見した隙に脚で絞め殺したはずじゃ、ここは昔の記憶か?確か大量殺戮兵器の起動を阻止した思い出だったな。
場面が変わる、今度は焼けた木々で恐らくルッテス村、空にはドラゴンが飛び交っている、敵の竜族か。
「そんな……嘘でしょ、私達が何をしたというの!」
呆然と立ち尽くし幼く高い声を悲痛に絞り出す、さっきは俺の記憶でこれはアミラの記憶?
「仕方がない、これも運命だ」
隣にいたクレイが泣きそうな声でそう言うと肩に手を当てる。
また場面が変わる、砂埃が舞い白いレンガの建物の町、そこら中に死体が横たわる中俺は半分に砕けた家の壁に背を当て座る男に近付き、手元に転がる拾おうとする銃を蹴り飛ばす。
「この戦争は神のご意志である!」
男はそう言うと歯を食いしばり俺を睨み付けた、それを見て何も表情は変えず銃を向ける。
「なら神にあの世でこう伝えろ、俺を敵に回したのは過ちだとな」
銃声は乾ききった大地に鳴り響く。
「天崎…どうして!」
耳の長い人々の死体と血の海、破壊し尽くされたルッテス、蹲るアミラの前に天崎が立っていた。
「ごめんね、あなたは驚異となる」
あの人はそう泣きながら言いアミラの背に足を乗せ、刀を彼女の項へ下ろした。
今度は燃え盛る和風建築の街並み、ザポネか。
「アミラ、よくも!」
薙刀を手に取った途端両手が吹き飛ぶと同時に矢が地面に突き刺さる。
「すまない天崎、これはルッテスを護る為」
あの六本の羽根を広げた栄竜の背から降りたアミラはそれだけ言うと弦を引っ張る指を離した。
「はははは!!ザンドラの次はラードアを滅ぼそうとするか、だがそうはいかねえぞ!」
ここはラードアの王城前、マントまでも黄金に輝く鎧を身にまとったアゾヒストが邪悪な笑みを浮かべて金色の玉に手を乗せる、すると隣にいたテオやフリンジェが中に浮かび上がる、2人は悲鳴を上げながら近づいていくにつ身体から光が溶けだし玉に吸われていく。
「お前が世界を変えるからと言うから手を貸したのに!」
「嘘をつきおって!!!!!!」
他の勇者達も吸われていくがアミラは自分が吸い込まれるのを耐えるしか出来なかった。
「さあ、死んでもらおう」
吸い込みを止め前に転がったアミラを玉から黄金の戦斧を取り出したアゾが見下ろす。
「ふざけるな、私はこの世界を救うため金喰いの宝玉が必要なだけ
彼女は何かを言いかけていたようだが視界が吹き飛んだ、城、空、破壊し尽くされた街、城、地面。
「ははは、バカめ」
アゾはゆっくりと近づき前に立つと小さくなった、いや分解された頭部の髪を掴み持ち上げた。
「こいつを使いこなせるのはこの私だけだ」
――
真っ白な空間に女性が浮かび青白く長い髪を揺蕩い、目を大きく見開く。
「やはり私の決断は正しかった、エルフも危険です」
ルリエの声は優しいが、同時に憎悪が満ち溢れていた。
「そうかな、俺様の方が数那由多倍恐ろしいと思うけどな」
後ろでグリードが胡座をかいて宙を廻っている。
「おや、あなたの方から来るとは珍しい」
「また信徒を2匹もやられたな、あほめ」
「それだけ言いに来たわけですか?それこそあほですね」
「暇なもんでな、まああれは精々お前の箱庭を荒らす程度で終わるだろう、だが世界線を見通す程には魔力があるからアミラがそれを力として変換しちまったら、まあ最悪殺される程度で済むだろう」
虹色の幾何学的な図形がグリードを覆われる前に「精々害虫駆除頑張ってろよ」とだけ言い残しまた音を立てず消えた。
――
「うっ……」
俺は気付けば穴に囲まれ半身を水に浸かったまま倒れていた、今度は分厚い氷の間のような濁った記憶では無い、意識を取り戻したのだ。
「あれは?」
なにか巨大なモノが自分を通りその影に体が冷やされるのを感じ起き上がり見上げる、そこに居たのは。
「……あ?」
雷雲の様に空を佇み真っ黒な紫に輝く鱗をうねらせる、ゆっくりと上へ螺旋を描く様に空を駆け巡りその全容を顕にした。
「魔王竜デストラスト!」
俺は立ち上がり落ちていた銃を拾い距離をとる、よく見ると上に誰かいる。
「どういうこと?アミラの力は異界への転移のはず」
笑うしか無いな、地獄が再びこの世にまで舞い戻って来やがったぞ、嬉しいのかは知らないが体を左右にうねらせイラを追いかけビームを放っている、イラは木の塊を蜘蛛のように形作り逃げる。
「そんな、話と違う!サリティ
だが速度は竜の方が早く足を消され体制を崩しイラはそのままどこかへ転がり落ちて行った。
「イラ様!」
「ここは一旦逃げるぞ!」
助けに行こうとするジェラルドにニアは肩を掴む。
「ラルガ!早く!」
ラルガは自分がもたもたしているせいでイラを失い憤り拳を握る。
「ちくしょう!クソがクソが!」
「さっさと何処にでも僕らを飛ばしてくれ!」
怒鳴るジェラルドにラルガは唖然とした顔であちらを見る、ジェラルドもそこを見ると同時に飛び出し、光がラルガを真ん中に円状に照らし輝きが増し始める。
「まじか
「なんだよあれ!なんでここにいるんだ!」
テオは目にも止まらぬ速度で魔王竜の腹へ加速し剣を突き刺す、これだけでは爪楊枝で刺された程度、鎌のような爪を振るわれ火球で跳ね返そうとするも炙った程度でテオは弾かれ、遠い洞窟の壁に砂埃が舞った。
俺は照準を竜に乗る何かに合わせ引き金を引く。
「お?」
隣の影と比べると大きな人影が突然現れ前に紫色半透明の壁が現れ弾丸を弾いたのだ、ミスリル弾のアサルトライフル、ジャンヌダルクに対抗出来る者
「ディアンか」
ディアン・エストモッド、かつて死んだはずの壁の勇者は皮肉にも今己を殺した竜に乗り共に戦っている。
光の塊がこちらに飛んで来る、地面に着弾し爆発する。
風切り音が鳴る、俺は咄嗟に仰け反るとその後ろに見えない何かが水飛沫を吹き上げた。
「お前達、久しぶ
突然水面に無数の何かが降り注ぐと同時に太腿へ鋭い感覚が走った、身体にめり込んだ痛みの正体を引き抜くと棘に覆われたボールが突き刺さっていた、裏には紫色の光がこびり付いて消えて行く、これは俺の血か?俺は悪魔になったのか?
片膝を付く俺に魔王竜が近付く、背に立つそれらは目が赤色に輝き表情にはこれまで生前の喜怒哀楽はとうに無くただ俺を見下ろした。
「よう、ルーゲン、フリンジェ、クーア、そして
だが、1人は
アミラ」
憎しみに満ちた顔を浮かべ俺に指を差した、同時に背後の周りに無数の魔法が現れ飛んで来る。
「わわっ!」
横から衝撃が走り風を切る感覚が全身を襲う、何かに乗せられてるようだ。
すぐにその背に手を乗せ銃を手に取り引き金を引き腰を上げ俺を助けた馬に乗った。
ビームを打とうとした魔王竜の鱗が光にって乱反射された瞬間背に乗っていた者は全員飛び出した、よく見ると周りに水が生成されているようだ、そして近くに流れる川から無数のサメ型悪魔が空に浮かぶ海を泳ぎ鱗を、果ては肉を噛み付き切り裂いて行った。
「おいおいまじかよ……」
凄まじい光景に俺は思わず立ち尽くす、あれだけ苦戦させた化け物を意図も容易く倒しやがったぞ。
「すごいぞニア!僕達のニア!」
光が漏れ出しながら墜落する魔王竜を背景にジェラルドとニアが歓声を上げながら抱擁を交わす。
「僕はやったぞ!あの伝説の竜を倒したんだ!」
「喜んでる所済まないが一体何が起こっているんだ?」
「あなたはだ
何故か再び巨大な影が陰る、俺は咄嗟に2人の元に走り両手を広げタックルをかます、何かが横切ったのを避け倒れたほんのすぐに風がどっと吹いた。
考えたく無い事が脳裏に過ぎる。
「さっき倒したはずじゃ」
「アミラが生き返らせた」
俺の漏れ出た言葉に2人が振り返る。
「とにかくここから出て体制を立て直す、お前らは援護しろ!」
両目を狙えば時間は稼げる、暴れ狂う竜に照準を合わせる。
「僕に任せて」
ジェラルドの掌から水の球が現れる、力を込めているようだがその間き竜がこちらへ真っ直ぐ飛び出す。
竜の口が光った瞬間ジェラルドから何かが線のような物が一直線に地平線まで飛び出した。
「なっ」
竜の頭が破裂し2つに別れた胴体が発火器官が空気に触れた事で紫色に爛れた肉を連鎖爆発し光を撒き散らしながら地へ堕ちていった。
「行くぞお前ら!」
ニアの言葉と同時に3頭の馬が俺達の方に向かってくる、3人とも乗ると生き残った他の能力者も続き細い穴を走り抜け光の方へ向かった。
「あいつは?」
遠くに青い髪の少女が走っているのが見える、恐らく海に向かっている。
「君には関係無い」
「だといいが」
「そういえば、あなたは何者ですか?」
しばらく走っているとジェラルドは訳の分からんことを言う、もう知っているくせにだ。
「鏡とか持ってないか?」
ニアから手鏡を受け取り自分の顔を見る。
「待て、俺も生き返ったのか?」
――
「僕が好きだった人の中身はこんなおっさんだったのか……」
ジェラルドは俯きなにやらぼそぼそ呟いている、あのエルフの姿が好きだったのか、道理で俺といる時言動がは少しきもかったんだ。
「えっと状況を整理しようか」
ニアが馬の速度を上げ前に出て手を上げる。
「うん」
「あんたは地球という場所で軍隊にいて、敵との戦いで死んだがエルフの少女として転生したと」
「まあそんなところだ」
「魔王竜デストラストを蘇らせ操っているのは、恐らくアミラだろう、能力開花によって俺と意識が分裂した事により暴走している」
「たった1人で1勢力が生まれたという訳か」
「イラの行方も不明で能力者も殆どやられた、だから僕らはカサエスに向かい同盟を組む」
「馬鹿め殺されるぞ、アレだけの事をやっておいて生かしておくわけないだろ」
俺が鼻で笑うとジェラルドは俯く。
「そうだね……僕は特にね」
怯えた声を零す、唇と手網を握る手を見ると震えていた。
「何をしたんだ?」
「言わなきゃいけない事があります」
――
「げほっげほっ」
倒れ伏せ水に浸かるイラは立ち上がる、洞窟には花の光を遮る巨大な物が羽ばたきその場を留まる、背に誰かが乗っている。
「あいつ、何をする気なの」
竜から降りたアミラは木塊に近づき手を伸ばすと、ゆっくりと木はアミラの方へ収束される、全て収まると、転がった宝玉を木の幹を伸ばし持ち上げた。
「最悪、スプリガンと宝玉を奪われた」
そしてアミラはラルガを出しどこかへ消えた、真っ白な床に立つ、周りには4つの柱に支えられた三角の屋根、全て白い大理石で造られた神秘的な場所、始まりの地。
「帰ってきたぞ、ルリエ」
そこは祭壇、後ろから彼女と同じ長い耳の人々が階段を上る、冷酷な兵士の如き鉄面皮達は整列し剣を、弓を構える。
アミラは小刻みに震え右の額とこめかみの間から漆黒の太い角が飛び出し軽く仰け反った、蘇りし死者達は気にせず鉄面皮のまま目は金に輝かせゆっくりと向く彼女と同じ視線へと向ける。
ただ見つめる、標的、殺害対象を。
後ろの共に暮らしてきたエルフ達も、隣に立つかつての勇者達も、竜達も。
「弓兵の軽装備」
アミラはベストに手を当てると片手を広げ幹が半円を描きそこに細い弦を一本伸び弓が作り出され、もう片手には先が鋭く無数のトゲが浮き出た細い棒に現れ矢が作り出される。
「復讐を始めよう」
「それはジェイクのか?」
アミラは呆気にとられたまま2つの影に弓を番う。
「誰だあんたら?」
「あいつとは一悶着あったままでな、決着をつけさせてはくれまいか?」
大男と、その横に紫髪の女が前に出る。
「私が世界を転覆させた後のビジネスを教えてあげますわ」
アミラがルヒネに弓を向ける。
「この間抜けな女は置いといて「ちょっとなんなんですわその言い様!」「お前は何者なんだ?見たことも無い」
やいやい言うルヒネにハンクは頭に手を当て押し退ける。
「俺はハンクだ、どういう訳かここにいる、奴なら知ってるしこれから何するか大体分かる、役に立つぜ」
「私が復讐したいのはそのジェイクという男だけじゃない、本命はルリエだ、しかしあの危険な男は私に入り込み体を操って好き放題暴れ回った、先に奴を排除しなくてはならない」
アミラの信念に満ちた声にハンクは不気味に笑い手を差し出す、アミラは一瞬手を引こうとするが握手を交わした。




