エピソード7 金喰いの宝玉 Age35
正門を構えた入口の左右に並ぶ柱を伸ばしすぐ後ろには横に並ぶ建物が構える、ある国の政権中枢部の様な見た目のそれは白くあらず、むしろ黒い、そうここはカサエスでの大統領邸であるブラックハウスであるのだ。
そんな建物に小さなエルフが堂々と押し入る。
「直ぐに西門の防御体制を強化しろ!」
「了解!」
「おいおいアミラ帰って早々何を言ってるんだ?そっちはラードアの方向だろミサイルでも打ったのか?こっちは列車とレールの再建について会議してるから大忙しなんだぞ!」
疲れた顔をしたイギルが出迎え早速キレる。
「リズが死んだ、メイも負傷してる、本当は私一人でも奴らを全員殺してやりたいが、国を守ることを優先する」
復讐に駆られるより目の前に現れつつある問題を解決しなくちゃいけない、今まではそれが出来なくて失敗してきた。
「リズの事は残念だ、お前を将軍にしなくて良かったよ、お前まで失いたくないからな」
イギルは壁に両手を付け背中を伸ばし背骨の奥からボキボキと音を鳴らすと、哀愁の漂った溜息をこぼす。
「イギル……まだそんな歳じゃない」
「お前だったらいずれなるんだろう?次期大統領が可哀想だ」
2人が軽く笑うと同時に1人の兵士が慌ただしく駆けつけてきた。
「大統領!目標は目視できる距離まで迫っています!天使です!」
「俺も執務室に立てかけられた剣を取ってシェルターに向かうよ」
イギルの横に2人兵士が立つと振り返り歩く。
「そうだクソッタレなダチよ……絶対に死ぬなよ?」
彼は背を向けたままぶっきらぼうに友の無事を祈る。
「ふん、当然だ」
足早に去る彼を俺は見送ると、車両へと戻る。
また信徒と戦うのか、あいつは1000年後に戦おうなどとほざいてただが、あの宝玉は約束を破る程に凄いのだろうか、まあどんな対策をされてるとしても今の俺達には無様に負けるだろう。
―カサエス軍基地本部―
モニターがずらりと並んだ薄暗い部屋に緑と黒を基調とした軍服を身に纏う兵士達が厳粛な顔で眺めていた。
「天使が近付いています、レーダーから見るに壁に近付くまで1時間程のかなりの速度で……反応が飛んだだと?」
モニターの前に座るヘッドホンを着けた男は淡々と説明していたがそれまでの厳粛さは、今起きた事態で揺るぎ驚きの声を上げた。
「おい!不具合じゃないだろうな?」
その説明を聴いていた髭面の帽子をふかぶかと被った男は怒鳴り声を上げる。
「いいえ!奴らが来る前にも綿密にチェックをしていました、少尉」
「そうか、今のが探知した通りならここに来るのは秒読みだ至急竜騎兵を全部隊派遣しろ!急げ!!!」
「しかし、あれはどうしますか?」
男はそう言うとレーダー反応の塊にある2つの点を指差す。
「そんなの決まってるだろ」
「……了解」
―列車爆発地点付近―
木が所々生い茂る岩だらけの大地を赤と黄の2線が駆け巡った、そして沈黙、無数の羽音がのどかであった空を犯すようにやかましく鳴り響いた。
「お前らあああああああ!!!!殺してやるうううう!!!」
周囲の天使達を時間停止能力を使いテオとラウルに追いついたのだ。
「クソ!結界使いが1人でも射程距離内に居てくれればいいんだが」
テオは飛び交う矢を避けながら嘆く、岩石から龍が姿を現す。
「待ち伏せか!」
口から飛び出す様々な攻撃や肩に付いたガトリングの雨を避け腹に炎と光を当て押し退ける。
「もう少しで壁だ!街の中を逃げ回って相打ちに追い込むぞ!」
「はい!」
壁に近づき減速させる、その時まだ距離が会ったはずのイレクがすぐそこまで迫りテオの横っ腹にナイフを突き刺していた。
「ぐぶっ」
「テオ!」
「お前は行け!」
テオはイレクの腕を掴み壁の上まで投げる、だがイレクも手首を掴み壁に叩きつけどちらも墜落した、そんな様子を見ながらもラウルは壁を降りて行く。
「なんだ?彼女を殺された恨みか?」
テオの言葉にイレクの表情が大きく歪んだ。
「彼女?そんなんじゃねえ!俺達はソウルメイトだった!」
「ソウルメイト?虐殺者のか?ならどっちもくたばりな」
「言ったな!」
イレクはテオの元に走り手に持ったナイフを喉元に当てる、そこまで彼は構えたまま微動だにしなかった、瞼も、炎もまるで飾りのように。
「いいや、簡単すぎる」
ナイフを離し少し距離をとる、そして無数の槍がテオの周りを囲んだ。
「偉そうにしてた癖に呆気なねえな」
槍が動き始める、全て地面に刺さり金色の針山が出来上がる。
「は?いない?」
イレクは目を見開き口を開ける、本来ならテオは何も分からないまま串刺しにされていたはずなのだから。
「うぐっ」
胸に剣が突き刺さっていた。
「はっお前のソウルメイトとやらと同じ末路だな」
テオの隣にはラルガが居た。
「こいつらは今まで散々人を殺してきた、ざまあみやがれ」
「お前ら……殺す……」
腹に剣が突き刺さったイレクは一瞬でテオの元に這いずるまま現れると剣を掴み手から黄金の血液が流れる、だが服を掴みナイフを突き立てようとした時体が消えていき剣だけが虚しい金属音を響かせた。
「お前吹っ飛ばされたって言ってたけど生きてたんだな」
「まあ何とかな、行くぞ」
ラルガは剣を拾いテオの肩に手を当てると、消えた。
――
「何だ?」
兵士の1人が双眼鏡を覗き声を漏らす、向かって来ていたはずの天使達が一斉に動きを止め規則正しく隊列を乱さず滞空する。
「全員撃ち方止めえ!」
もう攻撃する必要は無い、後ろを向き何故かラードアの方へ方向転換したのだから。
「隊長、どういう事でしょう?」
「恐らくアレじゃないか?」
男は指を指す、遠くに伸びる木を、今もまだ伸び続けている。
『大尉から命令!天使と共にラードアに向かいイラを攻撃せよ!』
――
「あの宝玉は金を対価に魔法の力を増大させる聖遺物です、イラの能力なら全ての大陸を出来る可能性があります」
胸から肩にかけて包帯を張り巡らされたメイが説明する。
「それはいつどんな猛威を振るった?どんな物が手に入ったと言うんだ?」
「大昔魔王の1人が利用して、富を積んだ国が力加減を間違え吹き飛びました、それでその力を恐れ地下に封印したと」
「国が吹っ飛ぶ!?「大佐!天使がラードアの方へ向きを変えました!」
「至急天使を追うようにして軍をラードアに向かわせろ!攻撃してこない様子なら天使も戦力として利用する!」
飛び出そうとする俺にアウリスが大きな手で腕を掴む。
「ちょっと待て、お前も行くのか?」
「当然だろあいつらは何してくるか分からない、いきなり後ろに急ブレーキをかけて全滅するかもしれない、お前らはここで待ってろ」
信徒が何故か見えなくなったから防衛する必要は無い、あの宝玉とやらを奪い封印するのみだ。
―ラードア王国王城上空―
木の幹が縦横無尽に飛び交い天使達を串刺しにする、その様子をイラは隣の宝玉をさすりながら見下ろす。
「これが金喰いの宝玉ですかイラ様、ってか肌が黄ばんでますよ!?」
イラの立つ幹の元に現れたラルガとテオが驚く。
「馬鹿な事言わないでください宝玉に触れて魔力を得たから体がちょっと光ってるんです、ほらあなたも触れて下さい、テオは大丈夫です魔力を温存したいので」
「そうか、お前を焼き尽くしてやりたい所だったが」
テオは火炎の竜巻を起こす化け物になった自分を想像しながら遠い目で応える。
「うおおお!!すげえ!なんか力が漲るぜ!これなら世界の端っこまで飛べる気がするぜ!」
「それじゃあ、私達をガーデンまで送ってください、そして…まあ飛んだ後に言います」
「お易い御用だぜ」
ラルガが壁の様な木に手を触れた瞬間、大木が何事も無かったかのように空と入れ変わった。
――
「全員マスクは着けたか!?イラは胞子をばら撒く可能性がある!」
すると急に天使の動きが止まった。
『 大佐、木が無くなりました、綺麗さっぱり』
「は?それは確…………………………」
『大佐?応答してください!どういう事だ?天竜の上に大佐が居ない』
『一体…どこに行ったんだ?』




