エピソード4 後は頼んだぞ Age35
「突っ込むって…正気ですか!?」
ゲインズは慌てふためき急いで竜に乗りながら確認する。
「やるしかねえだろ!」
『2人でタックルしクーアを怯ませるのですね!』
「そうだ!急げ!」
クーア更に車両へ近づく、遂にミダスはスライドがズレたまま引き金を引こうにも反応が無くなった。
リズは空のマガジンを捨てポケットから予備のマガジンを取り出しリロードしようとするも、焦って落としてしまいレールへ投げ出される。
「やばいですわ!」
バートラムがクーアの背に打ち込むもヘラクレスですら爆発音を立て岩が少し弾け飛ぶのみだ、コッキングしポケットに手を当て彼は眉を顰める。
「弾切れだ!」
クーアが車両に角を屋根に突き立て倒そうとする、どんどん車両が傾きレールに火花が散る。
「大丈夫か!リズ!レイ!」
そこにゲインズの腹の肥えた竜が傾く車両を押し戻し、俺の天竜がクーアにタックルした。
「グオオオオオオオオ!!!!」
だが岩の悪魔の巨大で強固な体は動じない、ギザギザな口を大きく開き噛み付こうと首を前に顎を捻らせる、天竜は急速に減速する事で巨大な歯から逃れるも、閉じる際の余りのエネルギーから生じた風圧によって錐揉み状態に陥ってしまった。
「くぅっ!」
不味い、このままじゃ地面におっちんじまう。
「大佐!おい頼む丸竜!」
『分かっている!』
厳つい声と共に墜落しかけた天竜の先に青く大きな球体が現れる、それに触れると青い膜は潰れ俺と天竜を跳ね除けた。
「うおっ!」「わっ!」「ぐふっ!」
前に岩が現れる度その先に球体が産まれどんどん地面に運ばれていき、衝撃を完全に殺したまま体制を立て直し再びレールの方へ飛び出す。
早く、早くクーアを何とかしなければ!
岩々を抜け車両が見えた時、山の様な長い尻尾でゲインズ達を弾き飛ばしている所だった、あの球体を何個か噛ませていたから無事なはずだがまずい、クーアが再び車両を攻撃する。
「リィィィィィズ!」
リズは転がったひとつの弾を見つけ後ろを振り返る、マガジンを落とした衝撃で転がったのか。
「後は任せましたわ!アミー姉様!」
俺を見ると、ニッコリと笑い中指を立てレイの手を握り車両の奥へ向かった。
「どういう事だリズ!」
俺達は青い球体で覆われ、強制的に地面に縫い付けられる。
「おい!このボールを消しやが
その瞬間、クーアと車両が炎に包まれた、膜に覆われてるお陰で爆風に巻き込まれず音も聞こえる事は無かった。
俺はただ涙を流し、顔をぐしゃぐしゃにし口を裂けそうな程開き泣き叫ぶ、聞こえない、聞こえない。
――
凄まじい爆発音と巨大な煙に列車を乗っ取ったラルガ達は窓に乗り出し釘付けになって見る。
「爆薬が発火したか、イラ様が居なくても計画通りラードアに突っ込むぞ!」
「「「「「「「「「おお!」」」」」」」」」
「なあ!リズは何処だ!?」
ラウルに車椅子を引かれながらテオが物凄い剣幕で怒鳴りながら現れる。
「知らね……クーアの気を引きつけるためにあの車両に乗った髪の赤い女が居たなそれとレイ…おい待てテオ!」
テオはすぐに両足の鞘を抜くと窓をぶち破り後ろへ飛んで行った。
「あいつは必要な戦力だってのに!」
「リズ・ブレイドビー、彼の妻ですが勇者の役目を優先しアミラと対立し離れ離れになっていました、これでもう永遠にです」
――
「イラ様!イラ様!」
クレアは必死に物を言わぬ身体に何度も声を掛け揺さぶる、するとイラは片目を開け息を大きく吸った。
「よかった…よかったよかった、ご無事でしたか?」
起き上がり感覚の内右顔にゆっくりと手をぎこちなくなぞる。
「痛!ねえ……私の顔が半分どうなってるのですか?」
「イラ様、これを」
クレアは片手を伸ばし透明される、彼女の能力は厳密に言うと反射、イラはその手に映る光景に眉をひそめた。
「嘘、そんな、そんな!」
ぽっかりとこめかみと眼窩にかけて空いた穴には紫色の粒子が空へと舞っていた、急いで蔓で目元を縛り穴を編んで塞いだ。
「両目塞ぐのですか?」
「千里のシャーンがいます、彼女の役目でしたが私も共有します」
「なるほど、レイを探しますか?」
「いいえ、リズ・ブレイドビーを殺します、そこからですラードアと戦争を始めるのは」
「しかし、すでにニア達はラー
クレアの姿が無くなる、風の方を見ると竜が足で蹴り飛ばしたのだ。
「ようイラ、そしてさようなら!」
アウリスは首元目掛けて斧をぶん投げる、イラは枝をバネにして跳躍し避け無数の蔓を伸ばした。
「くっ」
アウリスは避けきれず足を掴まれ、四肢を縛りそのまま持ち上げた。
「残念ですが、あなたはここで死んでもらいます」
土が盛り上がり木の槍が飛び出しアウリスの胸に目掛けて飛び出し突き刺す。
「何?」
アウリスの皮膚に毛が生え着ていた和服と共に体が何倍も膨らみ縛った蔓が引きちぎれる、槍は貫通するどころか折れて床に転がった。
「ガルルルアァ、アタシニカテルトオモッタカアイ?」
「返祖の者、魔力に対抗出来うる数少ない脅威、ここで仕留めなくばな
その瞬間、爆発音が響く。
「なんの音ですか?」
「シルカ!」
イラの後ろに茨で覆われた巨大な狼型の悪魔が前に現れ、クレアが横に来て2人の姿は消えた。
「アウリス様、行きますよ」
「ワカッてる」
アウリスは姿を戻し竜の上に乗り飛び去った。
「その着物良いですよね、変身しても破ける事が無い」
「天崎からスク水と一緒に貰った、それよりも早くこのようやく使いこなせた力でラードアの奴らをぶっとばしに行くぞ!」
「…守るんですよ?」
意気揚々と吠えるアウリスに竜は困惑しながらも、戦地へ向かう速度を上げる。
――
「なんだと!ザンドラの悪魔共が貿易用の列車を爆破しこちらにやって来てるだと!?今すぐ兵を出せ!なんの為に兵器開発に尽力を注いでやったと思っている!」
アゾヒストが官僚達に喚き散らすが返事がないどころか顔色1つ変えない。
「お前達!何無視してるんだ!この野郎!さっさとへんてこな玉を引きずり出してカサエスだかザンドラに売っぱらっちまえい!」
「これはこれは、ラードア王国国王アゾヒスト殿下」
「なんだおま、使徒?」
少年と女性が前に現れる、どちらも白髪金眼に神々しい覇気を放っている。
「こいつらは俺が止めた」
「あなた達の行動は見てきました」
「ええ!?本当ですか実に素晴らしかったでしょう?そうで「そんな訳ねえだろクズ」
柔和な顔立ちをした美女から到底発する事の無いような単語が飛び込んだかと思えば、金色に光る鞭を手に取り振り回した。
「なっ」
音速で飛び交う鞭が官僚達の首を薙ぎ払いアゾヒストの腹を命中させ、玉座ごと壁へ吹き飛ばした。
「はあはあ……ひ!」
粉砕した玉座だった欠片の傍らアゾヒストは体を起こし恐る恐る腹に手を当てると、生温い感触と共に細長い蛇を手に掴んだ。
「あ…あああああ!!!!」
それは蛇では無く腸である事に気付き絶叫する。
「うるさいねえ虫ケラが」
女はアゾヒストの首を掴むと持ち上げた、自分よりずっと細い体の女が巨体の自分を片手で軽々と弄ぶ事が出来るのにただ疑問であった。
「ただのデブスが玉座にふんぞり返って私服を肥やして偉そうに講釈を垂れて、あまつさえルリエ様から授かった武器を捨てるですって!本当にむかっ腹が立つ、死ね!死ね!死ねぇ!」
白く滑らかな肌の綺麗な指がたるんだ肉をボンレスハムの様に絞め付け、女よりも倍以上の巨漢が呻き暴れるもビクともしない。
「シエラもう死んでるぞ」
両腕を垂らし動かなくなり痙攣を終え動かなくなった肉の塊を投げ捨てた、シエラは汚い物を触ったかのように嫌そうな顔をして手を振ると、男にたれ目を向ける。
「イレク、あんた勃起してるでしょ?」
「え、あいつこそ首絞められてんのに勃ってたぞ、シエラの爆乳にアソコが当たってたから」
「気持ち悪、とりあえずルリエ様の命通り金玉を護ればいいのよね」
「金喰の宝玉ね?」
「どっちも一緒でしょ、スプリガンが奪われた今あれが唯一ルリエ様の魔力供給源、確かこの豚が地下に隠してるのよね」
シエラはヒールでアゾヒストの亡骸を踏みつける。
「それをイラが狙っている、あとシエラ、あいつは俺が殺すからな、時間停止してゆっくりナイフでいたぶってやる、キヒヒ」
イレクは金色の果物ナイフを手に取ると舌なめずりをしながらいやらしく笑う。
「あんたも相当サディストね、まあ私は女の子興味無いしイケメンを見つけたら手を出さないで頂戴?」
「分かってるって、前まではギースが見つけてくれてたもんな、じゃ契約成立」
2人はハイタッチすると不敵な笑みを浮かべながら城を抜け、そこにクロスボウと大盾を持った天使達が後へ続いた。




