エピソード3 トレインレイド Age35
「リズ様!荷物は丁重に扱ってください!」
金庫のダイヤルを回すリズの背に兵士が大声を上げる。
「うるさいですわね、ぶっ飛ばしますわよ!」
わざと強く扉を閉めると振り向き怒鳴り返す。
「爆発したら大変なんですよ!列車なんて軽々吹き飛びますよ!」
念の為再び荷物をチェックするリズにアミラが寄越した護衛の兵士が心配する、1樽でも持ち出されたら大事だ、警備が居るにせよ心配するに越したことはない。
「いいからリズ様はお席に戻ってください」
「なんなんですわ!ぷんすかぷんすこ!」
リズは足音をわざと立てながら金庫を蹴っ飛ばし貫通扉を勢い良く開けて行った。
「まったく……ん?」
兵士も扉を閉めようと続くも、何か蹴った感触がした。
「なんだ?」
足元を見やるも何も無い、何かが口を塞いだ。
「ぁ「声を出さないで」
クレアが耳元で囁く、後ろの気配が増えた。
「なあ、こいつ殺そうぜ」
「バレちまったんだ、仕方ないだろ」
「やめ「邪魔だどけ」
クレアは押しのけられ尻餅をつきゴリキは兵士の頭と肩を掴み怪力で捻った。
「全ては救済のため、全ては救済のため」
この計画を遂行させるには誰かが必ず犠牲になる、それを受け入れるために彼女は倒れたまま己を言い聞かせるように呪詛を唱えた。
「行くぞお前達」
ぞろぞろと、能力者達が扉を抜けていく。
「全くあの兵士生意気ですわ、というかこんなに兵士なんて要りませんわ」
リズが座席に座り文句を言ってる後ろ、何かが現れる。
「おらー!今からここは俺達の場所になった!」
ネッカが前に立ち、両手を手刀のまま上げ肘を曲げる。
「動くな!」
兵士達が一斉に銃を向ける、それでも能力者達は全く動じない。
「おいレックス」
ゴリキの呼び掛けでつんつん頭の青年が前に現れ手をかざすと、扉程の大きさの透明な水面の膜が貼られた、数人の兵士がそれを打つも弾が膜から先に通ること無く止まった、痺れを切らした兵士は握った手を上げ銃撃を止める。
「武器を捨てろ!」
ゴリキが兵士の銃を奪いへし折る中、リズがスカートの中に手を入れる。
「おいお前!何してる!」
レックスが不審な動きに目が入る。
「何でもありませんわ」
左袖を掴み両手を上げる。
「乗客を1箇所にまとめて見張れ」「ああ」
兵士から無線を取り踏み破壊し腕を掴み連れて行く。
「いいか?勇者になんかなろうと思うなよ、大人しくしてりゃすぐ終わる」
「すぐじゃないですわ、3時間くらいかかりますわ」
「お前はだまっ「やめろ!」
ゴリキは手を上げるがクレアの一声で止まった。
「おいおいなんだあれは!」
乗客の1人が窓に指を差し大声を上げた、全員そちらに見ると。
木の根が高速でうねり波のように移動している、それは列車の速度に劣るが追いつく程、その下には無数の悪魔達が絡まっている。
「あの女!」
そこイラが立ち上にはニアが鳥型悪魔に乗って上を飛んでいる、木の乗り物と共にこちらにゆっくり近づいている。
「何をする気だ!」
恐れる兵士は震えた声でクレアに目的を問う。
「ラードアに着いたら後ろの車両を城に投げる」
「はあ!?」
彼女から出た言葉に全員驚愕した。
「それって」「城が吹っ飛ぶぞ!」
「テロですわ!」
「は?テロ?」
ゴリキが困惑した隙、リズが銀色の棒を取り出し向ける。
「なんだそ
棒が伸び、槍がゴリキの脳天を突き刺した。
続け様に後ろからメイが現れレイピアをレックスの肩から脇腹目掛けて貫通させる、その隙に兵士は武器を取る、ネッカが手刀を振るうとメイの胸元が斜めに切れ血が噴き出す。
「がはっ」「躊躇わないでくださいまし!」
アミラは能力に利用価値を見出すために1度見逃したがリズ達は違う、数千年も前から能力者と悪魔に振り回されてきたのだ、そいつらを殺せる力があるならそれを振るうまで、攻撃しようとした者は全員蜂の巣になるまで撃ち抜かれた。
「待って!お願いその人を助けさせて」
少女が丸まりながら死体の山から血の海を踏みしめ前に出る。
「レイ?」
「私は戦えないから隠れてろって言われた」
リズが倒れそうになるメイを支え抱え込む。
「私は…大丈夫です……防弾チョッキを3重に付けてたの……で…」
「いいから何も話さないで、彼女が居るから助かりますわ、もう大丈
窓から蔓が飛び出す、メイは咄嗟にリズを押す。
「メイ!」
木の枝が腹を貫き浮き上がる、イラが窓の前に現れる。
「貴方は私の同胞を殺した、天罰を受け入れなさい、これが救済です!」
メイを窓に投げ捨て救済の神とやらは悪魔の様な形相でリズに睨みつける。
「イラ、私はお前を殺すと誓いましたわ!」
金色の拳銃が見えた途端イラは木を編み盾を作る、リズはトリガーを引き盾はミスリルの重い音を立て破片を散りばめそのまま右眼を破裂させた、半分に崩れた顔は紫に輝く粒子をばら撒きながら木の玉座からその身を投げ打たれた。
「イラ様!」
クレアが窓に飛び出しイラを掴む、地面は目まぐるしい速度で引かれているため2人は抱き合い何度も転がっていった。
「助けなくていいですわあんな奴」
続こうとしたレイに銃口を向ける。
「でも、助けないと」
「レイこそ人類の救世主ですわ、あれは死ぬべきなんですわ」
「おい!なんか来てるぞ!」
木の波が止まりそこから胞子を纏った馬型の悪魔が枝の壁から抜け出し追いかけ始めた。
「はっ、たかが馬だ車にだって追いつけっこ……は?
一体の悪魔が急接近する、一定距離を大幅に移動しているのだ、角の生えた男が騎乗している。
「ラルガね、彼の瞬間移動なら列車に追いつく」
馬の目と口が光り始める、ラルガは馬から消える。
「やばい、これ自爆じゃ」
更に光が高度を増し漏れだす瞬間、柱のような石の牙が馬を吹き飛ばし空中で爆散した。
「クーア!」
巨大なイノシシのような岩の怪物はレイの声に何も答えず、4本の足で列車に近づく。
「まさか……」
あれはもはやクーアでは無い、ザンドラから脱出する際にとうとう悪魔となってしまったのだ。
「こっちに来るぞ!」
岩の悪魔が列車にぶつかり大きく揺れ窓が角に突き刺さる。
「どうする!このままじゃ列車がぶっ壊されるぞ」
「私に考えがありますわ」
「なんだお嬢さん、どうする気なんだ」
リズは車両の扉へ移りしゃがみ、レバーを引いた。
「お前、何してるんだ!」
車両が離れ減速する、連結を解除したのだ。
「ちょっと!」
レイが飛び込み、リズは咄嗟に手を掴んだ。
「私も行きます!」
「グアアアアアアア!!!!」
クーアが遅れた列車に突進する、リズは銃を撃ち岩の鱗を撒き散らしながらも構わず進み続ける。
「クーアちゃん、こんな姿で生き続けるのもあいつらの味方になるのも嫌なはずですわ、だから終わりにしてあげますわ」
――
「追いつくといいんだが……」
『この速度なら数分で列車の横まで行けると思います』
少しでも気を抜けば振り落とされそうな程風はたなびく中、天竜は兜に内蔵されたインカムで応える、列車の兵士から定期連絡が無かった為至急竜騎兵を出動させた。
「なんだあれ、どうなってる?」
列車は見えた、最後尾の車両の連結が外れている。
「俺はあの車両に向かう、ゲインズとアウリスは前の車両の敵を倒せ」
『了解大佐』
『なんか近くから匂いがした、あたしはそっち行くわ』
アウリスはそう言うと何故か列車に逸れた道へ竜を飛ばして行った。
「おい待、もういいや」
竜は体を傾け滑空し一気に急降下させる。
「な
見えたのは岩の怪物、前の車両より離れた車両に向かっている。
「あれは、クーアか」
確か1番後ろの車両は火薬が入っている。
「クソ、間に合ってくれよ」
――
「おい!速度を上げろ!」
「嫌だね!しかもそこ速度の所じゃないし触るな!」
ラルガがドワーフの車掌と操縦桿の前で押し合う。
「動くな!」
兵士達がラルガに銃を構え突っ込む、が一瞬で首を掻っ切らればたばたと倒れる。
「ひぃ!?」
「速度を上げないならお前を雲の上に連れてたたき落としてやる」
車掌の首に血塗られたナイフを当て恐喝した時、屋根から足音が響いた。
「あ?」
その瞬間ミスリル特有の青白い光沢で目が眩み何かによって壁に叩きつけられ抑えられた。
「よくも同胞を殺しやがったな!」
ゲインズは盾を上げ振り下ろすが、その姿は無かった。
「俺達だって殺された!」
天井から飛び降りナイフを突き立てるも盾で弾かれる、ゲインズはすかさず盾でぶん殴るが腕を掴む、するとラルガは笑う。
「なっ!」
2人は一瞬で列車の上に場面が変わりラルガは振り捨てようとする、ゲインズがショットガンを手に取り重い発射音がなる頃には既にラルガは消えていて屋根を虫食いの形で薄葉の如く穴をぶち開けた。
ラルガはすぐ横にテレポートし後ろからゲインズの腕を蹴り飛ばす、ショットガンは宙へ投げ出されてしまうも掴み返し互いに天井の上回転しつつ揉み合う。
「クッソ、離せ!」
掴まれたままでは2人同時に瞬間移動してしまう、そこに両腕が太く指の無い大男が現れる。
「やれ!」
大男は腕を伸ばすと先が赤く光り始める、ゲインズは咄嗟の判断で盾を構える。
すると轟音と共にゲインズの握る盾に凄まじい振動が加わった、ゲインズは吹き飛びラルガを背中で屋根から押し出すが空中で消える。
「まずい」
大男はもう1発目を放とうとしていた、これ以上受け止めきれないとゲインズは死を覚悟したその時、大男の額に穴が空いた。
遠くには竜に乗ったバートラムが銃を構えていた、ゲインズが手を振る横にアミラが屋根に降り立つ。
「大佐、アレスを落としてしまいました」
「後で探せ、後列車両の状況は確認出来たか?」
「まだです、能力者の制圧に手間取ったもので」
「誰かいるのか?」
俺達はすぐに駆け付ける、怪物は何かの攻撃を受けている様子だが誰がやってるのかは大きな背中のせいで見えない。
「天竜!」
俺の声で竜達は加速を早め天井の真横まで飛ぶと滞空するので乗り、岩の怪物の横まで飛び出す。
「そんな」
なんと車両に乗っていたのはリズとレイ、前には悪魔後ろには火薬の山、リズは拳銃で何とか牽制しているが弾が切れたら突っ込まれる。
「どうします!?」
下手に撃って火薬に引火したら終わる、かと言ってそのままにしてれば車両がひっくり返される。
「っこむ」
「はい!?」
「突っ込む!!!」
勇者達にスーザンにクーア、それだけでなく沢山の人を失った、これ以上リズまでも失ってたまるものか。




