エピソード5 ザンドラ陥落 Age32
例の報告からすぐに戻って来たが、スーザンは更に顔色も悪くなり細くなっていた。
「母様!母様ぁぁぁ!!!」
「私はもうだめだ、テオ、私の脚の剣とこの剣をやる」
「え?」
スーザンはテオに2つの剣を渡す。
「これがお前の両足だ、こいつでリズを守れ、分かったな!もしそれができなきゃ私が化けてでてお前を殺すぞ!!」
彼女の細い顔が物凄い形相でテオを見た。
「はい!!!」
テオは大きく頷く。
「アーゼスが居なくなってから本当に寂しかった、アミラあの家は………………
「何だスーザン」
俺は手を握る、握り返してくれたがもう力が無い。
「寄り添う人の居ない……子供の…………孤児院にしろ…………
スーザンの手に力が抜けていく、誰かの最後は何度も見てきたが、家族に囲まれ死んで行くのは見たのはこれが初めてだな、冷たくなりもう動かない共に長く居た家族を抱く、これ以上に辛い事が有り得るのか?
「母様?そんな…」
医師がスーザンの喉に手を当て首を横に振った時、全員顔の前に拳を握った。
「彼女は俺の師匠だった、親父と村を失って初めに出会ったのが彼女だ」
「あたしにとってもかーちゃん同然だ」
イギルはリズの頭を撫で、アウリスと手を繋ぐ。
「母様、フェルヘイビアでまた会いましょう」
その瞬間、病院の入口から大量の患者を乗せた担架が雪崩込んできた、スーザンと同じような症状、これはまさか。
「ペストだ」
なぜ……もっと早く気が付けなかった!
――
すぐに無線室へ駆け付けモールスで天崎に俺達が通った店や城の関係者達に検査させるように話した。
「大丈夫かリズ」
家に戻りリズの様子を見る、家に籠るようにしているのもあり他の皆もだがかなり落ち込んでる様だ。
「母様…」
「いつかは立ち直れる、時間が経てばな…俺も両親をテロリストに殺されたから………」
「テロリスト????ルリエ様じゃないんですの?」
「そうだ!今のは忘れてく
その時、何かが破裂する音が響いた。
何ですの!?」
「そこにいろリズ!!ここから出るなよ!」
今の音、恐らく壁の方からだ。
鳥型の悪魔が複数ザンドラ上空を駆け回る、これは対悪魔対策シナリオでの最悪な駆け出しを意味する、なぜなら上から爆弾でも落とされたらひとたまりもないからだ。
だがおかしい、軌道が直線的すぎて列が組まれている、まるでエアショーのようだ。
「ん?」
よく見ると真ん中で飛ぶ鳥の上誰か乗っている、目を凝らすと桃髪の若者が見えた。
「隊長!1分前何者かに奇襲を受け南門が破壊され悪魔が侵入しています!同時に護衛部隊が全滅!」
「敵は勇者及び魔王、至急総員出動せよ!」
副隊長ゲインズは近くの兵士を催促しすぐに現場へ向かった。
この状況はどうで、どう転ぶかは俺すら何も分からない。
――
壁が破壊され複数の悪魔が人を襲っている、既に兵士は銃を手に戦っているが押されているようだ、悪魔が前にシールドを展開させ、銃弾を防ぎその脇から攻撃魔法を放つ、まるでファランクスを彷彿とさせる戦術だ。
「何か変だ」
そもそも悪魔に知性は無い、戦術などあったものでは、無かったはずである。
俺はゲインズから銃を受け取り俺は車と車を飛び越え建物に飛び移り駆け抜ける、回り込みながら撃つ事で弾丸はシールドを潜り抜けた。
「すごい……」
「何してる!早く国民を城へ避難させろ!」
自分達が苦戦していた敵が一瞬で薙ぎ倒される様子に兵士達は見とれているがそれどころじゃない。
「隊長、やはり何かおかしいです」
ゲインズも気が付いていた、これまで無かった壁の破壊、統率の取れた悪魔達。
「恐らく何かが操っている」
「なるほど」
1番有力なのはあの鳥の上に居た存在。
「鳥型の悪魔に攻撃を集中させろ!上に敵の勇者か魔王が居た」
「分かりました、狙撃部隊に狙わせます」
――
『言いましたよね?必要以上に人は殺さないと』
空の上、桃髪の中性的な顔立ちの少年は脳に直接響かせる清楚な女性の声を嫌々聞いていた。
『違うよイラ、壁を壊したのはヴォドがやったんだ!』
『悪魔を動かしたのは貴方でしょ!とにかくニア、左右の鳥さんが持つ力は絶対に使わせないようにしてくださいよ?アレは飽くまで万一の為ですからね』
『はいはい……』
ニアは鳥を大きく旋回させる。
「ちょっ」
だがこれは故意では無く片翼を何者かに撃ち抜かれた為、羽をばたつかせ墜落されて行く。
「やっべ」
近くの鳥がニアを拾う。
「万一って……今だろ!」
――
「ようやく悪魔も減ってきたか」
「隊長、奥に何か居ます」
背の低い白肌の小鬼の様な男、隣に居るのはそいつの何倍もある体躯で灰肌の顔から4本の角が生えた怪物。
異形、という事はどちらも魔王という事になる。
「逃げろゲインズ、ここは私が食い止める」
「逃げません、自分は貴方の為に死ねます」
「覚悟は出来てんだろうな?」
銃を小鬼に撃つ、がいつの間に大男を撃っていた、顔の角が伸びる、気づけば俺の目の前に。
角が俺の体に突き刺そうとした瞬間、ゲインズがライオットシールドを手に前へ現れる。
「ご無事ですか?」
「ああ、助かった」
「ヴォド!早くしろ!」
「分かっておる」
ヴォドは座禅を組み何か力んでいる、魔力を溜め込んでいるのか。
「バルター!儂を守れ!」
何かをされる前に撃ち殺す事を試みるがバルターが前に現れ阻み弾く、俺はトリガーを引きながらそちらに向かう。
「よくも壁を破壊したな」
「お前がアミラ・レッドバードか、聞いた話より随分弱そうに見えるぞ」
「へえ、私も随分人気者になったものだ」
バルターは角の一部を勢い良く飛ばすがゲインズが盾で受ける。
「やるじゃないか、だがこいつはどうかな」
今度は角を伸ばし攻撃する、再び盾で受け長そうとした瞬間、寸前で角の一部が曲がりくねり軌道を大きく変えた。
「危ない!」
このままじゃ角が脇腹に命中する、俺はゲインズを蹴飛ばし、体を勢いよくフィギュアスケート選手の様に飛び空中で回転しながらナイフを振り回し全ての角を粉砕した。
「隊長お美しいです」
「おべっかは後だ」
「ほう、そいつミスリルか?」
「そうだよこれで刺されたら死んでくれるかい?」
破壊された角が再生を終えるとジョークをたれる俺に再び角を飛ばすが全て避ける、そして俺がゲインズの肩を踏み台にしバルターの元に飛び胸にナイフを突き刺そうとした。
が、俺はそのまま壁を蹴りゲインズの元へ戻りドロップキックをかます、背中で熱い空気を感じた。
「何!?避けやがったのか」
振り向く、そこには門も何も無く代わりに現れたのは。
「ロポスのクレーター…?」
テオと栄竜の様に同じ能力を持っているが発動条件や能力の効果が少し違う事が多い、ヴォドの場合力を溜め込んで自分の周りを消滅させるのだろう。
ロポスのあちこちに拡がった小さな穴を見た限りゾルベスクはヴォドと違って放射型なのだろう。
「受け取るのです!」
クーアが合流し俺に何か投げる、ショットガンだ、それを受け取りぶっぱなす。
バルターの片腕が弾け飛び防御が手薄になった所にもう1発でヴォドの頭を撃ち抜いた。
「クソ!!」
バルターはやけくそに角を伸ばしクーアは岩の壁を生み出す、だが壁を撃ち抜かれた。
「あ
角がクーアの胸を貫いた、様に見えた、寸前で何かに切り落とされ地面に転がった、角はヴォドの死体と同様に、紫の光となって消えていった。
前に現れたのはテオだった、両手から炎を出し空から敵に立ちはだかっている。
「僕も戦います!」
左足は布で巻かれただけだったが両足とも剣で武装していた。
「ようテオ、アイアンマンみたいだな」
「それなんなのです?」
「やっちまえお前ら!」
バルター何かけしかけると角を塔の先まで伸ばし引っ掛けるようにして登ると、何処かに飛び逃げた。
「テオはあいつを追え、クーアは壁を塞げ」
「了解なのです」「分かりました」
クーアが壊れた壁を石で覆った瞬間、その奥から何か巨大な物が這いずるような音が響いた。
「何だ!」
それは壁を取り囲うような音で見上げた瞬間、俺は思わずぶったまげた。
巨大な茨の壁、所々ピンク色の花が生えているようで、2つの巨大な蕾が此方に垂れ下がりまるで見下ろしているかのようだった。
茨に何かが絡みついている、魔獣でどれも身体は大きく何よりも身体中に茨のような草が絡みついている。
「あれは魔草だ、巻かれている」
よく見ると茨は皮膚を食い破り中に侵食していたのだ、肉厚な茨が這いずるようにしてまるで寄生しているかのよう。
「まずいな、ここで食い止めなければ国中に胞子が撒き散らされ国民総員悪魔になるぞ」
俺は布を顔に巻いて銃身を強く握る、銃口を悪魔へ向けた途端、蕾が開いた。
そこから現れたのは顔中目玉に覆われた不気味な怪物と白髪でユニコーンのような角が生えた女だった、どちらも紫を基調とした修道服を身につけ、怪物は座禅を組み佇んでいて女は俺達をまるで楽園から傍観する神のようだった、どうしてもあの時を思い出してしまう。
『ザンドラの兵士達よ、武器を捨てて降伏なさい』
あの女の声、だが女は口を開けてすらいない。
「今の聞こえたか?」
「はい」「テレパシーなのです?」
「さあな、だが」
俺は銃を床に投げ捨てる、次にホルスターの拳銃も。
「奴らは手強い」
――
「待て!」
テオは屋根の上を走るバルターに両手のブースターで上空から距離を取った。
「ちっくしょう!」
バルターは腹を突き刺され路地へ投げ出される。
「倒したか、う、あ゙あ゙あ゙……!!!
テオの体に雷が走り、倒れ伏せ蹲る。
「クソ!テオ様がまずい」
兵士はテオに銃口を向け、彼が悪魔にならない事を祈った。
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