第8話
町へと繰り出した吉法師と恒興。
「おっ!!じいちゃん。腰が痛いんだろ?酷くなるから大人しくしてなよ。どれどれ…恒興代わりに薪割りをするぞ。」
「ほほほっ。嬉しいですが…若様にそんな事を頼めませんよ。」
「心配いらん。私は今、薪割りをしたいのだ。訓練の一環と考えてくれれば問題ない。」
そう言って半ば無理矢理、薪割りをし始める。
吉法師は町に出ると、困っている民達に手を差し伸べる。普通ならありえない光景なのだが、ここ那古野城周辺の町や村では見慣れた光景だ。
「若様。」
「若様。こんにちは。」
民達は吉法師を見ると気軽に、笑顔で挨拶をしてくる。家老達も近すぎる距離には反対をしていたのだが、最近では何も言わなくなってきた。
恒興は、民の姿を見て、聞いて、民を考えるそんな吉法師が好きだった。だが…。
「あっ!!若だ!!」
「本当だ!!」
「はぁー。こら!!何度言えば分かる?せめて”様”を付けて呼ばないか!!」
これで何度目だろうか…恒興は、町の子供達に注意するも聞いてくれない。
「まぁ。いいではないか。子供のする事だ。少しは大目に見てやれ恒興。」
「しかし……。はぁ…若様がそれでいいなら。」
「元気があっていいではないか。して何か困った顔をしているが…。何かあったのか?」
吉法師は子供達に聞いてみる。すると…竹とんぼで遊んでいたらしいのだが、落ちた竹とんぼを間違って踏んでしまい壊してしまったらしい。
「1番飛ぶやつだったのに。」
「ごめんって。ほら…俺のをやるから。」
「やだ…それ飛ばないやつだもん。」
吉法師も恒興も顔を見合わる。
「良い解決策があるぞ?」
恒興が子供達に声をかける。
「ここに良く飛ぶ”竹とんぼ”を作るお方がいる。」
「ハハハッ。恒興。」
それから子供達の為に竹とんぼを作る吉法師。
「見てろよ!!それ!!」
「「「わあ〜。高〜い。」」」
空高く舞い上がる竹とんぼ。
皆んな笑顔で見上げている。
「若ーありがとうー。」
「バイバーイ!!」
「若またねー。」
「全く…。また若様の事を…。」
「恒興。」
吉法師は打って変わって真剣な表情で名前を呼んだ。その表情から真面目な話なのだろうと恒興も姿勢を正した。
「私は、あの笑顔を失いたくない。もちろん子供達だけじゃなく、私達…織田家に仕える民”全て”をだ。欲張りだと思うか?無理だと思うか?」
加納口の戦いのあとから、小姓でもある恒興は、吉法師が何かに悩んでいるのは知っていた。
「いいえ。若様が決めた事ならば”きっと出来ます”。」
「恒興には言っておく…私は”戦の無い世の中”を作る。方法もまだ分からない…今はまだ戯言にしか聞こえないだろうが。まずは力を付ける。そして織田家の当主になるのが第一歩だ。」
「はい。」
「きっと険しい道になる。力を貸してくれるか?」
「この恒興は”どこまでも”若様に着いて行きます。」
少しだけ長居をしてしまい、日も暮れ始める。
「それでは戻るか。」
「はい。」
(”戦の無い世の中”か…。そんな世の中になればどれ程良い事であろうか。どんな道であっても命尽きるまで支えてみせます。)
更に絆が深まった2人。
きっと…この日の事は忘れないだろう。