第5話
那古野城にいる吉法師にも報が届く。その内容は衝撃的なものであった。
『織田軍の大敗』
信秀様は数人の共と帰還。
軍は壊滅。更には父信秀の弟、織田信康の死亡。そして同時に青山信昌の死亡も告げられた。
「父のいる古渡城へ向かう。」
「それはなりません。」
それを止めたのは家老の内藤勝介。
「那古野城周辺からも多くの男達が戦場に向かわれました。亡くなった人の中にも家族がいる者も多くいたでしょう。男手がなくなった民達をそのままにするつもりですか?ここで若様がいなくなれば民達はどうするのです。あなたはここを任せれたのではないのですか?」
「……。そうだな。すまない。取り乱した。」
「若様のお気持ちは分かります。私も同じ気持ちです。それにこれから冬支度もあります。信秀様が若様を呼んでいないと言う事は、そういう事かと。」
「その通りだ。直ちに被害者、そして家族を割り出す。男手がなくなった家庭にどの様な補填が必要か話し合うぞ。残りの家老も呼んできてもらえぬか?」
「はい。かしこまりました。」
それから次々と戦の詳しい内容が分かってきた。
土岐頼純の裏切りから始まり、青山信昌軍の殿により、父信秀が退却する時間が作れた事。他にも父信秀の為に数々の人達が亡くなっていった。聞けば聞くほど色々な感情が湧いてくる。
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その日の夜。
吉法師は眠れないでいた。目を閉じると皆んなの事を考えてしまう。
(少し外に出ようか。)
気がつくと庭に立っていた。ここは信昌に剣の稽古をつけてもらっていた場所。丁度いい長さの木の枝を拾い、素振りをする。
ブンッ!ブンッ!
「若!!腰がはいっていませんぞ!」
「うるさいの!やってるではないか。」
ブンッ!ブンッ!
「若!!また余計な事を考えてますね。」
「なぜ分かる?」
ブンッ!ブンッ!
「将来若は、きっと織田家を大きくします。」
「今のままでよい。余計な戦が増えるわ。」
ブンッ!ブンッ!
「なぜ…なぜ信昌が死ぬ必要があった!!なんで戻ってこなかった…。」
吉法師は涙を流した。どこの世界も戦いばかり…。
「もう誰にも死んでほしくない…。大切な人が死ぬのは見たくない。」
青山信昌の言葉を思い出す。
「戦が好きな人なんていませんよ。金はかかるし、人は亡くなるし。」
「だったら、戦なんて辞めればいいのに。」
「それなら若が作って下さい。相手が恐れるような織田家を…そしたら戦なんて仕掛けて来ませんよ。」
夜空に向かって決意を固める。
「「「だったら作る。戦のない世の中を!!」」」
「皆んな…天から見ててくれ。私の事を……。それと父上を救ってくれてありがとう。」
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これが吉法師、人生の分岐点となる10歳の出来事。
新たな思いを胸に秘め、織田信長と名を変えて。これから日ノ本を統一していくことになるのだが、まだ誰も知らない物語。
これにて終了です♫
短編を読んで頂きありがとうございます。
私なりの解釈で史実とは違う部分もありますが、どうだったでしょうか?感想や評価頂けると嬉しいです。