第4話
「「「全軍。突撃ーー!!!」」」
斉藤道三のかけ声により、一気に山を駆け下りた。
織田軍は兵が半分程引いている状況。
それを本陣から見ていた信秀は軍に指示を飛ばす。
「奇襲か。だが焦る事はない。見たところ斉藤軍、ほぼ全軍の5000。こういう状況も踏まえて各軍に指示を出しておいた。織田軍は守備を整えて、西の朝倉軍、東の土岐軍が囲むのを待てばよい。それで終いじゃ。」
信秀は、このままで終わる道三ではないと感じていた。攻撃も守りも得意だが、道三の気質は分かっているつもりだった。どこかで必ず奇襲を仕掛けるはずだと。
しかし、蓋を開けてみれば後先考えない、ただの特攻。
「落ちたな道三。最期は私の手で終わらせてやろう。」
織田軍は軍を引き上げていた直後。
前線は背後から奇襲を受け300人程が一瞬で犠牲になった。しかし信秀が指示を出し、守りを固めた織田軍は持ち直す。
「報告。朝倉軍•土岐軍動き出しました。」
「よし。このまま援軍を待つぞ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
四半刻後。(約30分)
「いつになったら援軍が来るんだ。他の軍は何をやっている!!」
信秀は焦りの表情を浮かべている。
相手の勢いを止められず、守りを重視した戦い方をしていた為。織田軍の残りは3000弱程にまでに落ちていた。
「報告!!報告!!」
「土岐頼純率いる土岐軍は朝倉軍の前に立ち塞がり、朝倉軍からの援軍を阻んでいる模様。」
「くそ!!裏切ったか!!頼純め!!」
この時、斉藤道三は、前線に出て指揮をして自らの軍を鼓舞していた。
「信秀、お前はワシらが奇襲をかけた時、攻勢に回れば勝ち筋があったものを。まぁ誰でも援軍を待つ状況だがな。ワハハッ。このまま本陣へ突っ込むぞ!!着いて来い。」
「「「おおぉーーーー!!!」」」
勢いは止められない。
次々に織田軍の兵がやられていく。
「報告。斉藤軍すぐそばまで来てます。」
「そんなものは分かっているわ。」
「報告。信秀様の弟。織田信康様、敵に討たれました。」
「何!?信康が……。」
「信秀様。ここは撤退を。私が殿を務めます。」
そう言ったのは青山信昌。
「しかし…。」
「信秀様がいなければ尾張は終わってしまいます。民の為、家族の為にも、ここは私に任せて下さい。そして信秀様…あなたとの約束を守れず申し訳ありません。若様を支えてあげられなくなります。」
「信昌。お前ってやつは……。」
「あと若様に伝えて下さい。口うるさいのがいなくなりますが、怠けない様にと。」
「分かった。伝えよう……。信昌。長年織田家を支えてくれた事、感謝している。」
「はい。ありがたきお言葉。もう時間がありません。最後に信秀様……必ずやあなた様の夢を叶えて下さい。その為に死ねるのであれば本望です。」
「ああ。必ず叶えてみせる。では…また会おうぞ。その時は良い話を沢山聞かせてやる。」
これが青山信昌と最後に交わした言葉だった。
「皆んなすまないな。那古野城に帰れなくなって。若様と帰ると約束したのに。」
「いいんですよ。若様の父様を助けられるんだ。これで尾張が救われると思えば後悔はない。」
「俺もです。」「私も。」
「若様は怒るかな?約束を破って。」
「悲しむんじゃないか?」
「優しいからな。若様は。」
「立ち直れればいいが。」
「そうだな。若様なら大丈夫さ。」
「まずは時間を稼ぐぞ。」
「行くぞー!!大切なものを守る為に!!」
「「「おおーー!!」」」
この日、殿を務めた青山信昌の軍は僅か500名程で斉藤軍5000を迎え撃った。
見事に信秀が率いる軍、残りの2500名を撤退させる時間を稼ぐ事に成功するが、全員討ち死にした。
倒しても何度も起き上がる姿は斉藤道三を、もってしても見事な兵だと言わせた。
織田軍撤退の報を受けて朝倉軍も撤退を開始。
裏切った土岐頼純の軍は、そのまま美濃に残った。
敗走した織田軍は木曽川で、斉藤軍に攻撃を受け、2000名近くの兵が溺れ死ぬ。
しかし信秀は兵5、6人を連れただけで、なんとか帰還に成功した。
こうして加納口の戦いが幕を下ろす。
『織田軍の大敗』という結果だけを残して。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『生き残ったか。信秀め。』
「しかし、これで織田家の力は一時的に失いました。戻すには、かなりの時間がかかるかと。」
「ふん。そんな事は分かっておる。しかし狙いとは多少異なるが、道三の奴も食えない男よ。まぁ良い。我々、『斯波氏』が尾張の守護じゃ。今のうちに
こちらも動くぞ。」
「はい。して土岐頼純は結果裏切りましたが、どうするおつもりで?」
「ハハハッ。あんな小物はどうなろうと構わん。それに我々が手を下さずとも道三がやってくれる。使えないと思ったらすぐにでも消えてくれるさ。」
「分かりました。」
土岐頼純。
2年後に約束通り美濃守護に就任するも…
天文16年11月、頼純は急死する。享年24
わずか1年余りの守護就任であった。
道三の謀略により殺害されたと分かる人はそう推定した。




