第3話
天文13年9月22日。(1544年)
〜那古野城〜
兵の帰りを待つ吉法師は、随時報告を受けていた。
「織田信秀様率いる軍は、順調に稲葉山城に進軍中との事。」
(今、報告を受けたのが、この内容なら、今日辺りに稲葉山城の麓の町に届いていてもおかしくないな。)
「しかし秀貞。順調すぎて怖いのだが。」
吉法師は1番家老、林秀貞と、この戦について話し合っていた。
「確かに。私も気になります。あの斉藤道三が何もせず終わるとは思いません。それに信秀様の兵達は、ほとんど数を減らす事なく稲葉山城まで進軍中との事。25000という数に恐れて篭城戦を望んだのか。若はどう考えてます?」
「まず稲葉山城に篭城だけするのは、愚策だな。あそこは周りの城を落とし包囲封鎖すれば敵が勝手に白旗を上げると思うぞ。」
「それはなぜです?」
「まずは食料問題だな。あそこは水が圧倒的に少ない。急な斜面の山に建てた事で防御力は高いが、湧き水は出ないに等しい。おそらく雨水や岩から染み出る水を貯めるような井戸だろう。ひと月も持たないと思うぞ。」
「ハハハッ。そこまで考えているとは、感服しました。しかし道三も自らが指示して城の改修をしたばかり、そこは気が付いてますよね?」
「あぁ。道三もそこまで馬鹿ではないだろう。元々力攻めには圧倒的に強い城。たとえ父上達25000人が攻めても、1〜2週間は持つだろうな。その間に援軍を待って挟み撃ちをする…それぐらいしか勝ち筋がないだろう。」
「若様の考えは分かりましたが、今回の戦は連合軍。我々、織田家よりも斉藤に因縁のある朝倉家と土岐家がおります。果たして包囲だけで済むでしょうか?」
「まぁ父上もそこは分かっていると思うぞ。勝手に動かないように釘を刺しているはず。突っ込むにしろ、きちんと包囲してからだろう。」
「それならいいのですが。私は土岐頼純という男に懸念してます。あれは美濃を取り戻すなら何でもする、例え親でも兄弟でも簡単に裏切ってきた男ですから。」
「そうか……おそらく次の報告で、情勢がはっきりする。それまで信じて待とうではないか。信昌も、その兵達も無事らしいからな。このままいってくれればいいのだが。」
「そうですね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜稲葉山城〜
麓の町
そこに17000人の連合軍が到着した。
山の上には稲葉山城が見える。
斉藤道三が率いる軍は5000。
〜織田軍本陣〜
将を集めて軍議を行なっていた。
「道三に援軍が来ないよう周りの城に兵を8000使っておる。」
信秀は篭城戦をするのなら援軍での勝ち筋しかない事を分かっていた。
現在連合軍の内訳はこうだ。
織田信秀軍5000
朝倉孝景軍6000
土岐頼純軍6000
他の城に軍8000
「配置は中央に織田軍、東に朝倉軍、西に土岐軍で、稲葉山城を囲む。まずは麓の村や町の住民をすべて追い出せ。抵抗するなら斬っても構わん。時間的に今日はそこまでであろう。日が落ちる前に全軍配置につけ。本格的な城攻めは明日からだ。」
「「「はっ!!」」」
こうして稲葉山城を落とす為に軍を配置する。
斉藤道三はニヤリと笑った。
「かかったな。信秀!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
東に配置された土岐頼純。
「頼純様。そろそろ答えは出ましたか?」
そう聞いたのは道三からの使者。
「本当に信秀を孤立させるだけで、美濃国を私に渡せるのだな。」
「はい。稲葉山城は難攻不落の城。このままではお互いに消耗するだけで何の特にもなりません。それを分かって信秀は朝倉と土岐の軍を使い潰して織田家に利益をもたらそうと考えております。それならば道三様も守護を任せられるのは土岐頼純様だと言っております。土岐氏当主の土岐頼芸よりも。」
「そうか。そうだな。頼芸より美濃の守護は私にこそ相応しい。道三も分かっているではないか。決めたぞ!!お前達の好きにしろ。約束通り土岐軍は斉藤軍に攻撃しない。そして信秀の援軍に行かぬように朝倉軍の壁にもなろう。」
「分かりました。では今日、信秀軍が引いた時が作戦開始の合図です。それでは。」
そう言って、使者は戻っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
同日、申の刻。(およそ16時頃)
町や村を占拠し。他の軍も目的の配置についた。
それを確認した信秀は、1度引き上げる命令を下す。
「全軍今日はここまでじゃ。明日が本番。しかし夜襲には気をつけろ。注意だけは怠るな。」
「はっ!!」
稲葉山城からは、引き上げる軍が良く見える。それを見ている斉藤道三。
「斯波氏との約束もある。第1は信秀を狙え。首を取った者には報酬を与えるとな。」
「「「全軍。突撃ーー!!!」」」
誰もが勝ちを確信していた、美濃への遠征。
連合軍25000対斉藤軍5000。
この日だけで情勢がひっくり返る。
斯波氏と土岐頼純の裏切りによって。