第38話 見据える先は
『キサマの見据える先は一体どこになる?』
最初に口を開いたのは道三。信長はその質問内容に一瞬戸惑いをみせる。
道三は“見据える先“と言った。だから信長はこう聞き返す。
「それは“最後の“ですか?」
「ガッハッハッハッ。悪かった…そうじゃな。そう捉えてくれて構わない。」
嘘を並べても道三は簡単に見抜くだろう。だから信長は正直に答える事に決めた。
「そうですね。私の見据える先は…“戦の無い世の中“です。」
「……分かっているのか?この戦国の世でどれ程無茶な事を言っているのか。」
「はい。承知の上です。」
“戦の無い世の中“
それは単純に考えると無理な話。
だが…信長は一つの道に辿り着いた。
誰もなし得た事が無い
茨の道に。
「同じ人間なのに戦い合う、命を散らす、大切な人を失う。どうすればいいのか、私は戦の無い世の中の答えを考えていました。尾張を大きくして相手に戦を仕掛けられない程の力を得る。…違いました。それでは戦が起きないのは尾張だけです。この日ノ本全ての生きる人達を戦の無い世の中に。つまり…。」
夢、絵空事。
実際にはありもしないと笑われるだろう。
『『日ノ本を“統一“する。』』
それでも信長は堂々と言い切った。
だが…今はそれに見合った力も名声も富も、何も持ってはいない。
それでも…。
道三は笑わない。
信長に可能性を感じたから。
まだ甘いし生意気だが
道三にしか
強者にしか
分からない何かを。
「若い頃のワシは、自分の見える範囲でもいいからと弱い者達を救おうとした。力が足らず…途中で諦めてしまったがな。信長の言った事はワシ以上に傲慢で無茶な事じゃ。道半ばで立ち止まる事は目に見えている。」
「大丈夫です。私ひとりではありません。辛い時、苦しい時に支え合える仲間がいます。」
道三はその言葉に胸を打たれる。
道三は後ろを見た時、誰も着いて来なかった。横を見た時、隣には誰もいなかった。
本当にそうか?
勝手に弱者と決めつけて、真に相手を見てなかったのかもしれないと。
「ふん。生意気な…。日ノ本を統一か…それはつまりワシとも戦うと同義じゃぞ?ワシが誰かの下につくなぞありえん話じゃからな。」
「道三様とは…そうはなりませんよ。そうですね…なんていうか…勘…ですかね?」
「ワッハッハ。まずは織田家の当主になって尾張を平定するのが先じゃな。口だけじゃなく示してもらわんと。」
「そうですね。では…帰蝶様と同盟の件はお受けして頂けると思ってよろしいでしょうか。」
「ああ。本当は決めかねておったんじゃよ。先日に今川からの使者がワシの所に来てな。どうせ知っておったのだろ?ワシの所に来るのが随分と早かったからな。」
やはり今川家の使者は、斎藤家との同盟を提案してきたらしい。それにほぼ東三河・松平家を手中に収めたそうだ。
「今川は信用ならん。同盟とは名ばかり、おとなしく下についたとて使い潰されるのが目に見えているからな。それに他にも注意すべき者もいる。分かるか?ワシらの周辺で飛び抜けている家が三家。」
『今川家・武田家・上杉家』
そこの後に続くのが北条家と朝倉家辺りが妥当である。今は武田家と上杉家が争っているが、どちらも本気の戦ではない。
それは周りの国にも配慮しなくてはならないからだ。現状は互いに牽制し合い平行線を辿っている。
「それに嫌気が差したのが今川家ですね?」
「そうじゃ。最近の今川家は大きく動いた。知っての通り昨年の三河への侵攻じゃ。」
だが…蓋を開けると、東三河を手に入れただけ。織田家の裏切り、しまいには信長の初陣で兵を多く失った。
「今川は織田家を相当に恨んでいる。武力だけではなく知略までも使い始めた。まぁ…今は大きく動けない理由もあるが。」
そこで信長は思い至る。
ある作戦を…。
「道三様。提案がございます。」
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結局、道三と信長は二時間程話し込んでしまう。
「大体は纏まったかの。おお…そうじゃ。肝心の帰蝶にも顔を見せてやれ。それが終われば今日は宴じゃ。」
すっかり忘れていたのを隠しながら信長は答えた。
「…はい。」
もちろん…待っている政秀達は、気が気ではないのは言うまでもなく、時間は過ぎていく。




