第33話
古渡城から帰還する前夜。
政秀に呼び出された信長は、父のいる部屋まで案内された。
2人の重い雰囲気から何かと思っていたが、話の内容は“帰蝶“との縁組。
「いいですよ。元服を終えた時から、そういった話は遅かれ早かれ来ると思ってました。それに現状を見ても美濃と結び付きを深めて損はありませんし。」
信長は2人とは対極的に軽々と答える。
「いいのか?」
「ええ。逆に断る理由が思いつきません。それに縁組の話は道三から持ちかけてきた…であっていますよね?政秀からするとは思いませんし。」
斉藤道三は娘を大切にしている事は知っている。それに斉藤家から織田家に縁組の話をするという事は…“織田家を認めている“と言っているのと同じである。
「織田家が今川と戦をしたのは周りの国なら誰もが知っている事です。…目を付けられている事も。それなのに縁組の話をするのは、斉藤家も今川家を良く思っていない証拠でしょう。信用ならない家ですけど、今川家が健在な限り裏切る可能性はゼロに近いと思いますよ。織田家が無くなれば、次は美濃の斉藤家になりますからね。」
「うむ。信長の言う通りだ。私も同じ考えでいたのだが、斉藤家は因縁の相手でもある。」
「2人の言いたい事は分かります。でも大丈夫です。私情を挟み織田家を危険にさらすほど馬鹿ではありません。」
尾張にとって1番強大な敵は“今川“。
いつの日か必ずや大戦になる。
その時までに味方は多い方がいい。
「あっ!?でもひとつだけ聞いてもらいたい事があります。」
信長は不気味な笑みを浮かべる。
2人は嫌な予感しかしなかった。
「斉藤道三と一度会ってみたいですね。帰蝶との縁組の返事をするがてら会いにいきましょうか。向こうも本人が来るとは思いません…きっと驚くでしょうね。怖い顔で知られる道三は一体どんな顔をするのか…。」
「はぁ。あとは任せた政秀。」
「そんな…。それはあまりにも。」
これで織田家が取る方向性は決まった。
中と外も強化して、来たる大戦に準備する。
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〜駿河ノ国〜
今川義元。
昨年。
織田家裏切りにより、予定していたよりも領地を拡大出来なかった今川家。
「京へ上洛するには、織田家が邪魔になる。覚悟をしておく事だ…もう容赦はしない。」
この時、今川家は松平家を囲い込みに動いていた。軍は動かさずに。
昨年の戦で想定よりも兵を失った今川軍は表立っては動く事を避けたのである。それでも徐々に今川家に屈していく。それ程に戦力の違いが明白なのである。
「1年じゃ…まずは東三河と、その周辺を“全て手中に収める“。そして…その後…西三河の安城城を返して貰うぞ。信秀!!」
それは静かに…そして確実に迫っていた。
織田家にとっては最強最悪の敵として。




