第31話
〜天文17年(1548年)1月〜
今川家との戦が終わり、戦後の処理を終えて半年が経った。その間は睨み合いが続いていたが、予想通り大きな戦は行われなかった。
そして…今年も年が明ける。
信長は新年の挨拶の為に数人の家臣を連れて古渡城に登城していた。
「信長。昨年は元服に初陣と怒涛の1年だったな。特に初陣は見事であったぞ。」
「はい。父上。」
この場には父の信秀と信長の2人。色々と近況を報告した後に信秀がある人物を部屋に呼ぶ。
「入れ!!」
「はっ。失礼します。」
信長は声で誰だか気が付いた。
そして、同時に話の内容も予想が付く。
「お久しぶりです。信長様。」
頭を下げながら挨拶したのは、“竹千代“。最初に来た頃よりも、堂々としている姿を見て信長は笑った。
「久しぶりだな。どうやら父上達に良くしてもらっている様子。」
(そうか。雰囲気から大事な話があると思っていたが、現在…人質としてここにいる。“竹千代“の処遇についてか。)
竹千代は、去年の今川家との戦で松平家が裏切らないようにと人質として連れて来た。
結果…“効果“はあった。
しかし…いつまでも人質として置いておくのも可哀想なのもまた事実。竹千代は、まだ6歳と幼い。
だが…現状は、竹千代を戻すのを躊躇っているようだ。
今川家は松平家を取り込もうと動いているのは皆んな知っている。竹千代を今すぐに戻せば松平家の全体が今川家に付くのは目に見えている。そうなれば織田家は危うい。
先の戦で今川家は織田家に思う所はあるだろうが、唯一の救いは今川家にとって織田家の優先度が低い事と派手に動くと武田家や北条家の件もある事だろうか。
「信長よ。分かっていると思うが、竹千代をすぐに松平家には戻せない。だから竹千代に聞いてあげられる希望を叶えたいと思ってな。そしたら信長と話をする機会を願った為に、こうして話をする場を作ったのだ。短い時間だったが剣の稽古など見た仲なのだろ?本当はもっと早くと思っていたのだが人質として扱う手前…自由には行動出来んからな。」
そういう事か。どうやら新年の挨拶に合わせて、この場を設けたようだ。
「竹千代。離れてからも稽古は続けていたか?」
「はい。もちろんです。」
「そうか…。それならば表へ出よ。稽古を付けてやる。」
信長はそう言って中庭へと移動する。
無言のまま木刀を構える2人。
竹千代は子供用の短い木刀を持つが、信長は大人用の木刀である。
「さあ。どこからでもかかってこい。」
「はいっ!!行きます。やぁー!!」
竹千代は力を込めて踏み出すと、信長に向かっていった。
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稽古は時間にして、1時間程続いた。
竹千代は大の字になって息が乱れている。
「はぁ。はぁ…。やっぱり信長様は凄いです。これだけ動いても息ひとつ乱れていない。」
「はははっ。厳しい鍛錬しているからな。まだ数ヶ月しか本気でやっていない竹千代と同じはずがないだろ?でも…このまま鍛錬を続けていけば、“故郷“を守れるぐらいの男になれると私は思うぞ。」
「……。はい。」
「そして竹千代よ。織田家と松平家の過去は、ある程度なら知っておるだろ?確かに確執はあるかもしれん。でもな…こうして剣を交えて、笑い合うことが出来る。誰が何と言おうと私は竹千代の“味方“だ。」
「……。」
「苦しい時、挫けそうな時は私を呼べ。必ず助けにいってやる。まだ幼いというのに…1人で良く頑張っているな。」
竹千代は手で顔を隠している。
涙を見せないようにと。
そんな光景を見て信長はつい微笑んだ。
「……1人ではありませんでした。信長様や信秀様がいたからこそ頑張ってこれました。次に会った時には、もっともっと強い男になっていますから。」
「そうだな。楽しみにしているぞ。」
信長は時間があれば竹千代の事を気にかけた。
2人で過ごした時間は短いものであったが、竹千代にとっては人生を変える程の影響があったのは言うまでも無い。
連載再開します♫
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