第29話
もの凄いスピードで放たれた矢が胸に突き刺さる。指揮官と思われる者が一矢で前のめりに倒れると、周りの者達は更に混乱した。
「よし。最後の仕上げといこうか。私に続けぇー。これより敵を追い立てる!!」
信長が率いる部隊は比較的戦闘に長けた者達で構成している。信長が先頭に立ち、仲間達に指示を出す。
「必ず複数で当たれ!!逃げる敵は無視していい。深追いはするな!!」
「「「はっ!」」」
一部の者は逃げられないと判断して、中には向かって来る者もいた。
そういった者を信長達が対応して、残りは引き続き弓で攻撃。
数十分もすれば辺りに敵はいなくなった。
2000人いた今川兵のうち、200名程を無力化に成功し、残りは散り散りになって逃げていった。
(さてと…考えうる最高の結果になった訳だが、まだ喜ぶには早いな。)
「鷹!!」
「ピーイィー。」
鷹を飛ばして敵兵の動きを空から確認。1番は北上に逃げている兵が多い。
「追撃するか?いや…ここは…欲を出すべきではないな。既に目的は達した。」
今の時刻は夕方。
あと1時間もすれば日も完全に沈む。
無茶をする場面ではない。
それにバラバラになっているとはいえ、いまだに人数は敵兵の方が多いし、夜の戦闘になれば不安も残る。
それに今川兵達の食料の大半は火矢によって燃えて無くなった。
立て直して再度侵攻するのは不可能に近い。
「信長様。」
「信長様。」
「信長様。」
そんな事を考えていると、見知った顔の者達が名前を呼んでいる。
(あぁ。そうか…私が言わねばならんな。)
「この戦!!我々の”勝利”だぁー!!」
「「「おおおぉぉー!!!」
そして…鷹を使い撤退を確認すると、その日はそのまま野営して、翌日には那古野に帰陣。見事な奇襲攻撃で勝利を収めた。
父である信秀はもちろん。政秀をはじめとする家老達は信長の戦のセンスには舌を巻いた。
それと同時に、若き主君を心配していた政秀は、無事に帰還出来て、ほっと胸をなでおろした。
後に”吉良•大浜の戦い”と呼ばれる信長初陣の戦は、今川軍2000を、わずか800の兵で撤退させるという結果で幕を下ろす。
織田信長の名が広まるキッカケになったのは、言うまでもない。




