第2話
吉法師が暗殺者に狙われて３日が経過した。
「若様。報告があります。」
政秀が、いつになく真剣な表情だ。
こういう時は悪い内容だと相場は決まっている。
「先日の暗殺者が情報を吐きました。」
「ほぉ。良い内容ではないか。して…誰が依頼を？」
「『斯波氏』の者だと判明しました。」
「予想外の人物が出てきたな………少し待て。情報を整理する。」
〜斯波氏〜
越前・尾張・遠江などの守護を世襲したが、越前は守護代、朝倉氏に、遠江は今川氏に奪われ、残りは尾張だけとなる。
「そうか。斯波氏の代理で尾張を納めているのが織田氏、私の父…信秀は分家ではあるが、すでに本家を上回る勢力を持っている。主君である斯波氏も看過出来ないと判断したか。今回の戦…嫌な予感がするのだが？どう思う政秀。」
「斯波氏が我々に焦り、こういった状況になる事は予想していました。最初に狙われるのが若様になるとは思っていませんでしたが。だからと言って戦中の信秀様を狙う事はしないでしょう。そこまで愚かな行為に及ぶのは流石にないかと。」
「それもそうだが…父上が心配だ。」
「信秀様なら大丈夫です。こういった事など何度もありましたから。まずは我等も気を引き締めましょう。まぁ若に刺客を送り込もうが、返り討ちに合うのは確定です。逆に刺客が可哀想ですな。ハハハッ。」
「そこは守ると言ってくれ。一応は城主なんだが？」
「何を言いますか。若は、既に私が知る誰よりも強いですよ。」
（しかし主君である斯波氏の者が動くとは。刺客を捕らえた所で証拠にもならない。私だけ狙われる分には大丈夫だが、これからどうなるか。）
それから暗殺者は自害したとの報告を受ける。政秀が受け持った件だ。おそらくは…そういう事だろう。
そして内部に案内した内通者だが、すぐに分かった。
襲われた次の日に、城内で働く女性の遺体が発見され、斯波氏との繋がりがある事が分かった。
これにより城内の警備を強化する案が浮上するのだが、吉法師はこれを却下。
逆に人が増えると怪しい者の感知がしずらいとの事。
これには残った3名の家老達も笑うしかなかったと言う。
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天文13年9月20日。（1544年）
信秀が率いる軍25000は、美濃へ侵入し、方々に放火をして回りながら、斉藤道三の居城、稲葉山城近くまで進軍していた。
「ここまで…あまりにも簡単すぎる。斉藤道三が何か仕掛けるなら、そろそろのはず警戒を怠るな。……各将に伝えよ。これからは更に慎重に進軍するとな。」
「はっ！」
信秀はそう伝えたが、朝倉孝景、土岐頼純の両指揮官は早く斉藤道三を討ちたくて勝手に動き出しそうだ。
（これだから連合軍は難しい。気持ちは分かるがな。）
（朝倉孝景は土岐頼純を美濃守護とする為に。）
（土岐頼純も斉藤道三に美濃を奪われて追い出された身。1番恨みも大きい。）
（これらを加味しても、斉藤道三を討つ方がメリットはあるからな。だから援助したのだ…失敗は許されない。）
「2人共。気持ちは分かるが、勝手な行動を取るというなら、私達、織田はこの戦から手を引く。分かったな？」
信秀は2人に釘を刺したのだった。
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〜稲葉山城〜
斉藤道三。
「来たか。ずいぶん慎重に進軍してるの。それで『斯波氏』から連絡はあったか？」
「はい。作戦は順調とのこと。しかし織田信秀の息子の暗殺には失敗した様です。」
「そうか。那古野城には４人の家老がいるからな。して土岐頼純はどうだ？こちら側に寝返らせそうか？頼純の性格は分かっておる。ワシが言った事を伝えれば確実に話に乗るじゃろう。」
「返事はまだの様です。」
「分かった。念の為あれを用意しておけ。」
裏では斯波氏と斉藤道三が暗躍していた。それに気付かずに織田信秀率いる軍は稲葉山城の城下町まで進軍していた。
ここまで兵をほとんど減らす事なく順調に見えていた美濃への遠征も、わずか１日で苦境に立たされる事になるとは誰も思っていなかった。
