第22話
信長は身体強化を発動すると同時に地面を蹴る。その強化されたスピードは、並の人間であればついていける速さでは無い。
ガキンッ!!
しかし…暗殺者は受け止めてみせた。
(やはり…これぐらいならついてこれるか。)
今の出力は体感で5割。
身体強化の強化出力を上げれば、身体能力をもっと上昇させられる。そうすれば有利に運べるが、信長は上げることはしなかった。
理由は2つ。
ひとつは身体への負担。ここからは上げれば上がるだけ身体が悲鳴を上げる為、これからの事を考えると使いたくないのが本音。
ふたつ目は、暗殺者のトップの実力に興味があった。この世界に来てから、おそらく1番と言える実力者。能力任せのゴリ押しで簡単に終わらせては勿体ない。
(”戦の無い世の中”を作る為には、今後もこのような機会は必ず訪れる。それに…暗殺者の技術に興味があるしな。)
一方で暗殺者は顔には出さないが、子供離れしたパワーとスピードに内心では驚いていた。
(パワーは互角。スピードはコイツの方が上か。面白い…ピリつくこの感じは久しぶりだな。)
鍔迫り合いになり、お互いの顔が見える距離。2人ともなぜか笑っていた。
それは強者に出会えた事への嬉しさ、感謝、色々な感情が見て取れる。
ガキンッカキンッ!!
ガキンッカキンッ!!
暗殺者はその場から動かず、信長の連続攻撃に最短距離で防御している。
隙があれば攻撃に転ずるつもりのようだが、隙が見当たらず一方的な展開になりつつあった。流石に痺れを切らして暗殺者はある行動をとる。
ボンッと地面に丸いモノを投げつけた。
それを見て信長は距離をとる。
(粉状のモノが飛び散ったな。毒?いや…違うな。毒なら自分の近くでは使わないだろう。範囲も狭いしあまり気にしても仕方ないか…。)
実際の所、この粉は、目や鼻に入ると強烈なかゆみを引き起こすだけ。
「つえーな。もう近づけさせねーよ。」
シュンッ!!
そう言って暗殺者はまた何かを投げつける。
今度は信長に向かって。
カキンッ!!カキンッ!!
それを短刀で防御するが、信長は初めて見る武器に興味津々のよう。
(これは聞いたことがある。手裏剣と呼ばれる投擲武器だな。)
星形の形状で回転しながら飛んでくる。殺傷能力は高い訳ではないが、身体のどこかに当たればそれだけで動きは鈍るだろうし、何より簡単に使用できる。
「面白い。他にはどんな武器を使うんだ?見せてくれ!!」
「ちっ…少しの明かりはあるとはいえ…簡単に防ぎやがって。望み通り見せてやるよ…1番得意な武器をな。次はコイツだ。」
そう言って鎖の先に分銅が取り付いた武器を服の下から取り出した。
(見た所、遠心力を利用して先端の分銅での殴打。主に中、遠距離武器か?)
ブンッブウォンと音を立てながら、暗殺者はその武器を振り回す。
「これは”分銅鎖”って言う武器だ。オレが使うのは通常より長いモノだがな。」
信長は近づけないでいる。
それは単純に間合いを見極められないから、両手で持つ鎖、そして腕を伸ばせば間合いも、かなり伸びるであろう。それを考慮して信長は6メートル…この距離で一線を引いた。
ブォンブウォン!!
暗殺者が徐々に距離をつめると、信長は同じ距離を離れる。分銅鎖の振り回す音だけが鳴り響いていた。




