第21話
斯波義統。
斯波氏14代当主 。
父は尾張守護でもあった斯波義達である。
「命だけは…助けてくれ。」
(まさか…こんな男だったとはな。)
信長は話には聞いていたが、実際に会うのは初めて。命乞いする姿を見て…なんて情けない男なのだろうと、熱が冷める感じがした。
「ここで逃したとして、また命を狙うのは目に見えている。今までもそうだっただろ?それにタダで見逃すと思うか?少しは考えてモノを言え。見逃して貰いたいなら、こちらに利がある条件ぐらい提示しろ。」
本音を言えば、今は殺したくはない。1番の理由は斯波氏の当主が亡くなれば跡目争いが起きるのは目に見えているから。今の時期に尾張内での争いは出来るだけ避けたい。
「もう…織田には一切手は出さない。」
「それだけか?そんな事は当たり前だろ。」
これだけしても自分の状況が分からないのか、ギロリと睨むと情けない声を上げる。
「ヒッ……。」
「はあ…。織田信秀とその周りの者達に危害を加えるのは一切禁止。そして…今後は政に口は出すな。大人しくしていれば、こちらから何もするつもりはない。次破るのであれば容赦はしないがな。分かったな?」
義統はコクリッと頷く。本当に分かっているのかと言いたくなるが、信長はある気配を察知した。
「2人とも新手だ!!」
突然現れた殺気。
信長の言葉に反応して身構えると外から短刀が2本飛んできた。
カキンッと政秀も恒興も刀で対応。すぐに外へ飛び出す。
「へーあれを気付くか。」
「何者だ?」
既にいた護衛達は全員無力化している。
となると…外に出ていた者になるが、見た目からして暗殺者の格好をしている。
「んー。何者と聞かれても名前は無いな。ただ言えるのは、私が暗部の頭だっていうことだ。」
信長はこの時、肌で感じていた。
この世界の出会った中で一番の実力者という事を。
「2人は手を出すな。義統の側に。こいつは私が相手をする。」
政秀と恒興も感じていた。この男の異様な雰囲気と、その強さに。
2人は足手まといにしかならないと、命令に従うしかなかった。
「へー。お前が相手か…。身長と声質からして10代前半かそこらか?でも…お前…強いな。相当やるだろ?」
「で?それでなんだというんだ?」
「そうか…。よく見たらその短刀…。部下のモノだな。待ち合わせ場所に現れないから、報告に戻ってみれば…お前らがやったのか。」
「そうなるな。黙って殺されるほど、お人好しじゃないんでね。」
信長が短刀を構えると、暗殺者も短刀を構えた。
距離は10メートルは離れている。
これは殺し合い…審判がいる訳でもないし、開始の合図があるはずもない。
(身体強化!!発動!!)
最初に動いたのは、信長だった。




