第11話
名を”織田信長”と改め、無事に元服を果した信長であったが、母と弟との関係をなかなか改善出来ずにいた。
「はぁー。次にゆっくりと会えるのは、いつか分からん。今のうちに関係を修復したいと思っていたが…難しいものだな。誰か良い案はないか?」
元服の儀がある為に家老達と恒興などは連れてきていたので、それとなく聞いてみるが、良い意見は出てこない。
そもそも信長が歩み寄ろうとしても、向こうが逃げるのでは差は縮まらないのだが。
お茶に誘うも失敗。
散歩しようにも失敗。
剣術の稽古に誘おうにも失敗。
結局、そのまま帰還の日になってしまう。
「父上。では戻ります。」
「ああ。既に政を任せていたから何も心配はしていないが…。気になる事がひとつ…”今川”の動きが怪しい。それとなく気を付けておけ。」
「分かりました。」
そして信長達一行は古渡城を後にしたのである。
帰る信長の背中を見る弟の勘十郎。
(母上が言う事はいつも正しい。兄上が当主になれば織田家は”滅ぶ”といつも言っている。だから私が必ず当主にならないといけないんだ。)
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その日の夜。
那古野城に戻った信長達。
その場には林秀貞、平手政秀、内藤勝介の家老達もいた。
「父上が言っていた”今川”だが…。確か…今川義元は去年(1545年)争っていた北条氏康と武田信玄と一時和睦したんだよな?」
「はい。その通りです。」
「それならば…和睦が成立している今、東側の憂いを取り除かれたのならば今川の狙いは…”西の三河”が妥当だと考えるがどう思う?」
「それが妥当かと。しかし信秀様の言い方から察するに…今川が動くという確実な証拠はないのでしょう。」
「三河は松平家が広く治める地。私達織田家と良好な関係といっても…今川が攻めてきたのなら…父上はどう動くのか。」
もし三河に攻めたのならば今川が勝利する可能性が高い。
「はあ。最悪を考えると…三河が落とされ…次は尾張か…。また厄介な相手だな。」
表情を曇らせた信長であったが、まずは情報収集と動いたのであった。




